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アザだらけの身体
しおりを挟む「うわっ!」
部屋のドアを開けて驚いた。
「レイ!素っ裸で歩き回るなって何回も言ってるだろ!誰か開けたらどーすんだ!」
下着も履かずに、クローゼットを物色しているルームメイトに目を疑う。
シャワー後なのか、ポタポタと髪から雫が落ちていた。
俺は慌ててドアを閉める。
廊下に誰も居なくて良かった。
「はあ? 別に男しかいないんだから問題ないだろ?」
レイは面倒くさそうに返事を返す。
あぁもう。
レイが問題ないと思ったって、俺は!
お前の裸を他の奴に見られるのは、とんでもなく嫌だ。
白くて滑らかな肌。無駄な脂肪など微塵もない様な引き締まったその身体はーー
……あ?
「レイ、それどうした?」
近づいてよくよくその身体をみる。
下腹部、左大腿部、肢体に赤黒く残る跡。
「さっき、おっさんに蹴られた」
「なん、脇腹も!こんな、何ヶ所も!」
「何発が喰らったからな」
あぁ、くそっ!
「ハロルド?眉間にシワができてるぞ?」
レイが不思議そうに俺を見ている。
その顔にも殴られた跡が痛々しく残っていた。
なるべくそっと頬に触れる。
「冷やしたか?痛むんじゃないのか?」
「別に?こんなの昔はしょっちゅうだった」
さらりと、言ってのける『昔』ってのは、スラムにいた頃か。
俺は知らないのに、
あの士官は知っているレイの過去。
それより、とレイは俺の手を避けるとクローゼットを覗く。
「俺の服がない」
「あ?あぁ。昨日洗濯に出したランドリーバッグがまだ戻ってきてないだろ?」
それにレイは、元々最低限の服しか持ってないもんだから。
「食堂に行けない。俺、腹が減ってるのに」
きゅるる~と、タイミングよくレイの腹が鳴って、俺は思わず吹き出した。
「ははっ!
待ってろ、俺の貸してやるから」
俺は自分の服の中から、レイでも着れそうなヤツを引っ張り出す。
Tシャツをそのまま着たんじゃ、胸元が開きすぎるから、中にはタンクトップを着せて。
スウェット……腰の紐を思いっきり絞ればいけるかも。
「あー、ちなみにレイ。パンツは?」
「それは一枚あった」
ふふん、と誇らしげにレイが言う。
「だったらパンツだけでも先に履いてくれ、丸見えだぞ」
「はあ?」
何が問題なんだ、とレイは首を傾げる。
あーもー全く。
苦笑いする俺の横で、レイは着替え始める。
「デカイ!何だコレ、アンタ嫌味か?」
袖を通した服の、サイズの合わなさったらない。
「待て待て、中には一枚着ろって!」
「何でだ、暑いだろ!」
「屈んだら乳首が見える!」
「……はあ?ちくび?」
怪訝な顔でレイが見上げてくる。
「だ、か、ら、乳首が!見える!」
「おい。アンタ、何言ってんだ?大丈夫か?熱でもあるのか?」
レイはペタペタと俺の顔を触る。
背伸びして、俺の額と自分の額を合わせた。
「別に熱は無いな……」
至近距離にある、レイの腫れた頬。
唇を這わせると、そこだけが異様に熱い……。
平素なら、体温は俺の方が高いのに。
「ハロルド?なんだ?」
ぎゅうっとレイを抱きしめた。
レイは、俺のためにこの傷を作ったのだ。
恐らくは士官から俺を守るために、こんなにアザだらけになったのだ。
その事実が、どうしようもなく愛おしい。
あぁ。好きだ。
お前が、好きだ。
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