41 / 100
後悔してないか?
しおりを挟む『アンタとしないの、変な感じ』
「ぶっ!」
自分のベッドで荷物をパッキングしていた俺は、レイの言葉に思わず吹き出した。
レイはレイで、自分のベッドに寝転がりながら、動揺する俺を不思議そうに見ている。
まあ、確かにルームメイトになったその日から、夜は致すのが必然になっていたから。仕事で俺が不在の日を除けば、ヤらない夜は初めてだな。
『荷物、そんなに持って行くのか?』
「最低限だそ?二人分の着替えと洗面道具」
『ふうん?』
それでもレイには、多く見えるのだろうか? まあ、荷物を詰めようとする俺に『一日くらい、着替えなくても死なないだろ?』と言ったくらいだからな。
中身に余裕のあるバッグのファスナーを閉めて準備完了。
帰りには、レイの冬服をパンパンに詰めて帰ってくる予定だ。本人にはナイショだが。
バッグを足元によけて、レイを見る。
つまらなそうに、ベッドでゴロゴロしている。
そして、俺の視線に気づくとムクリと起き上がった。
『ハロルド、出発時間まで何してればいいか、わからない』
いつもなら、暇さえあればジムに行く奴だからな。じーさんが連絡してるだろうから、いま行ったとしてもスタッフに拒否られるのがオチだ。
「じゃあ、アレ書いてな。デスクの引き出しに支給申請書があるだろ」
レイは立ち上がって、引き出しを開ける。
十枚程の伝票を挟んだ、小さなバインダーを取り出した。
「支給品で、足りない物があったらチェック入れて事務に出すんだ」
イスの上にアグラをかいて、レイがページをめくる。
隊服から始まり、切創対策されたインナーや、シャンプー、リンス。
座学で使うノートやペンに至るまで。日常的に必要な物は、ほぼ支給されている。
「なんか必要な物あるか?」
『アレは支給品じゃないのか?』
「あれ?」
『ゴム』
「ぶっ!」
『アンタが街に行ったら買ってくるって言ってたのに、忘れてただろ?買ったら、見せてやるって言ったのに』
よく覚えてるな。
ヤッてる最中にしてた会話だぞ?
しかも、あの時はだいぶ眠そうにしてたのに。
「あー、まあ使わない奴も多いだろうから」
ふうん?という感じで、レイは俺を一瞥した。
そもそもレイは、ゴムが何であるか理解していない。だからこんな会話が発生するわけだ。
だって考えてみろ?性処理に使う物品を、部隊の経費で買えるわけがない。
買い出しに行かされる職員だって、複雑な心境じゃねぇか?
ふと、レイが神妙な顔で俺の方に向き直った。
「なんだ?」
『後悔してないか?』
「なにを?」
『俺とセックスしてる事』
「あぁ⁈」
いきなり何を言い出すかと思えば。
「してない、するわけないだろ?どうした?」
バクバクいう心臓の音は、聞こえないフリで、俺は冷静を装った。
『アンタが、俺みたいなのに優しいから……。なんか、上手く言えないけど。
休みの日まで、俺のやりたい事に付き合って……。
アンタはコレでいいのかなって』
あぁ、びっくりした。そんな事を気にしてんのか?
また、いつぞやみたいに『アンタとはもう寝ない』とか言い出すんじゃないかって、ヒヤッとしたぞ!
大体、俺の事を優しいなんて評するのは、お前だけだ。
俺はいつだって、お前の特別になるために、策を練っている。そんな男なのに。
「そんな心配しなくていい。俺がやりたくもない事を我慢してやるような小心者に見えるのか?」
『いや、全然』
後悔しているとすれば、レイの不眠を強引に性行為で解消してる事だ。
初めてレイの姿を見た時から、どうしても。お前が欲しかった。
バインダーをぱたんと、デスクに伏せて、レイは俺のベッドの横に立った。
『こっちに居ても良いか?』
俺は壁側にずれて横になり、レイが入れるスペースを作った。
「セックスしないけ、ゲホッ。けど、一緒のベッドにいても、い、のか?」
「もちろん」
レイは横たわって俺の腰に腕を回した。
ふう、と安心したような吐息が聞こえる。
眠らないながらも、瞳を閉じて抱き合えば、互いの温もりを強く感じて、それだけで安らぐものがあるのだ。
この男の喜ぶ顔が見たい。
この男を幸せにしたい。
それが、今や俺の行動基準になっていた。
これから始まる片道十時間の空の旅も、その長い道中ですら楽しい思い出にできるという予感がある。
恋するってすげえなぁ。
なんて事を、俺にとっての初恋であるレイの髪を撫でながら思うのだ。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説


目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ルームシェアは犬猿の仲で
凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。
新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。
しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉
掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。
犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。


紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる