誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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アンタと俺の違いは

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「難しいな、サッパリ分からん」
「日頃どれだけ、聴力に頼ってるかって事だよねー」


 食堂のテーブルで、ハロルドに対面して、俺と同僚五、六人が、じっとハロルドの口をみる。

 口唇を読むことに挑戦中なんだ。

 ランチ時に、自分にしか出来ないスキルはあるかって話になった。
 ハロルドは、『使える場面は限られるけど』と前置きして読唇術が出来るといった。

 防塵スカーフを巻いたり、マスクをする様な現場では使えないだろうが、敵が近くに居る時には、仲間との意思疎通に役立ちそうだ。
 ハンドサインと並行して、利用価値がある、と俺は感じた。


 試してみたいと思った俺は、ハロルドの横の席から対面に場所を移動した。

 ハロルドが追加情報として、
「気に入らない奴の前で、堂々とソイツの悪口をいえる」
 なんて言ったものだから、周りで聞いてた奴らが面白がって参戦してきたのだ。

 が、あーだこーだと推測した答えは、全部ハズレだった。

「降参?降参か?正解は、『高タンパクな食堂の料理が俺の筋肉を作っている』でした~!」

「ギャハハ、なんだよーその文章!」
「もっと、こう、真面目な内容かと思ったじゃねーかよ!」
「正確を聞いた後なら、そんな口の動きだったかもって、思えるけどなあ」
「中々難しいもんだな」

「口の形をよく見て、前後の会話も頭にいれながら。あとは、慣れだ」

 試しに俺達の言葉をハロルドに読んでもらったら、全部当てられた。





「アンタは誰から教わったんだ?ここの座学にはない技術だろ?」

 食後のコーヒーを飲みながら質問する。

「むかーし、大学にいた頃に、教えてくれた教授がいたんだ」

 ふと、ハロルドが遠い目をしたのを、俺は見逃さなかった。

「懐かしいか?」
「ん?あぁ」
「学生だった頃に戻りたいか?」 
「まぁ、楽しくはあったな」


 いいな。
 幸せだった過去が、あるって。

 俺には、帰りたい昔なんてない。






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