誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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待っていた手紙

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「パスポート?」


 深夜の事務局とは思えない程、たくさんの職員が働いている。
 パッと見は、一般的なオフィスフロアと変わらない造りだと思う。

 整然と事務机が並び、電話対応する職員も居れば、眠気覚ましにコーヒーを配ってる職員もいる。

 違う点と言うなら、部屋の奥に見える分厚い鉄扉だ。
 銀行の貸金庫のドアに近い外観で、中には、隊員の財布やらパスポートやらが保管されている。


「そう。俺と、レイのパスポート。使うって言ったら直ぐに出せるか?」

「まあ、書類を二、三枚書いてもらうけど。なあに?長期休暇の希望は出てないわよね?」

「来週俺たち、二日間の休みがあるだろ?そこで使いたい。先に書ける書類が有るならもらっていいか?」

「たった二日で国外に行ってくるの?
 まあ、訓練に遅れなければ大丈夫だと思うけど。士官様の判断次第ね」

 アリスはそう言いながら、自分のデスクに戻りファイルの束を持って来た。

「二、三枚じゃねーし」

「あら、細かいのね。二、三枚も五、六枚も変わらないでしょ?」

 うふふ、と悪戯っぽく笑って
「お土産よろしくね!」
 と、書類に混ぜて国際便の封筒を俺に握らせた。


 アリスとは子供の頃からの付き合いで、
 個人の通信機器を持てない俺達にとっては有難い存在だ。

 こうして、下界の郵便局留めにしている俺宛の郵便物を、こっそり運んで来てくれる。

 基地に届く荷物は、全部セキュリティチェックが入るから、見られてマズいものはアリス頼りなのだ。






 そっと部屋のドアを開けて、真っ暗な室内を手探りで進む。
 レイは眠ってるだろうから、なるべく静かに靴を脱ぎ室内にあがる。

 意外とスリッパのパタパタ音が気になるな。ラグでも買ってきて床に敷くか。

 俺は窓際のデスクに腰掛け、デスクライトの灯りを調整して、ギリギリ文字が読める明るさにする。レイを起こさないよにしないと。

 差し出し人の名前を確認して封を開ける。
 中には、二枚の便箋と白い封筒。封筒の中身はわかってるから、後にして手紙を読み始める。


 えー、一枚目。

 [ハロルド!
 もう、ホントに大変だったんだから!
 他の施設にいる子の個人情報なんか、本当は絶対絶対漏らしちゃいけないんだからね!だいたいキミはボクを脅すような事して良心が痛まないのかい⁈ そりゃ、君との相部屋に色んな人を連れ込んでた僕も悪いけど、君だって……]


 この辺は読まなくて良さそうだな。
 えー、二枚目。

 [……あちらの施設長に、それとなく聞いてみたんだけど、健康状態も良くて施設内で元気に過ごしてるみたい。

 ボクはちゃんとキミが欲しい物を送ったんだから、キミも絶対絶対カルロスに余計なコト言わないでね!

 あ!あとウチの学園に遊びに来るなら、真冬の格好できてね。現在積雪八十センチです。

 ミクニ・フジオカ ]




 なんとも唐突に始まって、唐突に終わる手紙だ。
 こんなんで、よく施設の代表が務まるな。

 しかし、雪か。好都合だ。

 レイに冬服を買ってやる口実になる。


 デスクに郵便物を揃えて置いて、ベッドを覆うカーテンを少し開けて覗いてみる。レイは静かに寝息を立てていた。毛布にくるまって丸くなってる姿はちょっと猫みたいだ。


 服を脱いで下着一枚になり、そおっとレイの横に滑り込む。

「んぅ……」

 無意識なのだろう。目を閉じたまま伸ばした腕が、ぱたん、と俺の腰の上に着地した。
 そんなレイの頭を胸に抱き込み、脚を絡める。伝わってくる温もりが、眠気を誘う。

 いつの間にか、この男と抱き合っているこの時間が、俺にとっても一番リラックスできる時間になっていた。

 俺は欠伸をひとつして、満たされた気分で眠りに落ちた。





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