誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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ナニのデカさは身長に比例するか?

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 レイの怪我にはドクターストップがかかり、三日間の訓練停止になった。

 一方で、俺は次期班長として本格的に仕事を覚える事になってしまった。

 士官が、本部行きの異動を一時的に撤回したことを受けて、現在の班長が『じゃあ自分の後継に』と俺に白羽の矢を立てたのだ。

 まぁ、班長の手伝いは、前からちょくちょくやってたし、本部に異動するのと違って、レイとも離れずに済む。

 良しとしよう。





「ぎゃああー!」

 第一、第二班の班長達と会議室から出た瞬間、けたたましい叫び声に驚く。


「おい、大人しくしてろ!」
 ん?レイの声だ。

 またふらふら出歩いてるな。
 声は、カフェの方からだ。

 レイは、性分なのだろう。熱が下がってからは、部屋にじっとしていられずに、ジムに行ったり、ランニングに出たりしては、同僚に見つかって、部屋に連れ戻されると言う事を繰り返している。


 士官との一件以来、レイに話しかけてくる同僚は確実に増えた。
 別に今まで孤立していたわけじゃないが、もっとずっと仲間として馴染んだ気がする。





「なんかやらかしてんのか?」
 歩き出した俺の後ろに、班長二人がついてくる。

 カフェは食堂とは反対方向にあって、
広さは食堂の四分の一くらい。
 イスはなく、ドラム缶テーブルがぽんぽん置いてある。いわゆる立ち飲みスタイルだ。

「こっちにレイ居るか?」

 何かを見ながらゲラゲラ笑っている同僚達に声を掛ける。
「うわ!ハロルド!」
「すげ~タイミング~!」

「あ?なんだ」

 一人が窓際のテーブルを指差す。
 見るとレイと、同期の一人が対峙している。
 なんだ?険悪な雰囲気じゃないが。

「レイ・ダベンハイムは何をしてる?」
 後からやってきた班長に問われて、その場にいた全員が、姿勢を正した。

「あ、はんちょ」
「いや、えっとぉ」
「タイラーが悪ふざけが、過ぎたというか……」

 なんだ、歯切れの悪い。

「レイ!なにしてんだ!部屋行くぞ!」

 声を掛けると、レイは振り向き、タイラーはギョッとしたように目を見開いた。 

「ダメだ、まだ確認し終わってない」
「ヒィッ!」
「何やってんだ、何を確認するんだ?」
「コイツが、アンタよりチンコがデカいって言うから、確認するところだ」

 後ろで傍観してた第二班の班長が、盛大にコーヒーを吹いた。


「なん、は?」
「ハロルド!まじごめんって、いや下ネタで盛り上がっちゃって、なんて言うか、な⁈   ははっ、謝るからコイツ何とかしてくれよ!」

 レイの右手は、ガッチリとタイラーのベルトのバックルを握っている。

 この公衆の面前で、同僚のズボン下ろす気か?

「ごめんごめんダベンハイム、えっと冗談でっ」
「じょーだん?」
「そうそう冗談!おれのチンコなんか、ランチで出て来るミニミニウインナーくらいしか無いし」

(おい、変な例えするな。なんか食いづらくなるだろうが)


「マジで全然大した事ないし!毛もぽやぽやしか生えてないし! あっ!ハロルドはモサモサ生えてそうだなっ!」

(コイツはいつも余計な一言を)

「ハロルドか?ハロルドはジャングルみたいに生えてるぞ」

 至極真面目な顔で、レイが返すもんだから、周りは驚きと笑いが止まらない。

「あいつやべぇ!」
「タイラー!もう覚悟決めちまえ」
 ヒィヒィゲラゲラ言いながら腹を抱える同僚達を見て、班長が天を仰ぐ。

 第二班の班長に至っては、二口目のコーヒーに口をつけらず、ぷるぷる震えている。

 しょうがねぇ、助けてやるか。

「おい、レイ。そいつの冗談に乗せられるな。この部隊で一番デカいのは」
(誰にするかな?)

「ここにいる班長だ」
(見たことないが)

 俺は人差し指で、隣の班長を指す。

 レイは、パッとタイラーから手を離し、班長は、信じられない!という顔で俺を見た。

「そうなのか?やっぱり身長に比例するのかな?」

 トコトコと、こちらに歩いて来るレイの後ろで、タイラーが安堵の表情を見せる。
 全く。あとで、何か奢らせよう。

 レイは班長の真ん前に立つと、腕組みして班長を見上げる。

「おい、くまちゃん班長、ちょっとズボン下ろせよ」

 自室に、何体もテディベアを置いている事から、班長は裏で『くまちゃん』というあだ名で呼ばれている。

 そう。あくまでも裏で、だ。
  
「なん……くまちゃ?」

「くまちゃん班長だろ?みんなそう言ってるぞ?」

 班長の目が、ギラリと光った。

「おまえたちっ。私を、そんなふうに呼んでるのか」

 視線はレイを飛び越えて、カフェでワタワタしている部下達を捕らえた。

「新人に吹き込んだのは誰だ?」

 班長に凄まれて、一同の間に緊張が走る。

「いやっ、あのっ、別に変な意味じゃないって言うか、なっ!」
「タイラー、お前、黙ってろって!」

「そうか、わかった。言えないのなら、全員そこを動くな」

 のしのし歩き出した班長を見て、蜘蛛の子を散らす様に、逃げていく同僚達。



 レイはその状況を不思議そうに眺める。

「なんかマズイ事言ったか?」




 この騒ぎ以降、レイには下ネタに強い奴という、嬉しくもない評価が付き、
 俺はしばらくの間、ジャングルさんと呼ばれるのだった。

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