誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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おっさんからの呼び出し

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 きっとハロルドに関する話だ。
 そう考えただけで、自然に体に力が入る。

 どこかで見つかった?
 無事だった?
 それともー

 頭を振って、嫌な想像を追い払った。
 背筋を伸ばし、顔を上げておっさんの部屋の扉を開ける。



 部屋には先客が居た。

 入ってすぐのソファに医者のじーさん。
 ティーバックの入ったカップにお湯を注いでいる。

 そして、おっさんのデスクの上に不機嫌そうなアリスが腰掛けている。おっさんを睨みながら。

 俺はデカイ扉を閉めて、そのまま扉に寄りかかった。

「来たか」

 チェアにもたれて、アリスに背を向けているおっさんが、横目でチラリと俺を見た。 

 話をするのは、殴り合いのケンカをした時以来か。

「お前には明日から一ヶ月間、訓練から外れてもらう。私からの話は以上だ。部屋に帰れ」

「あらヤダ士官様、それで終わり?坊やにもちゃんと説明してあげて!」

 アリスが憤慨したように、おっさんに抗議する。

「そうじゃぞ、シロウ。部下に説明するのもお主の仕事じゃろ」

 ずずっと、緑色の何かをすすりながら、じーさんも加勢した。


「おい、おっさん。ハロルドに何かあったのか?」

「ネズミの癖に鼻の利く」

 おっさんは忌々しげに吐き捨てて、俺に向き直った。

「ハロルドとは数日連絡が取れなかったが、先程無線が繋がった」

 連絡が、取れたんだ。 

 それを知っただけで、俺の身体の緊張が解けていく。

「ハロルドには、第二部隊所属のシンシア・ロードライドの救出を任せた。
 ここにいるアリスのパートナーだ。
 ハロルドの交渉は成功し、輸送機はシンシアを乗せてコチラに向けて飛行中だ、ただ」

 ーただ?
 ドキリ、と心臓が跳ね上がる。

「シンシア、ハロルド共に負傷していて、治療と休養が必要だと判断した。
 お前には、ハロルドの休養中の介助をさせる。その為に訓練から外す」

 ー休養が必要な程のケガ。
 でも。

「生きて帰って来るんだな?」

 念を押す俺を、おっさんが睨み返す。

「私は、いままで一人たりとも部下を死なせた事などないが?」

 俺達に漂う不穏な空気を祓うように、じーさんがパシン!と手を打った。

「話しは終わったの。では二人ともついて来い。医療器具の使い方に慣れてもらわんとな」


 三人で、医務室に通じる深夜の廊下を歩く。
 じーさんの曲がった背中を目で追いながら、俺はそっと息を吐き出した。

 ハロルドと連絡が取れなくなったと聞いた日から、ずっと胸の辺りが苦しかった。

 訓練中は何ともないのに、部屋で一人になるとダメだった。

 どうしてもハロルドの事を考える。

 胸が苦しくて痛くて、身の置きどころがなくなるような切なさだった。
 初めて体感する感情に、自分でもワケが解らなかった。

 でも、帰ってくる。帰って来るんだ。

 良かった、ハロルド。

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