誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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後悔してないか?

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『アンタとしないの、変な感じ』

「ぶっ!」

 自分のベッドで荷物をパッキングしていた俺は、レイの言葉に思わず吹き出した。

 レイはレイで、自分のベッドに寝転がりながら、動揺する俺を不思議そうに見ている。

 まあ、確かにルームメイトになったその日から、夜は致すのが必然になっていたから。仕事で俺が不在の日を除けば、ヤらない夜は初めてだな。





『荷物、そんなに持って行くのか?』

「最低限だそ?二人分の着替えと洗面道具」
 
『ふうん?』

 それでもレイには、多く見えるのだろうか? まあ、荷物を詰めようとする俺に『一日くらい、着替えなくても死なないだろ?』と言ったくらいだからな。

 中身に余裕のあるバッグのファスナーを閉めて準備完了。

 帰りには、レイの冬服をパンパンに詰めて帰ってくる予定だ。本人にはナイショだが。

 バッグを足元によけて、レイを見る。

 つまらなそうに、ベッドでゴロゴロしている。
 そして、俺の視線に気づくとムクリと起き上がった。

『ハロルド、出発時間まで何してればいいか、わからない』


 いつもなら、暇さえあればジムに行く奴だからな。じーさんが連絡してるだろうから、いま行ったとしてもスタッフに拒否られるのがオチだ。


「じゃあ、アレ書いてな。デスクの引き出しに支給申請書があるだろ」

 レイは立ち上がって、引き出しを開ける。
 十枚程の伝票を挟んだ、小さなバインダーを取り出した。


「支給品で、足りない物があったらチェック入れて事務に出すんだ」

 イスの上にアグラをかいて、レイがページをめくる。

 隊服から始まり、切創対策されたインナーや、シャンプー、リンス。
 座学で使うノートやペンに至るまで。日常的に必要な物は、ほぼ支給されている。

「なんか必要な物あるか?」

『アレは支給品じゃないのか?』

「あれ?」

『ゴム』

「ぶっ!」

『アンタが街に行ったら買ってくるって言ってたのに、忘れてただろ?買ったら、見せてやるって言ったのに』

 よく覚えてるな。
 ヤッてる最中にしてた会話だぞ?
 しかも、あの時はだいぶ眠そうにしてたのに。

「あー、まあ使わない奴も多いだろうから」

 ふうん?という感じで、レイは俺を一瞥した。

 そもそもレイは、ゴムが何であるか理解していない。だからこんな会話が発生するわけだ。
 だって考えてみろ?性処理に使う物品を、部隊の経費で買えるわけがない。
 買い出しに行かされる職員だって、複雑な心境じゃねぇか? 


 ふと、レイが神妙な顔で俺の方に向き直った。

「なんだ?」

『後悔してないか?』

「なにを?」

『俺とセックスしてる事』

「あぁ⁈」

 いきなり何を言い出すかと思えば。

「してない、するわけないだろ?どうした?」

 バクバクいう心臓の音は、聞こえないフリで、俺は冷静を装った。

『アンタが、俺みたいなのに優しいから……。なんか、上手く言えないけど。
 休みの日まで、俺のやりたい事に付き合って……。
 アンタはコレでいいのかなって』


 あぁ、びっくりした。そんな事を気にしてんのか?
 また、いつぞやみたいに『アンタとはもう寝ない』とか言い出すんじゃないかって、ヒヤッとしたぞ!

 大体、俺の事を優しいなんて評するのは、お前だけだ。
 俺はいつだって、お前の特別になるために、策を練っている。そんな男なのに。


「そんな心配しなくていい。俺がやりたくもない事を我慢してやるような小心者に見えるのか?」

『いや、全然』

 後悔しているとすれば、レイの不眠を強引に性行為で解消してる事だ。

 初めてレイの姿を見た時から、どうしても。お前が欲しかった。





 バインダーをぱたんと、デスクに伏せて、レイは俺のベッドの横に立った。

『こっちに居ても良いか?』

 俺は壁側にずれて横になり、レイが入れるスペースを作った。

「セックスしないけ、ゲホッ。けど、一緒のベッドにいても、い、のか?」

「もちろん」

 レイは横たわって俺の腰に腕を回した。

 ふう、と安心したような吐息が聞こえる。
 眠らないながらも、瞳を閉じて抱き合えば、互いの温もりを強く感じて、それだけで安らぐものがあるのだ。

 この男の喜ぶ顔が見たい。
 この男を幸せにしたい。

 それが、今や俺の行動基準になっていた。


 これから始まる片道十時間の空の旅も、その長い道中ですら楽しい思い出にできるという予感がある。


 恋するってすげえなぁ。

 なんて事を、俺にとっての初恋であるレイの髪を撫でながら思うのだ。






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