誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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怒り

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「レイ……」

 士官に対する怒りと、レイが選んだ方法のやるせなさに胸が痛んだ。


 自分で選んだとは言ったが、他の手段など無かなったのではないか。

 極限に飢えた状態で、食事を与えられ、言う事を聞いたら、もっと望みを叶えてやるなんて。

 そんなのは、優しさじゃない。
 交渉ともいえない。
 悪意ある誘導だ。



 だが、それを口にすることは、レイのプライドを傷つける事にはならないか?
 選んだ、と思っていられるからこそ、耐えられたのではないか?


 ない混ぜになった感情にグルグルと支配されて、俺は言葉を発する事が出来なかった。


 レイは掴んだ俺の手をもて遊びながら、話を続けた。


「おっさんとは、あの日別れたきり、今日まで一度も会うことはなかったんだ。 正直、子供の頃のそんな出来事、俺は忘れてた」


 忘れてた?
 本当に?
 最悪の出来事じゃないのか⁈



「それが、今日、食堂に行く途中で声をかけられたんだ。『スラムの痩せたネズミが、随分と大きくなったものだ』って」


 声を掛けたのは士官からだってのか!
 それはつまり、自分の過去の行動を微塵も隠す気がないって事だ。

 レイはもう、子供じゃない。
 その気になれば、士官を訴える事も出来る。それなのに、自分から姿を現した。


「最初は誰かわからなかった。
 でも、あの黒い髪と黒い瞳を見て思い出したんだ。
 だって」

 俺は中庭で、キツい顔で士官を睨んでたレイを思い出す。


「レイ、お前本当は、アイツにされた事を思い出して怒りが爆発したんだろ?
 恨んで当然だ」

 俺の言葉に、レイはキョトンとして答えた。


「俺はおっさんを恨んでないぞ?」




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