上 下
14 / 25
因果応報編

しおりを挟む
 バゴラと会うところは王都の貴族が通う高級な食事処コッキュールと言うお店だった。

昼時なのに店内に客はいない。支配人らしき男に要件を言うと俺達を奥の席に案内する。この前来た使いが俺の顔を見ると、偉そうに座っているバゴラを紹介した。

「こちらが主のバゴラ様で御座います」
「デュオと申します」
「ふん、若いな」

「さ、こちらにどうぞ。本日はもう御一方お見えになります」

フェイクライフのアーサーは俺が座ると後ろに立った。仮面をつけているので誰も2200年前に、あの魔王を倒した勇者とは判らない。もっとも顔は古い肖像画だけしか残ってないので、知ってる人は居ないと思うけど。それにしても、もう1人って誰だろう?

店の前が騒がしくなった。直ぐに護衛を連れて一目で貴族と判る男が入って来た。

ガレキーニ!まさかこんな所に来るとは。心臓がバクバク言い出した。予想外だ。どうする?直接の面識は無いし認識阻害の魔道具があるので大丈夫な筈だが。

「いらっしゃいませ、ガレキーニ様」
「うむ、待たせたな」
「いえ、私どもも今来たところで御座います」

使いの者に促されガレキーニに挨拶をすます。

「そなたの後ろにいる者は、何故そのような仮面をしておる?」

「この者は幼い時に魔物に襲われ、顔に酷い傷を負いまして、人前にはとても見せられません。失礼をお許し下さい」

「構わん、見せよ」
「はい」

どうする?ここでガレキーニを始末するか……流石にここでは不味い、店の皆の顔も知られているので活動がしにくくなる。それにガレキーニを殺すことが目的の全て出はない。ここは自重する。

フェイクライフの容姿形を変えると、本来の能力が使えなくなるが、最悪この程度なら俺だけで乗りきれる。

「アーサー、仮面を筈しなさい」
「はい」

アーサーが仮面を少しずつずらして行く。変色して爛れたような皮膚が見え、目蓋の無い目がギロリと皆を見る。現れた鼻の凹凸は無く2つの穴が見える。

「うっ、分かったもう良い」

アーサーが仮面をつけ直すと、料理が運ばれてきた。

食事をしながら王都で起こっている世間話をした後、バゴラが話を切り出して来た。

「お前の店で扱っている香辛料と海産物を私の店に卸して欲しい」

どうしようか?もちろん、そう言う話は断るつもりだったが貴族のガレキーニがいるので強気に言うと面倒だ。

何かいい口実を考えないと……。俺は子供の頃に読んだ或る物語を思い出した。王族ではあるが、母が身分の低い者だった為に数奇な運命をたどった若者の話だ。

「申しわけありません。あの店は主の命で出しているので、私の一存でお答えする事が出来ません」

「なにっ!」
「主とは誰だ?」

「ハミルトン王国の王の血をひいておられる御方で御座います。訳あって王位継承権を特例をもって放棄が叶い、気儘にお暮らしになっておられます。皆様の事はお話し致しますが、ご希望に沿えないかもしれません」

「そ、そうか」


ーー

「ガレキーニ様、いかが致しましょう?」

「私の差し向けた刺客があっさり殺られたのだ。ただ者ではないのは間違いない。資金が減るのは癪にさわるが、暫くは様子を見るとしよう。バゴラ!至急、代わりになる物を考えよ」

「は、はい」


ーー


「ガレキーニが来たのですか?」
「はい、焦りました」

「奴らも堪えているのよ」
「ですね」

「で何ですって?」
「品物をバゴラ商会に卸せってさ」
「なんて返事したの?」

「それはだ……」


「あはは、よくもまぁ、そんな話をしたわね」

「切羽詰まって思い出したのが、"復讐の岩窟王"の物語なんだ、しょうがないだろ」

「信じたのかしら?」

「一国の王の血筋だと言われれば、嘘でも本当でも簡単には手が出せないだろう」

「そうですね、暫くは何事も無いでしょう」

「次はどうするの?」

「エドオリオの街にも店を作る。そして裏の稼業を1つずつ潰して行く」

バゴラのフェイクライフを造って1つ判った事がある。フェイクライフで、ある人物を造ると、元の人物の知識を持っていると言う事だ。

それでガレキーニのフェイクライフにを造って、繋がっている者全てが判明した。暗殺組織もその1つで、各地に多く存在する。手始めに、ここから攻める。宮中の情報は欲しいのでベンジャミンは引き続き中で頑張ってもらう。

「ガレキーニの奴、慌てるだろうね」

「情報がどっかから漏れているとしか考えられないから、部下を信用出来なくなって疑心暗鬼になるわよきっと」


勇者アーサーの力を借りて犯罪組織、暗殺組織を順調に潰して行く。これで奴らの機動力も落ちるだろう。

店の方も上手く行っている。あれから店に嫌がらせや襲撃は無い。今日は店も休みの日なので各々別行動だ。

俺はサユリカを連れて、久しぶりにギルドに顔を出そうと街に出た。

「ウィル君」
「えっ?」

振り返るとそこにウエリントン子爵がいた。ウエリントン子爵の顔を見た俺は、何故かホッとした。

だけど物事はそんなに簡単にはいかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

俺だけ✨宝箱✨で殴るダンジョン生活

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
俺、“飯狗頼忠(めしく よりただ)”は世間一般で【大ハズレ】と呼ばれるスキル【+1】を持つ男だ。 幸運こそ100と高いが、代わりに全てのステータスが1と、何をするにもダメダメで、ダンジョンとの相性はすこぶる悪かった。 しかし世の中には天から二物も三物ももらう存在がいる。 それが幼馴染の“漆戸慎(うるしどしん)”だ。 成績優秀、スポーツ万能、そして“ダンジョンタレント”としてクラスカースト上位に君臨する俺にとって目の上のたんこぶ。 そんな幼馴染からの誘いで俺は“宝箱を開ける係”兼“荷物持ち”として誘われ、同調圧力に屈して渋々承認する事に。 他にも【ハズレ】スキルを持つ女子3人を引き連れ、俺たちは最寄りのランクEダンジョンに。 そこで目の当たりにしたのは慎による俺TUEEEEE無双。 寄生上等の養殖で女子達は一足早くレベルアップ。 しかし俺の筋力は1でカスダメも与えられず…… パーティは俺を置いてズンズンと前に進んでしまった。 そんな俺に訪れた更なる不運。 レベルが上がって得意になった女子が踏んだトラップによる幼馴染とのパーティ断絶だった。 一切悪びれずにレベル1で荷物持ちの俺に盾になれと言った女子と折り合いがつくはずもなく、俺たちは別行動をとる事に…… 一撃もらっただけで死ぬ場所で、ビクビクしながらの行軍は悪夢のようだった。そんな中響き渡る悲鳴、先程喧嘩別れした女子がモンスターに襲われていたのだ。 俺は彼女を囮に背後からモンスターに襲いかかる! 戦闘は泥沼だったがそれでも勝利を収めた。 手にしたのはレベルアップの余韻と新たなスキル。そしてアイアンボックスと呼ばれる鉄等級の宝箱を手に入れて、俺は内心興奮を抑えきれなかった。 宝箱。それはアイテムとの出会いの場所。モンスタードロップと違い装備やアイテムが低い確率で出てくるが、同時に入手アイテムのグレードが上がるたびに設置されるトラップが凶悪になる事で有名である。 極限まで追い詰められた俺は、ここで天才的な閃きを見せた。 もしかしてこのトラップ、モンスターにも向けられるんじゃね? やってみたら案の定効果を発揮し、そして嬉しい事に俺のスキルがさらに追加効果を発揮する。 女子を囮にしながらの快進撃。 ステータスが貧弱すぎるが故に自分一人じゃ何もできない俺は、宝箱から出したアイテムで女子を買収し、囮役を引き受けてもらった。 そして迎えたボス戦で、俺たちは再び苦戦を強いられる。 何度削っても回復する無尽蔵のライフ、しかし激戦を制したのは俺たちで、命からがら抜け出したダンジョンの先で待っていたのは……複数の記者のフラッシュだった。 クラスメイトとの別れ、そして耳を疑う顛末。 俺ができるのは宝箱を開けることくらい。 けどその中に、全てを解決できる『鍵』が隠されていた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。 特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。 その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった! 吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか? ※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...