誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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心配ないよ

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「ラシュウル君、あと三十分位で戻って来るって」

 車イスの背もたれにあるポケットに携帯を戻しながら、ミクニはニコニコとレイに話しかける。

      







『突然来たのはコッチなんだから、急かさなくて良い』

 と言うレイを押し切って、ミクニは[外出時に持つことが決まり]という携帯の番号に連絡し始めた。

「だって、会いたいと思うもん。ラシュウル君もキヨオミ君も」

 レイは困惑した様子で隣に座る俺を見た。

『会いたい、と、思うか?俺、に?』

 俺はレイの話し方と表情から、俺なんかに?というニュアンスを感じ取った。

「なんで今になって萎縮してんの、レイ。 ラシュウルにとっちゃ命の恩人だろ? 嫌なわけがない」

『でも俺、ラシュウルの目の前で思いっきり組織の男を殴り飛ばしたんだ。怖がられるも』

「あぁ、水がめにラシュウルを押し込んでた男だろ?そんなの自業自得だ」

「ねえ、二人とも、なんだか物騒な話してる?」

「いや?そーでもねぇよ、なあレイ」

 頷くレイと、紅茶を飲む俺を交互に見ながらミクニはいぶかしんだ。



「そうだ!せっかく来たんだから施設の中、案内するよ」

 ミクニはそう言ってドアを開けると、コッチコッチと手招きした。

「そこの奥の部屋が僕の自室。で、ここが医務室」


 レイは隣を歩く俺の腕を引っ張った。

『外に出る時は、大人は付き添わないのか?って聞いてくれ』

「ミクニ、子供だけで外に行かせて大丈夫なのか?」

「キヨオミ君が同行する時は、まかせてるんだ。あの子、年齢的には子供なんだけど、なんて言うか…。
 まあ、会えば納得すると思う。
 レイ君も、安心するはずだよ」

「?」 

「ラシュウル君を託しても何の問題もないってさ」

 ミクニは、丸いひとみをほそめて、レイを見た。

 自分の心配事を見透かされたようで居心地が悪かったのか、レイはふいっと横を向く。



 自分が関わった子供が、穏やかに暮らせているのか。
 幸せなのか。

 レイはそれを確かめる為にここに来た。





「それにしても、室内は本当に暖かいな。木造ってこんなに保温効果があんのか?」

 厚みの有る廊下の壁は、触るとほのかに温もりを感じる。

「ふふん~。びっくりするでしょ~!
 壁の中とか床下にね、パイプを通してあるんだ。その中に熱湯が循環するようにしてあって、学園全体をあっためてるんだよ」

 ミクニは自走しながら得意げに胸を張る。

「マイナス二十度までなら充分対応できるよ!」

「そんなに寒くなんのか?」

「一月が一番寒いかな?
 あ、大丈夫だよ⁈子供達の部屋にも配管が通ってて、あったかいし、更に加温したい時には暖炉もあるし」

「なぁミクニ、子供達は?静かだけど、どこにいるんだ?」

 施設に着いてから、一人の子供も見かけないが。

「部屋で勉強してたり、お昼寝してたり色々だね」

 廊下の片側は窓、反対側は等間隔にドアが続いている。
 ミクニは、ドアの方を指差した。
 そこが、子供達の部屋という事か。

「部屋は一人で使ったり、相部屋だったり、色々だよ」

「なあ、何人いるんだ?建物的にはそんなにデカくないよな?ここ」

「ラシュウル君が一番最近の入学者で、生徒数は今は六人。
 [家庭的な環境で、国籍を問わず児童の社会復帰を目指す]って言うのが設立理念だからね。
 まぁ、ここまでこじんまりしてる施設は珍しいかもねー」

 話しながらもスルスルと車イスを進めながらミクニは次の場所を紹介する。

「この扉の向こうはお風呂場で、いつでも入浴できるよ。君達も入ってく?あったまるよ?」

 んん?レイと?

「いや、まあ、とりあえず今は良い」

 魅力的なお誘いだが、この旅行中はそういう事はしないつもりだ。

 ミクニは更に車イスを進め、他の部屋よりひと回り大きな扉を引く。

「ここが食堂。みんなで集まって勉強する事もあるよ。入って入って!」

 なんつーか、上機嫌だな。まるで、宝物を見せたがる子供みたいだ。

 壁際に暖炉のある広いスペース。
 並べられたテーブルとイス。
 奥には調理台も見える。

「基本的には、みんなココで食事を摂るんだよ」

「ラシュウルも?」

「うん。最初の二週間位は全然食欲がなくて……食事はキヨオミ君が部屋まで運んでたんだ。けど、中々食べてくれなくてさ。
 何度か点滴もしたかな。
 でも今は二人で部屋から出て来て、一緒のテーブルで食べてるよ」

「そうか……」

 安堵した様子のレイに、ミクニはニコリとして。

「大丈夫、元気に過ごしてるよ」

 と、まるでレイを気遣うように穏やかに微笑んだ。


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