上 下
195 / 298
第五章 五国統一

第71話 本人の前では言いにくい事ってあるよね

しおりを挟む
 幾度となく、走っては壁に当たり走っては壁に当たりを繰り返していたユーキだったが、痺れを切らしたフィーが遂に直接攻撃を開始する。

「いい加減にしてください! 私だってずっと追いかけるのは疲れるんです」
「だったら追いかけてくんな~!!」
「そうはいきません! ユーキさんと距離を開ける訳にはいかないんですから」

(今、距離を開けられないって言った? じゃあやっぱり!)

「無理矢理にでも止まっていただきます! ダークネスアロー!!」

 暗闇にフィーの声が響くと、闇に紛れた黒い矢がユーキの足をかすめる。

「痛っ!!」

 直撃ではないものの、痛みで転倒してしまうユーキ。

「ぐうっ!」
「さあ、逃げてばかりいないで、正々堂々闘ってください」
「こんな暗闇に閉じ込めて、見えない所から攻撃して、正々堂々ゆ~な!」
「これが私の闘い方ですので」

(くっ! あと2回壁に当たれば……)

 痛む足を引きずりながら、再び移動を始めるユーキ。

「その足でまだ逃げるんですか? まあ、飛行魔法も使えない状態なら、致し方ないんでしょうが」

 少し移動すると、また壁に辿り着くユーキ。

(よし! あと1回!)

 来た方向とはまた違う方向に移動を始めるユーキ。
 その動きを客席で見ていたパティ達が、ユーキのやろうとしている事に気付き始めていた。
 
「やっぱり! これで決まりね!」
「ふむ……やはりユーキ君も、闇の空間があるのは自分の周りだけという事に気付いているようだね」

「え!? どうして分かるの? ロロ、分かる?」
「ふわっ!? も、勿論なのです! それぐらい簡単なのです!」
「ふ~ん……じゃあロロ、説明して」
「はわあっ!? あ、あの、えと、そのお……ごめんなさいなのです! 見栄を張っていたのです!」
「やっぱりね。後でおしおきだから」
「はうあっ!?」

 ロロの知ったかぶりが判明すると、セラがネムに説明をする。

「ユウちゃんが移動した経路ですよぉ」
「経路?」
「はいぃ。最初に壁に当たってぇ、そこからの移動経路を辿ると五芒星の形になるんですぅ」
「五芒星? あ! 魔方陣!?」

「そうですぅ。ユウちゃんが出て来れない所を見るとぉ、おそらくあの玉の中では魔法……特に光属性の魔法が使えないんでしょぉ。だからユウちゃんは自ら移動しながら魔方陣を描いてるんですよぉ。あの玉そのものを囲んでしまう程巨大なのをねぇ」
「そうなんだ?」

「あたし達は上から全体を見渡してるから気付いたけど、ユーキの近くに居るであろうフィーには、ユーキが魔法を使えないから、ただ逃げているようにしか見えないでしょうね」

 だがフィーも、ユーキの行動に不自然さを感じていた。

(しかし妙ですね? いくら魔法が制限されているとはいえ全く使えない訳でもないのに、さっきから反撃しようともせず逃げてばかりというのは……)

 飛行魔法で追跡しながら、ユーキの様子をうかがっていたフィーが、ある考えに至る。

(まさか!? ユーキさんは意味も無く逃げていたのではなく、すでに何かを仕掛けて……!?)

「そうはさせません! グラビティ!!」
「あうっ!!」

 フィーの重力魔法により、地面にうつ伏せ状態のまま身動きがとれなくなるユーキ。

「ぐうっ! お、重いいい!」
「何かを企んでいるようですが、もうここから一歩も逃しません。ですが、念の為です。ダークネスアロー!!」

 フィーの放った暗黒の矢が、ユーキの両手足を貫く。

「うああああ!! ぐっ、ううう」
「これ以上あなたを傷付けるのは心が痛みます。降参してください、ユーキさん!」
「や、やだね! 僕は絶対に優勝してニテンドーウイッチをゲットするんだから!」

「分かりませんねえ。それは本音ではないでしょう? いくら最新鋭のゲーム機とはいえ、王族なら手に入れる事は容易でしょうし。優勝しても統一国の王になるつもりは無いと言うし。あなたは一体何の為に優勝しようとしてるんですか? 一応言っておきますが、私が勝ったとしてもユーキさんに結婚を迫る事は無いですよ?」

 フィーに闘う理由を問われたユーキが、真剣な表情になり答える。

「そだね……まあ、この空間の中ならパティには聞こえないだろうから正直に言うけど。君が準決勝でパティを泣かせた事、僕怒ってるんだからね!!」

 怒りの表情に変わったユーキが、超重力の中徐々に体を起こして行く。

「まさか!? 強化魔法も使わずに、この超重力の中で動けるなんて!?」
「すぐにおちゃらけてたから、一見平気なように見えたけど、あれはきっと僕を心配させないようにっていうパティの優しさだったんだ!!」

 両手を地面から離し、膝に手をついて立ち上がるユーキ。

「今まで僕の前では1度も涙を見せた事のなかったパティが、本気で泣いてたんだ!!」

 背筋を伸ばし、完全に両の足だけで立つユーキ。

「僕の……僕の大切な人を泣かせるなあああ!!!!」

 ユーキの怒号と共に、ユーキから凄まじい魔力が溢れ出す。

「そんなバカな!? エターナルマジックとて光属性。この空間の中では使えない筈!?」
(まさか!? パティを想っての怒りの感情が、眠れる魔力を呼び起こしたというんですか?)

「ホーミングフェザー!!」

 ユーキのシールドから撃ち出された数本の羽が、闇を突き抜けて飛んで行く。

「何を!?」

 フィーが動揺している頃、ユーキの放った羽により完成した魔方陣が光を放つ。

「んふふ~、どうやら無事に完成したようですねぇ」

 しかし、セラが喜ぶその横で、何故かノーリアクションのままうつむいているパティ。


「何だあああっ!? いきなり巨大な魔方陣が現れましたああ!! いやしかし、何という大きさだああ!? 闘技場全体を完全に覆い尽くしています!! これはどちらの選手が仕掛けた物か!? いやそれ以前に、これ程巨大な魔方陣を一体いつの間に仕掛けたのかああ!?」

 
 魔方陣の完成を感じ取ったユーキが、魔法無効化の結界を発動させる。

「マジックイレーズ!!」

 結界により、ユーキを包んでいた闇の塊が一瞬で消滅して、その中からユーキとフィーが現れる。

 
「ああっとお!! 先程の魔方陣の効果でしょうか!? 黒い玉が消滅して、ユーキ選手とフィー選手が現れました~!! 2人の姿が見えて、わたくし正直ホッとしております!!」


「さあ、これでやっと正々堂々闘えるよ!?」
「ふう……逃げているように見せかけて、こんな巨大な魔方陣をせっせと作っていたんですか?」
「あの空間は僕の周りの小範囲にしか無いと思ったからね。闘技場の壁を基準にして逃げるフリをしながら、大雑把でも補えるようあちこちに羽を撃ち込んで行ったんだよ」

「なるほど。でも、例えそうだとしても、あの時重力魔法でユーキさんの動きは完全に封じた筈でした。その時の精神状態により魔力は上下するとはいえ……ユーキさんがそこまでパティの事を想ってくれていたとは、母親としては嬉しい限りです」

 恥ずかしさもあり、フィーに小声で話すユーキ。

「ち、ちょっと! ここで言ったらパティに聞かれちゃうでしょ!? さっきの話、恥ずかしいんだからパティには言わないでよね!?」
「ああご心配なく。どの道パティには先程の会話も全部筒抜けだと思いますよ? だってあの空間には魔力を封じる効果はあっても、音を遮る効果はありませんからね」
「んなっ!?」

 フィーの言う通り、ユーキの想いを知ったパティが、顔を真っ赤にしながらうつむいていた。

「あれぇ? パティちゃん、そんなに赤くなってどうしたんですかぁ? 悪魔らしく地獄の釜で茹でられたんですかぁ?」

 無言で、セラの両頬を思いっきり引っ張るパティ。

「いいっ!! 痛いぃ!!」
「ユーキがそれ程あたしの事を想ってくれていたなんて……夢じゃないわよね?」
「夢じゃ無いですぅ!! 痛いですぅ!! パティちゃんがこんなベタなボケをやるぐらい舞い上がってますぅ!!」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少年退行モラトリアム

絃屋さん  
ファンタジー
受験勉強の現実逃避で、イツキは神様にあるお願い事をした。 勉強せずに遊んで暮らしたい。 なぜか間違った形で願いは叶えられ、イツキの生活は一変する。

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

ドグラマ2 ―魔人会の五悪党―

小松菜
ファンタジー
※登場人物紹介を追加しました。 悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマの続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...