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父親
しおりを挟む「先に言っておくけど、俺は知って良かったと思ってるから」
静かにハロルドは微笑んだ。
「ウチにいたメイド覚えてるか?
彼女、メアリーが全部教えてくれた。
俺の入隊日が決まって、あの屋敷を出る日に」
「すまないっ」
教授は絞り出すように、謝罪の言葉を口にした。
「わたしは、おまえに、残酷な人生をっ」
「いいんだ」
呼吸の荒くなる教授の胸を、ハロルドがさする。
「メアリーから聞いた。俺が子供の頃、
何度も様子見に来てたんだろ?
それに、入学する大学に教授として赴任してくれた。
充分俺のそばに居てくれた。覚えてる?大学にある父さんの研究部屋で、よく昼寝してたっけ」
ハロルドのデカい手が、教授の目から出る涙を拭った。
「俺をずっと気に掛けてくれてた。本当にそれで充分だよ。
それに…父さんって呼べた。本当の事を知った日から、ずっと呼んでみたかったんだ」
「あぁ、ハロルド」
ぶるぶると震える手で、教授はハロルドを抱きしめた。
「おまえを愛してる。ずっと愛してるよ」
「わかってる。ありがとう」
父親と、子供。
本当に、そうなんだ。
ハロルドが口火を切らなければ、教授は墓場まで秘密を持って行くつもりだったんだろうな。
ただ最期に、一目ハロルドに会いたかったんだ。
親子の、愛。
俺に家族が居ないから、余計に尊い物に見えるんだろうか。
教授がそっと顔を動かして俺を見る。
涙が、頬を伝ってポツポツと落ちていく。
『エンジェル、お願いだ』
ハロルドには見えない角度で、教授は口を動かした。
『この子を、どうか、ひとりぼっちに、しないでおくれ』
俺も声を出さずに、口の動きだけで答えた。
『わかった、任せろ』と。
ハロルドの父親は、間も無く意識がなくなり、医師が死亡を確認した。
ギリギリだった。
本当にギリギリの所で、親子として過ごせた。
病院の駐車場で待機していた車に乗り込む。運転手は退役した、元隊員だという。
ハロルドが、『基地まで』と告げると、初老の男性ドライバーは頷き、後部座席との間にあるカーテンを引いた。
俺にもたれるようにして、ハロルドは
目を閉じる。
そして。
ポツリ、ポツリと自分の出生の秘密を語り始めた。
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