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対決
しおりを挟む「ハロルド!ハロルドいるか⁈」
着替えを済ませた、ちょうどその時。
ドンドンと、激しく部屋のドアを叩かれた。
「なんだ?」
「あぁ、良かった、いた」
ゼーゼー息を切らせながら、同期の隊員が俺の肩を掴む。
「おまえのっ、ルームメイト、止めてくれ」
「は?」
「フジタ士官と、殴り合ってる」
「どこだ⁈」
「中庭っ」
場所を聞いて飛び出した。
俺のミスだ。同じ敷地内にあの士官がいるのに、レイを一人にした。
食堂に行く途中で、出くわすかもなんて考えもしなかった!
レイ!
正面玄関に続く廊下には、人だかりが出来ていた。
「あ、ハロルドだあ」
「おもしれー事になってんぞー!」
揶揄う奴らを掻き分けて窓際に行く。
「どっちが勝つと思う?」
「やっぱり、士官じゃね?」
中庭に対峙する二つの人影が見える。
士官と、あぁ、レイ。
レイはすっかり、初めて基地に来た時の顔に戻っていた。
怒りに揺れる蒼い瞳。
雑に髪を掻き上げるその姿が、入隊初日に見たレイの姿とリンクする。
スラム出身である身を蔑まれたレイは、現役の特殊部隊隊員三人を殴り倒し、医務室送りにした。
あの時は、相手に相応の過失有りと判断されて、レイには班長からの口頭注意で済んだ。
だが、今回は相手がマズイ。
レイの白い肌に目立つ左頬の打痕。
そして汚れた服。
既に何発かくらった様だった。
それでも士官から、視線を外さずに仕掛けるタイミングを測ってるようだ。
対してクソ士官は、涼しい顔をしてレイを見ている。
「誰か最初から見てた奴いるか?どっちから仕掛けた?」
先に手を出したのがレイだとすると、更に立場が危うくなる。
これだけギャラリーがいるんだから、誰かしら目撃していそうだが。
「あー、いつの間にか中庭で始まってたんだよなー」
「何か喋ってだけど、遠くて聞こえなかったな」
「なあ」
ただの手合わせだと思っているのか、集まっている同僚達は、随分とのんびりした反応だ。
部屋に来て知らせてくれた、同期の真っ当な感覚に感謝しないと。
あの上司は、現役で現場に出ていた頃から 負けなしだったと聞く。
肩まで伸ばした黒髪に、細い体。女性的な外見に反して、猛者揃いの部隊内で、あの男に土をつけられる人間は、今まで一人もいなかったのだ。
レイは、第一部隊内では一番腕っぷしが強いが、相手があの士官では話は別だ。
それに士官は、相手の平静を奪うためなら、いくらでも下卑た言動を取れる人間だ。
レイのキレっぷりからして、確実になにか言われた。
そもそも俺に怪我をさせた事で、レイは士官を敵として認識している。
レイの方から引き下がる事はない。
俺が止めないとーー。
窓枠に足を掛けて、外に出ようとした時だ。
士官が妖艶に微笑んで、俺を見た。
『お前を掛けての試合中だよ。横槍を入れるんじゃない』
「は……?」
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