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恋する男達
しおりを挟む「嘘?…なんで……そんな事」
「班長の上に、士官っていう役職があるのは、知ってるな?」
「うん。ニ部隊ずつ仕切ってる偉い奴だろ?」
俺の言葉に、ハロルドがゆっくり頷く。
「この特殊部隊は、第七部隊まであるな?
でも、第七は医療班として独立してる。
という事は、六部隊をニ部隊ずつ受け持つと士官は何人だ?」
「第六まであるから、三人いるんだろ?」
「そうだ。その三人の中で一番若くて、俺達の第一と、第二部隊の上に立ってるのが、シロウ・フジタ士官」
そいつがデマの出所だ、とハロルドは肩をすくめた。
「朝食前に俺、班長に呼ばれたろ?あの時、本部から誘いが来てるって話だったんだ」
やっぱり。
「その後、訓練前にまた呼ばれたろ?
今度は話だけでも聞きに、一度本部に顔を出せと来たもんだ。
もちろん断った。
行ったが最後、勝手に荷物運ばれて、知らない間に本部所属にされるに決まってる」
ーえ、いま……断ったって言ったか?
「実は異動の話は、もう何回も断ってるんだ。それでも諦めずに、今回はデマを流して、俺が行かざるを得ない様に仕向けてきやがった」
長めの前髪を掻き上げながら、ハロルドは小さく嘆息した。
「あの時、食堂での話をお前が聞いてるとは思わなかった。早くに気付くべきだった」
「ハロルド……じゃあアンタは本部にはー」
「行かない。今までだって断って来たのに。その上、今はこの場所にお前がいる。離れる筈がないだろ」
あぁ、なんだ、俺。てっきり。
「レイ、お前。
俺が本部に行くと思い込んで、俺から離れようとした。そうなんだな?」
俺は真っ直ぐ見てくるハロルドに、頷くしかなかった。
「そうか」
ハロルドは目を細めた。
心底うれしそうな顔だ。
「良かった。お前の中で、少しでも俺が特別で」
「ハロルド……」
特別…そう、確かにハロルドは特別なんだろう。
「アンタは、断って大丈夫なのか?
よくわかんないけど、昇進とか、立場とか」
「問題ない。そもそもあのクソ上司が、勝手に俺に執着して騒いでるだけなんだ」
「執着?」
「誘いを断った」
「はあ?」
「ここに入隊した直後に告白されて、それを断った。
でも、どうしても自分の側に置きたいらしい。
何回断っても、本部行きの話を持ってくるんだ。
俺に泊まりの仕事振ってくるのも、そう。俺が誰かと一緒の部屋で寝起きすんのが嫌なんだと!」
一気に話してから、ハロルドはバタンッとベッドに仰向けになった。
「班長と話しても埒が開かないから、一度直接釘刺さねぇと」
自分に言い聞かせるように呟いた。
きゅるる、と空気を読まない俺の腹が鳴った。
「あ」
反射的に俺は腹を押さえた。
「冷めたな、悪い。話が長くなった」
言いながら、ハロルドが上体を起こす。
「いや、大丈夫」
ハロルドが異動しないとわかって、胃が動き出した。現金なもんだ。
「あれ、ハロルド?コレ二人分なのか?」
「あ?」
小さなデスクを埋める料理は、男二人にはあまりにも……。
ふふっ、とハロルドは恥ずかしそうに顔を覆った。
「自分の分頼むの、忘れてた。俺も余裕がなかったってことだな」
立ち上がったハロルドが、でかい手で俺の頬を包む。
「今後も、俺がアイツの誘いに乗ることはない、仕事の面でも、肉体的な面でも、約束する。だから、レイ。他の奴の所には、行かないでくれ。なるべく夜は一緒に寝られるようにする」
ハロルドに言われて、ハタと気付いた。
セックス出来れば良いだけなら、別の男でも構わないんだ。
でも。
「アンタ以外と?俺が?考えた事もなかった」
それはなぜ?
答えを自分でも、わかり始めていた。
「なら、これからもしていいか?こういう事」
逞しい胸に抱き込まれる。
「だから、アンタの事は嫌じゃないって言ったろ」
柔らかく暖かい口唇が、俺の額に触れた。
目があってお互い微笑んだ。
それにしても……ハロルドに恋して、何年も追いかけるシロウって奴は、どんなに男なんだろう。
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