誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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あの頃、俺は。

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「ハロルド?」

 素肌にバスタオル一枚引っ掛けただけの姿で、レイが俺を見上げている。

「レイ…悪い、ボーッとしてた。どうした?」

 シャワーを止めて、水滴のしたたる前髪を掻き上げる。

「どうって…あんまり長い間、出て来ないから……」

「あ、心配してくれたのか?」

「別にそんなんじゃない」

 ニンマリする俺にそっけなく返して、レイはシャワールームを出る。
 俺もバスタオルを引っ掴んで、その後を追った。






 久しぶりに士官の姿を見たからだろうか。
 俺はシャワーを浴びながら、学園でミクニに言われた言葉を思い出していたのだ。


『仲良かったじゃない』

『家族みたいだったよ』

 確かに在学中は俺と父さん、そして士官の三人でよく一緒にいた。

 だってあの頃は。

 士官は、マジで武術に秀でた才能ある教官だったし、学生一人一人の能力を見いだす術にも長けていた。

 父さんにも礼節正しく接してたし、何より、俺の実家にまるで興味がない事が、一緒にいて気楽だったのだ。


 そしてあの頃の俺は、士官が性欲込みの感情で自分を見ているとは、微塵も感じていなかった。


 だから入隊した官舎の部屋が、自分だけ一人部屋なのは、ただの振り分けの都合だろうと思ったし。

 夜中に士官が尋ねて来た時でさえ、学生時代と変わらない気安さで迎え入れた。

 生徒と教官から、部下と上司になった。
 ただそれくらいの些末な変化だと思っていた。


 あの上司の手が、唇が、俺の素肌に触れるまで、ひとかけらの疑惑さえ抱かなかったのだ。








 今になって思うのは、士官の凶行に『裏切られた』と感じる程度には、アイツを信頼してたって事実だ。
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