誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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別れの予感

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 曇天の中を、六人ずつ隊員を乗せたヘリコプターが連なって飛行する。

眼下に広がる森林は、この部隊のために国が用意した訓練場だ、と入隊時の説明にあった。

『どっからどこまでなんだ?』
『だから、見えてる所ぜーんぶだって』

バラバラと響くプロペラ音。
明けっぱなしの後部ハッチから入る強風。
隣に座るハロルドの声も聞き取れない。

座学で習った簡単なハンドサインで意識疎通する。
コレは部隊ごとの固有のハンドサインだから第一部隊の人間にしか通じないらしい。


「間も無く指定地点上空です」
パイロットが、無線を通して伝えてくると同時に、それぞれが装備の最終チェックに入る。

点呼の時に伝えられた、早朝の訓練は
千二百メートル上空からのパラシュート降
下。

毎日どんな訓練をするのかは、点呼の時に班長から伝えられるまで分からない。射撃場に行く日もあれば、山の中を走る日もある。

その時、その場で求められる事をこなせなければ、この部隊には残っていられない。

稀に、点呼だけとって朝食にありつける時もあるが、月に一度くらいのラッキーデーだ。

ホバリングする機体から、一定の間隔で降りて行く隊員達。
先に出たハロルドの姿が小さくなるのを確認して俺も空中に飛び出す。

空気を切り裂いて、頭から滑降していく感じは好きだ。ゾクゾクする。
このまま、どこまで地面に近づけるのか試してみたい。


着地に成功してパラシュートを畳んでいると、ハロルドが大股で近づいてきた。

国外の任務から帰ったばかりなのだから、本来なら今日は訓練に参加しなくてもいい筈なのに。 コイツも大概タフだな。

「レイ!開くのが遅すぎる!」
「はあ?ちゃんと目標におりたろ⁈             俺が一番近かった!見てなかったのかよ⁈」
「俺は自分の安全を確保した上で着地しろって言ってんの!」
「確保してる!別に怪我したわけでもないのに、アンタうるさいぞ!」
「レイ、怪我してからじゃ遅い!」 

お互い引かずにいたらー
「ハロルド・リー! レイ・ダベンハイム!今すぐそこから移動しろ!後続者の邪魔だ‼︎」
無線から聞こえたのは班長の怒鳴り声。
キンキンする耳を押さえて二人で上空を降り仰ぐ。

既に開いたパラシュートを操作しながら、一人の隊員が降下してきている。
俺たちは慌てて待機場所に走った。
「アンタのせいで怒られた」
「はいはい」

待機場所には、三メートル程の高さの監視台がある。
先に降りた同僚達を下に整列させて、双眼鏡片手にそこに居るのが、第一班の班長だ。

「ハロルド・リー、朝食前に私の執務室に来るように」
感情を押さえた声で指示されて、ハロルドは
やっちまった、という素振りで肩をすくめた。




食堂へ向かう通路を一人で歩く。
注意されるなら、俺も呼ばれるべきじゃないのか?

『なんでアンタだけなんだ?』
ハロルドは不思議に思わないのか、
『先に食堂に行っててくれ』と言っただけだった。

カチャカチャと食器の擦れる音や、注文を繰り返す食堂スタッフの声に混じって、『ハロルド・リーが……』という声を聞き取った。

反射的に声の主を探す。

食堂の入り口から、さほど遠くないテーブルに集まって、同じ班の奴等が湧き立っている。

「幹部からの指名だって!」
「二十代で本部行きなんて、滅多にないぞ」
「給料バカみたいに上がるんだろ⁈」
「いーなー!もう決定なんだろ?俺も行きてぇ~!」

本部?

一般隊員には、その所在地すら明かされない、この特殊部隊の中枢に、ハロルドが、異動?

そうか、と俺は納得した。
その話をするために、ハロルドだけが班長に呼ばれたんだ。

明るく話す同僚達を見ながら、俺は身体の芯が冷んやりとして、熱を失って行くのを感じ
た。

上司からの指示を断ったら、将来の昇進に影響すると聞いた事がある。
そもそも本部行きの誘いなど、断る人間はいないだろうな。


なんとなく、ハロルドとは長く居られないんじゃないか。そんな気はしていた。

こんな俺には、有り余る男だ。

最初こそ強引だったが、その後は、なるべく優しく接しようとしてるのは分かっていた。

そんな男に、俺は何をしてやれたのか。

きっと離れてしまえば、狭いベッドで抱き合った事などすぐに忘れてしまうのだろう。

「レイ?どうした、席あいてねぇの?」
入り口で呆けた様に立ち尽くす俺を、不思議そうに見下ろす黒い瞳。
「ハロルド……」
なぜか名前を呼ぶ声が震えた。

この瞳に俺が映ることは無くなるのか。




平気。ずっと一人だった。

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