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帰って来たら
しおりを挟む第二部隊所属のシンシアと、シンシアの弟であるトロア。
そして第一部隊にいるサーシャ、ダンテ、アリス。
五人との付き合いはもう二十年近い。
まだ子供の頃、家に居場所が無くて夜の旧市街をフラフラしてる時に出会った。
それぞれが家庭に問題があり、どうせ行き場がないなら犯罪に巻き込まれない様にと、自衛も兼ねて一緒に過ごす時間が増えたのだ。
ある時俺が、将来は特殊部隊に入る事が決まっていると話すと、自分達も入隊すると言い出した。衣食住が確保出来て給料も出るなんてサイコーだ、というのがアイツらの主張だった。
クマちゃん班長が持ってきた情報はこうだ。
シンシアは部下数名と供に、隣国で起こった、副大統領の襲撃事件を調べる過程で犯人達に拘束された。
シンシアが人質として残る事を条件に、部下達は解放されたが、それぞれ暴行を受け重症で、第二部隊の医務施設では対応出来ずに、中央都市にある病院に移送中。
そんな場所に残っているシンシアも相当痛めつけられていると予想出来る。
生きるか死ぬかの時に、顔が見たいと思う相手はきっとコイツらだろう。
アリスは戦闘員ではないから連れて行けないが、サーシャとダンテの同行の手筈を整え、第二部隊に連絡してトロアに輸送機ごと、コッチまで飛んで来てもらう。
さらに、交渉相手が欲しがりそうなモノを、弾薬庫からリストアップしていく。
出発準備優先で訓練から外れている俺と、いつも通りに朝から訓練をこなしているレイは、見事にタイミングが合わなかった。
朝の訓練時に班長から、俺が不在になる旨は伝えられてはいるだろうが、直接会う時間を見つけられないまま、気付けば辺りは暗くなっていた。
山の上にある基地の離発着場が、ライトで煌々と照らされている。
トロアが操縦席に座る輸送機に、次々と武器や弾薬、偵察用のオートバイが積み込まれていく。
俺は横目にソレを見ながら、官舎の柱の影でレイを抱きしめていた。
夕食後にやっと捕まえて、今から出発だと伝えても、さして驚く素振りも見せなかったレイ。
そうか、と眉ひとつ動かさず返されただけだった。
だが、行く前にハグさせてくれと言う俺に、黙って抱かれてる。
これがレイなりの優しさだと思う。
「おい、もう時間じゃないのか?」
腕の中でモゾモゾしながらレイが言う。
俺は、深くレイの匂いを吸い込んでから、その身体を離した。
「レイ、ヘリ見送ったら、真っ直ぐ部屋に戻れよ。眠れないからって、こんな時間からプールには行くな」
「別に見送りなんかしない」
「はいはい。シャワー浴びたら髪は乾かせよ?あと、熟睡出来なくても、ベッドで横になれ」
「わかってる、うるさいな」
「レイ!」
建物に入ろうとするレイの腕を掴む。
なんだ、と面倒くさそうに金色の髪が振り返った。
「帰ってきたら、お帰りのキスしてくれ」
レイは目を見開き、数秒俺と見つめ合う。
蒼い瞳が動揺している様に左右に揺れた。
「……わかった」
と、レイは言ってくれた。
「悪い、待たせた」
機内には既にサーシャとダンテが乗り込んでいる。
シンシアと交換するプレゼントも積み込み済みだ。
「ハロルド、ダベンハイムに会えたか?」
ダンテが細かく編み込んだ長い髪を、後ろで一つに結びながら聞いてくる。
「あぁ」
「泣かれちゃったんじゃないの~?危ない所に行かないで~って」
「サーシャ、アイツはそんな事言わねーよ。そもそも詳しく話せないしな」
まぁ、聞いたとしてもあの男は止めないだろう。
俺は操縦席のトロアに声を掛ける。
「トロア、急に無理言って悪いな」
「いいえ」
兄を想ってか、返事をした弟の表情は硬い。
「ヤツらの拠点に近づいたら、基地からの無線は切ってくれ。向こうが使ってる無線の周波数を探して、トップと交渉する」
「わかりました」
翼が回り始め、轟音が響く。機体が地面からふわっと浮き上がる。
基地内の建物の灯りが徐々に小さくなって行く。
もしやどこかにレイがいないかと目を凝らした。
官舎の窓。その一つに、コチラを見上げる人影が見えた。離れていて判別できない。
でも。
レイだったと思う事にしよう。
見送ってくれていたら嬉しいから。
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