10 / 100
アンタと俺の違いは
しおりを挟む「難しいな、サッパリ分からん」
「日頃どれだけ、聴力に頼ってるかって事だよねー」
食堂のテーブルで、ハロルドに対面して、俺と同僚五、六人が、じっとハロルドの口をみる。
口唇を読むことに挑戦中なんだ。
ランチ時に、自分にしか出来ないスキルはあるかって話になった。
ハロルドは、『使える場面は限られるけど』と前置きして読唇術が出来るといった。
防塵スカーフを巻いたり、マスクをする様な現場では使えないだろうが、敵が近くに居る時には、仲間との意思疎通に役立ちそうだ。
ハンドサインと並行して、利用価値がある、と俺は感じた。
試してみたいと思った俺は、ハロルドの横の席から対面に場所を移動した。
ハロルドが追加情報として、
「気に入らない奴の前で、堂々とソイツの悪口をいえる」
なんて言ったものだから、周りで聞いてた奴らが面白がって参戦してきたのだ。
が、あーだこーだと推測した答えは、全部ハズレだった。
「降参?降参か?正解は、『高タンパクな食堂の料理が俺の筋肉を作っている』でした~!」
「ギャハハ、なんだよーその文章!」
「もっと、こう、真面目な内容かと思ったじゃねーかよ!」
「正確を聞いた後なら、そんな口の動きだったかもって、思えるけどなあ」
「中々難しいもんだな」
「口の形をよく見て、前後の会話も頭にいれながら。あとは、慣れだ」
試しに俺達の言葉をハロルドに読んでもらったら、全部当てられた。
「アンタは誰から教わったんだ?ここの座学にはない技術だろ?」
食後のコーヒーを飲みながら質問する。
「むかーし、大学にいた頃に、教えてくれた教授がいたんだ」
ふと、ハロルドが遠い目をしたのを、俺は見逃さなかった。
「懐かしいか?」
「ん?あぁ」
「学生だった頃に戻りたいか?」
「まぁ、楽しくはあったな」
いいな。
幸せだった過去が、あるって。
俺には、帰りたい昔なんてない。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説


目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ルームシェアは犬猿の仲で
凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。
新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。
しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉
掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。
犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。


紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる