誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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楽しい休日 やり直し! 前半

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 閉めたブラインドの隙間から真夏の日差しが透けて見える。

 夜中にエアコンを付けておいて正解だった。くっついて寝てるのが適温なおかげで、レイは三日分の不眠を取り戻すようにグッスリと眠っている。

 あの暑い国での作業を、気力だけで乗り越えたのだから相当疲れたのだろう。







 レイからは、食事の時間になっても寝ていたら起こせと言われていた。

 だが。

 起こしたら、すぐジムだ、ランニングだと忙しく活動し始めてしまう。 

「せっかくの休日なんだし」

 俺は、まだ少しレイの体を抱いていたくて、声を掛けずにいる。  






 昨晩眠りに落ちたレイの体を拭き、自分もシャワーを浴びた後、ふと思い立って、レイと同じ様に何にも身につけないで寝てみた。


 結果。
 お互いの素肌が触れ合う感触ってのは、どうしてこうも心地良いのか。

 レイの裸体を抱き込んで、隙間がないくらいに肌をぴったりくっつける。

 初めは体温に差のあった二つの身体。
 じわじわと互いの熱が馴染んで、境目も曖昧になって、すっかりレイと同化して一つの生き物になった様な錯覚に落ちいる。

 それは凄まじい多幸感だった。
 俺は、金色の髪に顔を擦り寄せて、何時間だってこうして居られると思った。

 懸案事項があるとすれば、俺の下半身が常に頭をもたげようとする事、くらいか。





「何時だ?」

 モソモソと毛布が動いて、かすれた声がする。

 残念、ここまでか。


「九時半、いや十時になる」

 毛布から顔を出したレイは、寝起きの瞼を大きく開いた。青い瞳がまん丸になっている。

「そんな時間なのか?随分ねたな…」

 ゆっくりした動作で上体を起こす。
 俺は、レイの腰に自分の腕を置いたまま聞いてみた。

「なあ、レイ。何日も眠れなかったんだから、今日くらいトレーニング休んだらどうだ?食事だって部屋食に変更出来るし、別に一日中ベッドにいたっていいんだぞ?」

「なんだソレ?一日中セックスしたいって事か?」 

「あ?いや、ゴロゴロしてたらどうだって意味で」

「ああ。そういう事か」

 俺としては、そのただれたルートでも問題ねぇけど。

「落ち着かないんだ。なんにもしてないと。体が鈍って仕事に付いて行けなくなったら嫌だなって思うんだ」

 レイは俺の腕を退かし、素肌を隠しもせずにベッドから降りる。

「じゃあさ、たまには下界にいかねぇ?」

「街に?別に用事はないぞ?」

 クローゼットのドアに手を掛けたレイが振り向く。

「やる事なんか何だっていいんだ。新しいカフェだって出来てるし、今の時期だと、ドライフルーツとかナッツの屋台が出てて賑わってるだろうし。季節ごとに街の風景も全然違うぞ?」

「金を、あんまり使いたくないんだ。生活に必要な物は、部隊から支給されるし。市民の税金から給料貰ってるのに、贅沢するのは……なんか違う気がする」

「じゃあ服は?お前着替えがないって、この前言ってたろ?必要な物なら、罪悪感もなく買えるんじゃねぇ?」

「服……まあ、あの時は確かに足りないかもって思ったけど」

「じゃあ決まりな!服買いに行こう!
 アリスに、クルマ手配してもらうから、シャワー浴びて着替えてな」

 よし!デートだ!
 足元に蹴っ飛ばしていたスウェットを着て、俺は上機嫌で部屋を出た。



 事務所に行った帰りに食堂に顔を出して、昼メシは外で食べると伝える。

『二人分の朝食を取り置きしてありますが、どうしますか?』と言われて、着替え終わったレイに確認する。

『せっかく用意してくれたのに、処分するなんてあり得ない』とレイは言い、二人で急いでかき込んだ。









「来たわね。はいコレ、預かってる貴方達のお財布」

 アリスは金属製の引き出しを二個差し出す。
 普段は、現金を使う必要が無いから隊員達の貴重品は、事務所の奥の金庫に入れてあるのだ。

「あと、坊やにはコレも。ハイ。ハッピーバースデー」

 アリスはそう言って、レイに水色の封筒を渡す。

 ん?ハッピーバースデー?

「なんだ、コレ」

 レイは怪訝な顔で中身を確認する。

「バースデーカード?と、おい!金が入ってるぞ?」

「士官様からよ。誕生日の隊員には、お小遣いが出るの」

「おっさんから?」

「アナタが今日お休みなのも、誕生日特典よ。第一と第二部隊限定特典なんだから、もうちょっと喜んで!
 それと、おっさんて士官様の事でしょ?そんな歳じゃないわよ、失礼ねぇ」

「たん、じょうび?」

 俺がほうけていると、アリスが首を傾げた。

「あら、知らなかったの?誕生日だから下界で美味しい物でも食べるのかと思ってたわ」

 マジかよ。

「あと、今日の交通費はコッチで持つから、いくらでも遠出して良いわよ。ドライバーは前回と同じね」

 あぁ、父さんの病院まで送迎してくれたドライバーか。



「坊や、今度士官様に会ったら、ちゃんとお礼言うのよ!」

「礼なんかいらねーぞ、レイ!」

 食い気味に俺が遮ると、アリスは結い上げたゴージャスな赤毛をブンブン振って抗議した。

「もぉ、ハロルド!貴方ってどうしてそうなの!いったい士官様の何が気に入らないのかしら?」


 俺だって、入隊したとたんアイツに襲われなかったら、もっと穏やかに接してるっつーの。


「あ!来たみたい、楽しんでらっしゃい!」

 通用口を映すモニターを確認したアリスが俺たちを促す。



 ドライバーに軽く挨拶して二人で後部座席に座った。俺はレイに詰め寄った。

「なんで言わなかったんだ!誕生日!」

「忘れてた。そんなに重要な事か?」

「だってお前っ」

「おっさんが俺の戸籍を作る時に、この日にした。意味なんてそれだけだ。なんで今日なのかなんて俺は知らないけど」

「あ」

なんかわからないんだし」

「そうか……」

 しまった。失念してた。

「じゃあ、まずはケーキだな」

「え?」

「祝うぞ、誕生日!」



 

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