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パートナー制度
しおりを挟む「ボウズ、お主タグはどうした?」
三人で作業台を囲んだところで、じーさんが唐突に聞いて来た。
「タグ?」
「ハロルドと揃いで付けとるじゃろう?」
「何の話だ?」
「ほら、こーゆーのよ。もってるでしょう?」
じーさんの横に居たアリスはそう言って、自分の首元のチェーンを摘んだ。細いチェーンの中央には、個人情報を彫った金属のプレートがぶら下がっている。
あぁ、ドッグタグか。
「持ってない。第一部隊は任意だって聞いた。邪魔だから俺は作らなかった」
「え?待って、待ってよ。ハロルドはつけてるわよね?」
ハロルド?
「そう言えば付けてるな。だから任意だろう?」
何をそんなに驚いてるんだ?
じーさんとアリスは目を見合わせた。
「ちょっと、坊や、そこに座って」
「はあ?」
「ワシからも確認したい事がある。ひとまず座らんか」
点滴の説明をしようとしていたじーさんは、点滴スタンドを傍にやって、イスに腰掛けた。そして、アリスもその隣にイスを持って来て座った。
しょうがなく、手近にあったイスを引っ張って俺も座る。
「お主、ハロルドからパートナー申請の話はされたか?」
「パートナー申請?何だそれ?」
聞き返す俺に、二人はやっぱりという顔をする。
「あやつ、勝手に申請書を出しおったんじゃ」
「どうしてそんな事したのかしら。合意がなきゃマズイって解ってるはずだわ」
「おい、何なんだよ」
自分だけ話がわからなくて、段々イラついてきた。
「そうね、説明するわ。まず…」
自分の首からチェーンを外してタグを俺の目の前に置く。
「第一部隊では、タグ着用は任意よ。それは間違ってない。でもね」
アリスはそこで、一呼吸した。
「自分のパートナーが部隊内にいる場合は別よ」
「アリスの言うパートナーとは、訓練でペアになるという意味ではないぞ?
もちろん、ルームメイトという意味でもない」
「よく聞いて坊や。こんな風に表には、自分の情報を刻印するの。それで裏には」
アリスはタグをひっくり返す。
「自分のパートナーの情報を刻印する。
万が一、任務先で自分に何かあった時に、確実にパートナーに連絡が届くように」
「アリスのタグの裏にはシンシアの情報が。シンシアのタグの裏には、アリスの情報が彫られておる」
「これは勝手に出来る事じゃなくて、対になるタグを作りたい隊員は、申請書を出すの。その申請が受理される事で、パートナーには優先して情報も与えられるし、どちらかが負傷した時は、もう片方の休暇が認められる。今回みたいにね。
これが、パートナー制度よ」
「ハロルドからは、お主がパートナーである、という申請書が提出されて、班長の審査も通っておる」
「え」
「やはり、知らなんだか。それがあったから、今回ハロルドのケアをボウズにさせるつもりじゃったんじゃが…」
じーさんは腕を組んで眉をひそめる。
「ねぇ、坊や。本当にハロルドから、お揃いでタグつけようって言われてないの?」
アリスは真剣な眼差しで俺を見た。
俺は、俺は一度に入って来た情報が多すぎて頭の中が整理しきれない。
「ねぇ、よく思い出して。
この部隊では、タグをお揃いにしてくれ、って言葉は、プロポーズと一緒の意味なのよ?」
ーは⁈
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