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看病
しおりを挟む教授が父親だと知った時、俺は相当混乱した。
自分の気持ちに整理がつかなくて、結果的に何年もあの人に会いに行く事が出来なかった。
学生時代、父とは知らずにあの人から受けた優しさ。
あの人が、俺の頭を撫でてくれるのが好きだった。少しでも長く、あの人と一緒にいたかった。
俺は、自分が恋をしてると思っていた。
「全く、あのシロウとやり合って、無傷な訳無かろうが!」
医官トップの爺さんが、眉をしかめる。
あの士官をシロウと、呼ぶのは爺さんだけだ。
医務室でしか見ない、クルクル回るイスに座って待つ。
「ほりゃ!」
ガサリと、紙袋を押し付けられる。
「鎮痛剤、抗生剤、それといまアイスバックつくっちょるから、それで冷やせ」
中に入っている薬と説明書を確認する。
「コレで改善せんなら、どっかしら折れとる。怪我したのが、あのボウズでなけりゃあ、今すぐレントゲンじゃ」
「何だ爺さん、レイの医者嫌い知ってんのか?」
じっとりとした目で、爺さんが俺を見る。
「入隊前の健康診断で、あやつ一人にどれだけ時間割いたか知っとるか?
採血なんぞ三人がかりじゃぞ!
全く、大暴れしおって。手当上乗せして欲しかったわい」
横で薬品の納品書を見ていた助手達も、ウンウンとうなづく。
「そりゃ悪かったな」
コレは謝るしかない。
肩をすくめる俺に、爺さんは真顔で尋ねる。
「お主、あのボウスに錠剤飲ませられるか?」
「あー薬を?そうだなあ…」
「はい!先生、投薬ゼリーはどうですか?」
「採用じゃ。持ってこい」
医務室にある冷蔵庫から、助手の一人が何か取り出して持ってきた。
「何だコレ?」
小ぶりのパウチを三つ渡される。
ひんやりと冷たくて、携帯食にも見えるが。
「現場で保護した子供に、投薬の必要がある時に使うんじゃ。
基本的に甘くて、水分補給にも使える。
新しい味のサンプルがあるから、持ってけ」
「ちなみに僕のお勧めはキャラメル味です」
「あ、私はバニラが美味しかったな~」
「なんだ、食ったのか?」
「当然味見するじゃろが、不味かったら子供にやれん!
ワシのお勧めはアップルじゃ!」
「先生!もう、ゼリー使う前提で粉砕しますか?」
「あの方、錠剤みた瞬間に放り投げそう~」
「うむ、確かに。粉にしよう」
なんだかレイは、ここでは有名人みたいだ。
一度受け取った薬は回収され、爺さんが奥にある機械にポチポチと中身だけ投入していく。「一包化しとくぞい」
出来上がった粉薬を再び受け取って、
さて、と立ち上がる。
「なぁ爺さん、アイツ素直に口開けると思う?」
「その辺は、うま~くやれ、うま~く!」
「えぇ~」
一つも役に立たないアドバイスだ。
追加で、スプーンと、ガラスの容器を持たされて部屋に帰る。
レイは、びっしょり汗をかきながら眠っていた。
「レイ?」
声を掛けると、わずかにまぶたが開いた。
「暑いのか?冷やすもの貰ってきたから」
「みずのむ」
掠れた声で、それだけ言って目を閉じる。
「わかった。待ってな」
ちょっと騙すみたいで気が引けるが……。
喉が渇いてるなら、今がチャンスだ。
容器にゼリーを入れる。
端っこに粉薬を出して…ゼリーで包みスプーンに乗せる。
「レイ、ほらあーん」
ちょんちょんと、口をつつくとレイはゆっくり口を開けた。
バレませんように。
内心ドキドキしながら、スプーンを口に運ぶ。
「ん」
コクリ、と喉がなる。
飲んだ。
レイは再び、あ、と口を開けた。
「喉乾くのか?もっと欲しい?」
結局、半分寝てるようなレイの口にゼリーを運び続けた。
パウチひとつ食べ終わるころ、レイは再び寝息を立て始めた。
薬は入った。水分も摂れた。
あとは、冷やすか。
ベッドに上がって脚だけタオルをめくる。
一番腫れてる大腿にアイスバックを当てて、少しずつ場所をずらしながら冷やしていく。
アイスバックを動かす度にカラコロと涼しげな音が響く。
まったく、とんだ休日になった。
夜は部屋食にしてもらって、レイとゆっくり過ごそう。
『アンタを盗ろうとしたんだ』
士官の言動に、怒ってくれたレイ。
俺はそれが嬉しかった。
レイの中に、そんな感情があるなら。
それが、いつか恋に変わる可能性は、ゼロじゃないと信じてる。
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