誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

文字の大きさ
上 下
48 / 100

家族みたいだったよ

しおりを挟む





「友達って、そーゆーだったんだ」

「あぁん?」

 隣の席にいるミクニが、ジトッとした目で俺を睨む。


 子供達に混ざって、賑やかに夕食を食べ終わった後だ。
 皿を片付ける者、洗い物をする者、暖炉の前で勉強しだす者、それぞれが席を立ち、テーブルに俺達だけになったタイミングだった。


「僕の!事を!さんざん脅したくせに!」

 握った右手の拳をプルプルさせて、声を控えながらも抗議する。

「俺はお前とは違うっつーの。お前は同時進行かつ、不特定多数だけど、俺はレイだけだから」

 ミクニと学生寮でルームメイトだった頃は、部屋に帰るたびに違う女(又は男)がいる事にゲンナリしたものだ。

 まあ、それを理由に教授の、いや父さんの部屋に入り浸っていた訳だから、俺にとっては不都合ばかりでもなかったのだが。


「でも意外。君って、誰とでも仲良くなってる風で、誰の事も懐に入れなかったのにさ」

「俺は、一族の権力目当ての人間とは付き合わない。それだけだ」

「年下のセフレかぁ」

「セフレじゃねぇ」

「え!じゃあ恋人なの⁈」

 厳密に言うと恋人でもないんだが、俺の希望的観測も込めて否定しないでおく。

 それにしてもコイツ。
 俺とレイのキスシーンを目撃して、[恋人]よりも先に[セフレ]という関係を当てはめるのか。
 随分とただれた脳だ。

「ひえ~!もっと意外!君、学生時代は教授と付き合ってたじゃない?すご~く年上が好みなのかと思ってたよ」

「だーかーらー!あの頃も言ったけど、教授とはそう言う関係じゃねぇから」




 あの人の優しさを、恋愛感情だと思ってた時期もあった。自分の内から湧く愛しさを、恋だと思ってた時期もあった。

 だがー。

 今、レイと日々を過ごす中で、あれはやはり父性に対する憧れだったと理解している。






「こんな風に言ったら不謹慎だけどさ。教授が亡くなって、気落ちしてると思ってたから。なんて言うか、恋愛する気力があって良かった」

 あの時そばにはレイがいてくれた。
 もしレイが同行を拒んで、一人で面会に行ってたら、あれ程落ち着いていられただろうか。

 俺達の再会を見守ってくれたレイ。
 俺の独白を黙って聞いてくれたレイ。
 そして、肩を貸してくれたあの男の優しさが、俺の回復を早めたのだと思う。

「おいミクニ。そう言えば、あの時よく俺に連絡できたな。お前、教授と連絡取り合ってたのか?」

 特殊な職場だ。基地に連絡を入れられる人間は限られてる。ミクニは親族でもないのに……。

「それがさ」

 ミクニは頬杖ついて俺を見た。

「死期が近い人の希望をかなえる公益財団法人っていうのがあってさ。
 教授はそこに頼んだんだよ。
 僕を介して君に連絡して欲しいって。

 君、実家と関係切ってるからさ、リー家に連絡しても、御当主は協力してくれないと思ったんだろうね」


 俺と、実家がやり取りしなくていいように考えてくれたのか。
 自分が死にそうだって時に……。

 俺は、最期の時に親子として過ごしたわずかな時間を思い出した。

 それは、ただひたすらに穏やかで優しい時間だった。

「そう言えば!フジタ先生は元気?いま君の上司でしょ?」

 ミクニよ、俺は今ちょっと感傷に浸ってたのに……。

「……なんでフジタ士官の話題が出てくんだよ?」 

「だってよく三人で行動してたでしょう?仲良かったじゃない?
 教授とフジタ先生と君でさ、なんだか家族みたいだったよ」

「はぁっ⁈」

 クソ士官は、武闘の講師として週に二、三回、大学に招かれていた。
 いま部隊に在籍している奴らは、基本的にあの士官の指導を受けている。
 それゆえに、いざアイツとやり合おうとすると、技の癖が熟知されていて勝つ事が出来ないのだ。

「ほら、三人とも外見の特徴が一緒だから余計に。年齢的にもおじいちゃん、お父さん、息子、みたいな」

「やめろ、殴るぞ」

 すごむ俺に、ミクニは『ひゃー怖い!』と大袈裟に肩をすくめて見せた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

ルームシェアは犬猿の仲で

凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。 新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。 しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉ 掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。 犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...