誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

文字の大きさ
上 下
61 / 100

アリスが第一部隊にいる理由

しおりを挟む


「もぉ~!信じられないっ、士官様ったら!」

 医務室にアリスの叫び声が響いた。

「わかってるわ、わかってるわよ⁈アタシは戦闘員じゃないし、任務には同行出来ないわよ!でも!」

 荒ぶるアリスを見て、室内で作業していた白衣の連中は、コソコソと部屋を出て行く。

「アタシの可愛いシンシアが、どーにかなっちゃうかも?って時に!このアタシに一言もないって、どーゆーコトなのかしら!!」

 ぶんぶんと髪を振り乱しながら、アリスはバシバシ壁を叩く。

「やめんかアリス。深夜じゃぞ」

 ベッドに誰もいなくてよかったわい、と言いながら、じーさんが俺を振り向く。

「手を洗え、ボウズ」

 ちょいちょいと壁際のシンクのような場所を指差す。
 壁には『正しい手洗い』と書かれたポスターが貼ってあった。
 この通りにやれって事か?

「良いかアリス。お主がそんな性格じゃからシロウも言えんじゃ。それでも、パートナー特権で看病させてやるんじゃ。
 さっさと手を洗ってこっちにこい」

 じーさんは部屋の真ん中で、テキパキと作業台に物品を並べていく。

 渋々、俺の隣で手を洗い始めたアリスは、大きく息を吐く。

「アタシが第二部隊にいたら、あの子に怪我なんかさせないのに」

 その言葉に、俺はハッとした。
 自分もハロルドと一緒に行ければ…と、俺も思ったから。

「自業自得じゃ。お主がシンシアの上司の手足を折らなんだら、今も同じ部隊に居れたんじゃからな」

「手足を、折った?」

 華奢に見えるアリスの体をマジマジと見た。

「そうじゃ。その暴力事件のせいで、第一部隊に移動になったんじゃ。
 せっかくシロウが、シンシアと同じ第二部隊に配属してやったのに」

「だあってぇ、あのクズ!部下が危険な目に遭うような指示しか出せないんだもの。許せないわよ。みーんな誰かの大事な子なのに。
 まぁ、自分のやり方に意見したシンシアを、アタシの目の前で殴ったのが、運の尽きね」

 ペーパータオルで入念に手の水分を拭き取るアリスの顔には、少しの後悔の色もなかった。

「何だかアンタとは、仲良くなれそうだ」

「あら、そう?よろしくね」

 アリスはいままでの猛りっぷりが嘘のように、にっこり微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ルームシェアは犬猿の仲で

凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。 新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。 しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉ 掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。 犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...