59 / 100
消息不明
しおりを挟むハロルド達と連絡が取れなくなった。
それを聞いたのは、ハロルドが出発してニ日が経った頃だ。
食堂で夕食を摂っていたら、俺の向かいにクマちゃん班長が座った。
「レイ・ダヘンハイム、そのまま聞け」
クマちゃんは、フォークにクルクルとパスタを巻き付けながら、静かに話し出した。
「ハロルドの乗った輸送機と連絡が取れなくなっている」
俺は、とっさに返事が出来なかった。
「無線機の不調か、輸送機自体に何かあったのかもしれない」
「……なにかって」
「詳しくは言えないが、相当量の爆発物を積んで飛んでいる。それを嗅ぎつけた奴等からの襲撃、墜落。
可能性だけで話すなら、いくらでも不安要素はある。我々の仕事はそう言う仕事だ」
話しながらも、クマちゃんは豚肉のソテーを平らげ、スープカップに口を付ける。傍目には、こんな深刻な話をしてるようには見えないだろう。
「ただ、今のところ近隣の国で航空機の事件事故の情報はない」
俺は喉の奥が渇いて、そうか、と返すのがやっとだった。
「他の者にはまだ言うな。
今、お前に話している事は、私の独断で伝えるべきだ、と判断した事だ」
「俺だけ?……なんで」
「私がお前の立場だったら、例え不確定であっても、パートナーに関する情報は欲しい。だから話した」
パートナー。
俺達の関係を『ルームメイト』じゃなく『パートナー』だと、クマちゃんは言った。
「もし、不安感が強いようなら医務室の隣にあるカウンセリングルームを訪ねるといい」
カウンセリング?俺が?
ナプキンで口を拭きながら、静かにクマちゃんは続けた。
「我々にこうして食事が提供されるのと同じ事だ、ダヘンハイム。
医務室もカウンセリングルームも、利用するのは我々に与えられた当然の権利だ。私も時々使っている」と。
何も恥ずかしい事ではない、と言われた気がした。
クマちゃんが席を立った後、俺は皿に残っていたソテーを口に押し込み、スープで流し込んだ。
それから急いで部屋に帰った。
帰ったってハロルドは居ないのに、少しでも早く、ハロルドの匂いの残る部屋に帰りたかった。
ドアを閉めてハロルドのベッドの上で膝を抱える。
ハロルド。
俺は、いつも通り訓練をこなして食事をして、眠れないながらも夜にはベッドに入っていたんだ。
アンタが大変な目に遭ってるかも知れないのに。俺は『いつも通り』を過ごしてた。
そんな自分に無性に腹が立った。
「アンタどこにいるんだ」
こんな…ただ待ってる事しか出来ない。
「こんなの嫌だ」
俺がもっと早く入隊してれば。
俺がもっとアンタに釣り合う立場だったら。
どこにだって、一緒に飛んで行けたのに。
何の追加情報もないまま、さらに時間は過ぎた。
そして、ハロルドが出発してから五日目の夜。
俺は士官室に呼ばれた。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)
ルームシェアは犬猿の仲で
凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。
新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。
しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉
掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。
犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。

あふれる思い
うさのり
BL
「願い」と同じ緑稜学園が舞台の学園ファンタジーBLです。今回も学園生活は出てきません。
それと、「願い」の二人は出てきません。彼らの二つ年下の後輩がカップルです。
この話で完結しているので、「願い」を読まなくても大丈夫です。
ちゃんとハッピーエンドですが、主人公たち以外が、少し切ないかもしれません。
植松拓海は疲れていた。部活で疲れているのに毎晩体力の限界に挑戦させられているからだ。
そんな中、恋人の藍田翔が変なことを言ってきた。
「もし、俺たちが入れ替わったら・・・面白いと思わないか?」
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今回は全10話です。
今回もかなり前に書いた作品で、手直しをしながら思わず恥ずかしくもなりました。
誤字脱字などあるかと思います。お教えいただければ嬉しいです。
いつも通りに拙い作品ですが、気に入っていただければ幸いです。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。

僕の選んだバレンタインチョコレートはその当日に二つに増えた
光城 朱純
BL
毎年大量にバレンタインチョコレートをもらってくる彼に、今年こそ僕もチョコレートを渡そう。
バレンタイン当日、熱出して寝込んでしまった僕は、やはり今年も渡すのを諦めようと思う。
僕を心配して枕元に座り込んだ彼から渡されたのはーーー。
エブリスタでも公開中です。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる