49 / 100
誰と誰が一緒に風呂に入るって?
しおりを挟む「おい、おっさん!」
腕組みしたレイがテーブル脇で仁王立ちしている。
「飲み物は紅茶で良いのかってラシュウルが聞いてるぞ!」
厨房の中からラシュウルと、褐色の肌の少年がこちらを伺っている。
驚く事に学園内の全員の食事は、あの少年が一人で作っているのだと言う。
今日の様に、別の子供が手伝う事はまれらしい。
あの少年も何かしらの事情があって、ここに滞在している。
ミクニいわく、彼等を守るために、出身地や年齢も基本的には明かせないのだと言う。
ゆえに、美味い飯を作ってくれた少年の名前さえ知らない。
更にミクニからは、学園内で見聞きした事は、一切他言しない様にと釘を刺された。もちろん、ラシュウルやキヨの事も含めてだ。
「あっ!うん、紅茶で」
ミクニが慌てて返事をする。
「アンタはコーヒー。ブラックだよな?」
確認するレイに、頷いて見せた。
俺の好みを覚えてくれていて嬉しくなる。
レイは厨房に伝言すると、戻って来て俺の隣に座った。
「おっさん、紅茶にも砂糖入れるんだってな?糖分取りすぎじゃないのか?」
俺の左側にいるレイが、右側にいるミクニに話しかける。
「あのさ、レイ君。おっさんって呼ばれるとちょっと傷付くんだけど。あと、何回も言うけど、ハロルドの方が僕より年上だからね⁈ハロルドの方が、オ・ジ・サ・ン!」
おいおい、俺を挟んでケンカすんな。
「はあ⁈下っ腹がぷよぷよしてる奴はおっさんだろ?自己管理が出来てない証拠だ。ハロルドは、ベルトに肉がのったりしない」
喉の調子が良いのか、レイの口撃は絶好調だ。
「そんなに出てないもん」
そう言いながらも、ミクニは膝掛けをずずっと引き上げて、腹を隠した。
通りかかったキヨが、片手で口元を押さえながら、平静を装ってテーブル拭きをレイに手渡す。
「キヨ、お前も太ってると思うだろう?正直に言ってやった方が本人の為だぞ?」
「レイさま、ふふっ、わたくしの立場では、ふっ、口を塞がざるを得ません」
「ひ、酷い……カルロスだって平均体重だって言ってくれたもん。ダイエットは必要無いって言ってたもん」
なんだミクニ、マジで傷付いてんのか?
「そういや、アイツ…カルロスは?食堂に来てねぇよな?メシどうすんの?」
「あぁ、カルロスは別の物を別の時間に食べるんだ。万が一、一斉に感染症にかかったら、治療できる人間がいなくなっちゃうからね」
ふぅん、そんなもんか。
しばらくすると、ラシュウルがトレーにカップを二つ乗せて、そろりそろりと歩いてきた。
「ラシュウル君、ありがとう。初めての料理は楽しめた?」
ミクニがトレーを受け取りながら尋ねる。
「はい、難しかったけど、楽しかったです」
「ジャガイモの皮が上手に剥けてた。ラシュウルは器用だ」
レイに褒められて、ラシュウルは照れたように顔を赤らめてキヨの後ろに隠れる。
「レイさま、お片付け終わりましたか~?」
「終わりましたか~?」
暖炉の前でゴロゴロしていたソックリな男児二人(多分双子)が、走って来てレイに飛びつく。
「終わったよ」
二人を抱き止めながら、レイは優しく答えた。
「やったあ~!お風呂入りましょ~!」
「一緒にいきましょう~!」
はっ?
なんだって⁈
「風呂⁈」
イスから立ち上がるレイに、思わず確認する。
「さっき約束したから行ってくる。なにビックリしてるんだ?」
レイは不思議そうに首を傾げてから、ちびっこ二人と歩き出す。
途中、厨房の少年に手を振り、向こうもレイに手を振り返していた。
「君達!はしゃいで転ばないようにねっ!」
ミクニが身を乗り出して、声を掛けると
「はーい!」
「はーい!」
「おっさん、細かいな」
ちびっこ達の素直な返事と、レイの不満気な呟きが聞こえた。
……風呂か。
あの男の綺麗な肌が、他人に見られてしまう。
相手は子供だし、俺みたいな感情で、レイの裸を見るわけはないんだが……。
いっそ、俺も一緒に行くか?
「あ!ハロルド~!なに想像してるの~?ヤラシイ顔してる~」
俺はニマニマ笑うミクニの頬を、思いっきりつまんだ。
「うるせーぷよぷよが!」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説


目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ルームシェアは犬猿の仲で
凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。
新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。
しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉
掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。
犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。


紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる