誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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助け出した子供達

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「あの子だっ……!」

 白い封筒から出した写真を一目見て、
 レイは蒼く美しい瞳を大きく見開いた。

 そこに写っているのは、フワフワとしたローズブロンドの長い髪の少女。
 大きなウサギのぬいぐるみを抱いて、満面の笑みでケーキを頬張っている。

 送り主からは、誕生日会の様子なのだと聞いた。



「なんで、アンタが、この写真…?」



 寝起きのレイは、ベッドの上から怪訝そうに俺を見上げる。




 数週間前だった。たまたまウチの基地に遊びに来ていた先輩に会った。


 先輩は三年前に本部に移動したが、たまに古巣の平和な空気を吸いたくなる、と言って自分の休暇の時に遊びに来る。


 今は新人隊員の試験、採用担当をしているというので、俺はレイが試用期間中にどんな現場に行ったのか聞いてみた。純粋に興味があったから。


 そして、新人が送り込まれるにしては中々に難易度の高い現場であった事を知った。

 場所は、児童養護施設。
 犯人は、施設に居た子供達を盾にして立て篭もり、現政権に対する批判とマスコミによる取材を求めた。
 犯人と特殊部隊の交渉の最中、隙を見て数人の子供が逃げ出して、一人の少女が撃たれた。
 その少女に一番に駆け寄り、救護に対応したのがレイだったという。



 前々から、レイの自己評価の低さが気になってた俺は、コレだ!と思った。

 俺達は通常、救助に関わった相手とはそれきりだ。
 会う事も、連絡を取る事も禁止されている。

 過去に、見返りとして金品のやり取りを要求した不届者がいたらしく、現在の隊内規則には、しっかりとその旨が明記されている。

 だから、いくら気になったとしても相手の『その後』を知る事は出来ない。

 ならー


 でももし、その少女の行方が分かって、自分が助けた子供が、いま幸せに暮らしていると知ったら?
 この男の自己肯定感を底上げできるんじゃないのか?


 そこから俺は、大学でルームメイトだった幼馴染に連絡を取り、その事件の被害者がいまどうしているのかを調べさせた。
 それなりの地位についている幼馴染は、最初こそモゴモゴ文句を言っていたが、俺は奴のちょっとした弱味を握ってたから、結果頷くしかなく、調査に乗り出してくれた。




「知り合いに頼んで、その子供がどこの施設に居るか探してもらった。施設名も彼女の名前も明かせないが、写真なら何とかなるって言うから、一枚だけ送ってもらったんだ。
 試用期間中に、お前が助けた子供なんだってな、その子」

「助けたなんて…、違う、俺は助けられなかったんだ。一番近くにいたのに、撃たれたんだ、この子は」


 俺は椅子の上からレイを見下ろす。


「初めての現場であれだけ動ければ上等だって教官は言ってたぞ。犯人がどんな行動を取るかは、予側はできても、相手の頭の中まで見られるわけじゃない。人質が撃たれた事は、お前のせいじゃない」


「でも俺は、この仕事に就けば、傷つく子供を減らせると思ってたんだ……なのに違った」

 レイはまつげを伏せた。

「自分なりに必死にやって来たと思ってたんだけど、全然ダメだった」


 この男は、その時からずっと挫折感に苛まれてるのか?だから、子供が関わると捨て身になるのだろうか?


「いいか、レイ。今、その子供は保護された施設で元気にしてる。撃たれたのは頭部なんだってな。
 一番近くにいたお前が適切に処置したから生きてるんだぞ。そこは、自分自身を評価すべきだ」

「そうかな」

「そうだ。お前はその子供の人生を繋いだ。立派にやった」

 白い指先が、そっと写真の少女の顔を撫でた。

「わらってる」

 微笑んで目を細めるレイを、俺は眩しく見つめた。



 この男のこんな顔を見られたのだから、ちょっとくらいの処罰は受け入れてもいいかな。



「それでな、レイ。もういっこ、お前に良いニュースがある」

「え?」


「この写真を送ってくれたのって、昔からの知り合いなんだけど、実は海外に有る、『子供の社会復帰プログラム施設』ってやつの代表をやってるんだ。その施設にお前が知ってる子供が、保護されてる」

 俺は、『秘密だぞ』という意味で人差し指を口に当てた。

「ラシュウル・シウバ・バーミリオンが、ここで保護されてる」

「え?」



 ラシュウルとは、ある政情が安定しない国の武装組織に兵士として使役されていた少年だ。
 組織の隠れ家で折檻されている所をレイが発見してラシュウルを助け出した。


「ウチの部隊にラシュウルの救助要請を出した施設のトップなんだ。
 ミクニ・フジオカ。俺の幼馴染。ラシュウルに会いに来てもいいって、了解は取ってある。だから」

 レイは、俺の次の言葉を待ち切れないように身を乗り出した。

「行くか?会いに」

「うん!」

 パァッとレイのカオが輝いた。

「来週の休みで行こうと思う。往復に時間がかかるから、向こうに滞在できる時間は短いぞ?」

「大丈夫だ!行く!会いに行く!
 ありがとう!アンタいい奴だな!」

 レイは両手を広げて、がばっと俺に抱きついて来る。

「うおっ、おう」

 おっと、予想以上の反応に変な声が出た。



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