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家族みたいだったよ
しおりを挟む「友達って、そーゆーオトモダチだったんだ」
「あぁん?」
隣の席にいるミクニが、ジトッとした目で俺を睨む。
子供達に混ざって、賑やかに夕食を食べ終わった後だ。
皿を片付ける者、洗い物をする者、暖炉の前で勉強しだす者、それぞれが席を立ち、テーブルに俺達だけになったタイミングだった。
「僕の!事を!さんざん脅したくせに!」
握った右手の拳をプルプルさせて、声を控えながらも抗議する。
「俺はお前とは違うっつーの。お前は同時進行かつ、不特定多数だけど、俺はレイだけだから」
ミクニと学生寮でルームメイトだった頃は、部屋に帰るたびに違う女(又は男)がいる事にゲンナリしたものだ。
まあ、それを理由に教授の、いや父さんの部屋に入り浸っていた訳だから、俺にとっては不都合ばかりでもなかったのだが。
「でも意外。君って、誰とでも仲良くなってる風で、誰の事も懐に入れなかったのにさ」
「俺は、一族の権力目当ての人間とは付き合わない。それだけだ」
「年下のセフレかぁ」
「セフレじゃねぇ」
「え!じゃあ恋人なの⁈」
厳密に言うと恋人でもないんだが、俺の希望的観測も込めて否定しないでおく。
それにしてもコイツ。
俺とレイのキスシーンを目撃して、[恋人]よりも先に[セフレ]という関係を当てはめるのか。
随分と爛れた脳だ。
「ひえ~!もっと意外!君、学生時代は教授と付き合ってたじゃない?すご~く年上が好みなのかと思ってたよ」
「だーかーらー!あの頃も言ったけど、教授とはそう言う関係じゃねぇから」
あの人の優しさを、恋愛感情だと思ってた時期もあった。自分の内から湧く愛しさを、恋だと思ってた時期もあった。
だがー。
今、レイと日々を過ごす中で、あれはやはり父性に対する憧れだったと理解している。
「こんな風に言ったら不謹慎だけどさ。教授が亡くなって、気落ちしてると思ってたから。なんて言うか、恋愛する気力があって良かった」
あの時そばにはレイがいてくれた。
もしレイが同行を拒んで、一人で面会に行ってたら、あれ程落ち着いていられただろうか。
俺達の再会を見守ってくれたレイ。
俺の独白を黙って聞いてくれたレイ。
そして、肩を貸してくれたあの男の優しさが、俺の回復を早めたのだと思う。
「おいミクニ。そう言えば、あの時よく俺に連絡できたな。お前、教授と連絡取り合ってたのか?」
特殊な職場だ。基地に連絡を入れられる人間は限られてる。ミクニは親族でもないのに……。
「それがさ」
ミクニは頬杖ついて俺を見た。
「死期が近い人の希望をかなえる公益財団法人っていうのがあってさ。
教授はそこに頼んだんだよ。
僕を介して君に連絡して欲しいって。
君、実家と関係切ってるからさ、リー家に連絡しても、御当主は協力してくれないと思ったんだろうね」
俺と、実家がやり取りしなくていいように考えてくれたのか。
自分が死にそうだって時に……。
俺は、最期の時に親子として過ごしたわずかな時間を思い出した。
それは、ただひたすらに穏やかで優しい時間だった。
「そう言えば!フジタ先生は元気?いま君の上司でしょ?」
ミクニよ、俺は今ちょっと感傷に浸ってたのに……。
「……なんでフジタ士官の話題が出てくんだよ?」
「だってよく三人で行動してたでしょう?仲良かったじゃない?
教授とフジタ先生と君でさ、なんだか家族みたいだったよ」
「はぁっ⁈」
クソ士官は、武闘の講師として週に二、三回、大学に招かれていた。
いま部隊に在籍している奴らは、基本的にあの士官の指導を受けている。
それゆえに、いざアイツとやり合おうとすると、技の癖が熟知されていて勝つ事が出来ないのだ。
「ほら、三人とも外見の特徴が一緒だから余計に。年齢的にもおじいちゃん、お父さん、息子、みたいな」
「やめろ、殴るぞ」
凄む俺に、ミクニは『ひゃー怖い!』と大袈裟に肩をすくめて見せた。
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