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ハロルド・リー
しおりを挟むバシャバシャと、多めのボディーソープを泡立てて身体を洗う。
あぁ、クソ。香水くせぇ。
士官自身が付けてる香水の他にも、あの部屋には独特の香の匂いが立ち込めている。
在室した時間は、たいして長くは無かった。
だが、こうして体を洗っても、なお残る匂いが、あの男の情念みたいなものが自分にまとわりついている様で、何とも気味がわるいのだ。
『珍しくお前の方から部屋に来たかと思えば』
『そんな話か』
『わたしは諦めんぞ?』
仕事の無茶振りに加えて、勝手に本部行きの話を進めようとした件。
俺がどれだけ本気で怒ったって、あの男が真っ当に取り合うとは、はなっから思っちゃいなかった。が。
ヤツの行動はいつも常軌を逸している。
手首に赤々と残る、握られた跡。
さらに、鏡を見てゾッとする。
痛いとは思ったが……。
頚動脈の上にクッキリと残る指の跡が、まるで首輪のようだ。
「ハロルド」
シャワーカーテンの間から、レイがひょっこりと顔を出す。
「どうした、濡れるぞ?」
「なぁハロルド。その士官ってヤツ、アバラの二、三本でも、折ってきてやろうか?」
腕っぷしの強いルームメイトの、物騒な発言に苦笑いする。
まさか本当に、上司に拳を振り上げたりはしないだろうが。
いやしかし、この男ならやりかねない。
「止めとけ、せっかく入隊したのにクビになっちまうぞ」
やんわりとクギを刺しておこう。
そもそも、入隊初日に他の隊員を医務室送りにして人事部の印象は悪い。
「じゃあ、アンタの機嫌を直してやる」
「ん?」
服を着たまま俺に手を伸ばすレイを見て、シャワーを止めた。
「アンタ、前にぎゅってして欲しいって言った。ハグするのは好きだろ?」
この男は、一見ツンツンしてるように見えて、実によく俺の事を気にかけてくれるのだ。
背中にレイの腕が回る。
俺もレイを抱きしめた。
伝わる体温に、なんとも言えない充足感を覚える。
「悪いな、濡れるのに」
「別にいい。セックスは?したいか?」
抱き合ったまま、レイが聞いて来る。
「ははっ、レイ君本気で言ってる?
こんな時間から始めたら、昼飯食いっぱぐれるぞ」
「そうか、それもそうだな」
ちょっと首を傾げて考える。
「じゃあキスは?したいか?」
「いや、今は」
「今出来ないのは何でだ?」
レイは、自分が納得するまで聞いてくる。
「さっき、ヤツにされたから」
どの道、隠し続けるのは無理だろう。
「はあ?」
キリキリと、眉が吊り上がった。
「馬鹿かっ!拒否しろよ!上司だからって、そこまで言いなりにならなくていいだろ!」
「したんだって!でも俺、そもそもあの士官に武術習ってたから、動きの癖もバレてるし、あっちは躊躇なく急所狙ってくるし、なんつーか勝てねぇんだって、癪だけど!」
クビを絞められながら、口の中を舐められるのは、本気で吐くかと思う程気持ち悪かった。
レイは、ふうーんと面白くなさそうな顔をすると、俺の顔に手を伸ばして引き寄せた。
「レイ、こら、ストップ!」
「アンタさっき歯磨きしてたろ?」
「いや、したけどなんか。お前に悪い」
グイッと引かれて、レイの唇が眼前に迫る。
「ハロルド、口開けろ。俺は気にしない」
あぁ、全く男前だなあ、俺の想い人は。
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