誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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アリスが第一部隊にいる理由

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「もぉ~!信じられないっ、士官様ったら!」

 医務室にアリスの叫び声が響いた。

「わかってるわ、わかってるわよ⁈アタシは戦闘員じゃないし、任務には同行出来ないわよ!でも!」

 荒ぶるアリスを見て、室内で作業していた白衣の連中は、コソコソと部屋を出て行く。

「アタシの可愛いシンシアが、どーにかなっちゃうかも?って時に!このアタシに一言もないって、どーゆーコトなのかしら!!」

 ぶんぶんと髪を振り乱しながら、アリスはバシバシ壁を叩く。

「やめんかアリス。深夜じゃぞ」

 ベッドに誰もいなくてよかったわい、と言いながら、じーさんが俺を振り向く。

「手を洗え、ボウズ」

 ちょいちょいと壁際のシンクのような場所を指差す。
 壁には『正しい手洗い』と書かれたポスターが貼ってあった。
 この通りにやれって事か?

「良いかアリス。お主がそんな性格じゃからシロウも言えんじゃ。それでも、パートナー特権で看病させてやるんじゃ。
 さっさと手を洗ってこっちにこい」

 じーさんは部屋の真ん中で、テキパキと作業台に物品を並べていく。

 渋々、俺の隣で手を洗い始めたアリスは、大きく息を吐く。

「アタシが第二部隊にいたら、あの子に怪我なんかさせないのに」

 その言葉に、俺はハッとした。
 自分もハロルドと一緒に行ければ…と、俺も思ったから。

「自業自得じゃ。お主がシンシアの上司の手足を折らなんだら、今も同じ部隊に居れたんじゃからな」

「手足を、折った?」

 華奢に見えるアリスの体をマジマジと見た。

「そうじゃ。その暴力事件のせいで、第一部隊に移動になったんじゃ。
 せっかくシロウが、シンシアと同じ第二部隊に配属してやったのに」

「だあってぇ、あのクズ!部下が危険な目に遭うような指示しか出せないんだもの。許せないわよ。みーんな誰かの大事な子なのに。
 まぁ、自分のやり方に意見したシンシアを、アタシの目の前で殴ったのが、運の尽きね」

 ペーパータオルで入念に手の水分を拭き取るアリスの顔には、少しの後悔の色もなかった。

「何だかアンタとは、仲良くなれそうだ」

「あら、そう?よろしくね」

 アリスはいままでの猛りっぷりが嘘のように、にっこり微笑んだ。
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