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不浄の門編

神の思し召し

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 伯爵は視線を反らし、執事のシルバーさんに夕食の用意をするように言った。

「もう日が暮れる、今夜は泊まっていってくれたまえ」

「はい、お言葉に甘えさせて頂ます」
「うむ」


何事もなく食事も終わり、自分の部屋に戻った。リサ、レナの部屋は隣なので、中間に時空間を造り打ち合わせをする。

「えっ、吸血鬼ですか?」
「そうだ、注意を怠らないように」

「「はい」」


その時、俺の部屋の扉がノックされる。

「また後でな」
「分かりました」


部屋に戻る。

「どうぞ」

「夜遅くに申し訳ございません。旦那様がシン様と2人きりで、お話したいと申しております」

来たか。

「解りました」
「どうぞこちらに」

伯爵の執務室の様だ。

「すまんね、夜遅くに。掛けてくれたまえ」
「はい、失礼します」

長い沈黙の後、伯爵が口を開いた。

「君は私の正体を知ってしまったようだね」

やはり、俺を殺す気か?俺は身構えた。

「待ってくれ、君と話がしたいだけだ。危害を加えるつもりは無い」

ん?……違うのか、取り合えず伯爵の下に時空間を造り、何時でも落とせる様にしておく。

「昔は夜の街に出ていって、人を襲ったのだが妻のセリーヌに出会って止めたのだ。今は対価を払って、理解有る人達から血を貰って暮らしている」

「この屋敷の人達は知っているのですか?」

「昔から使えてくれている人達と縁者だ、知っている。私の正体を知られたのは君が初めてだ。それはつまり、君は特別な力を持っている、と言う事だ」

「……」

「そこで君の力……いや知恵を借りたい。私の娘が病気と言う事は聞いたね?」

「はい」

「しかしだ、娘は私の血を半分は受け継いでる。病気になどかかる理由が無いのだ」

これは大変な話になってきたぞ。

「最近変わった事は?」

「心当たりは有る。実はゼオノバ王国のバルキス公爵が、ご子息と婚姻させたいと言って来た。それを断った直後から娘は寝たきりになって目を覚まさないのだ」

「ゼオノバ王国……」

嫌な所の名が出てきたな。悪い予感しかしない。

「ん、何か有るのかね?」

鋭いな、この人。いや、俺が顔に出やすいだけか?伯爵に話すべきか?…………まてよ、吸血鬼って寿命が長い、と言うか不死説が有るよな。なら、知っているかもだ。

「大変失礼な質問ですが、よろしいですか?」
「何だね?」

「今のお歳は?」
「358歳だが、それがどうかしたのかね?」

人はそんなに長生きじゃない、どうやってバレずに、この家を存続させて来たのだろう?まあ、それは後回しで。

「不浄の門と言う物をご存知ですか?」

「不浄の門だと……遥か昔、我が同胞が互いに争い、滅亡の危機になった原因とされている物だと、読んだ事がある」

「その書物はどこに?」
「子供の頃ゆえ、今はもう無い」
「そうですか」

「それが娘の病気と、どういう関係が有るのだ」

「ゼオノバ王国で国王が殺され、奴隷街が襲われ何千人もの奴隷が居なくなった事は?奴隷が街を襲って、首をハネても死ななかった、話は?」

「国王の話と奴隷が居なくなった話は知っているが、首をハネても死なない話は初耳だ」

「ゼオノバ王国の付近で、不浄の門が開きつつあるらしいのです。もしかしたらバルキス公爵はその力を利用しているのかもと、ふと思ったのです」

「なんと……君はどこで不浄の門の話を知ったのかね?」

「それは、今はちょっと言えません。それよりお嬢様にお会いしたいのですが」

「う、うむ。いいだろう」

案内された部屋に寝ている女性に近づく。顔を見て息が止まる。

「シンシアさん……」
「な、なぜ娘の名を知っているのだ?」

頭の中で"どうして?、何故だ"がグルグル回る。………………やってくれたな。

「女神ナーシャ様の思し召しとしか言いようが……」

「ナーシャ様の思し召しだと……色々と聞きたい所だが、君と面識が無いのは明らかだ。しかも無駄だと解っていても、シルバーが方々に薬を探し回った結果、君と会ったのだ。君を信じよう」

「ありがとう御座います」

改めてシンシアさんの顔を見る、生きてはいるが精気が全く感じられない。

「これは、病気と言うより呪いの類いでは?」

「呪いか?……それも考えた。私も一族に伝わる様々な書物で調べたのだ。死んでいるなら冥界神の司る冥界に行き、我々には手の出しようが無い。

しかし生きている、つまりこの世と冥界の間、魂の世界と言うのか精神世界と言うのかは解らんが、そこにいると考えられる。呪いだとすると、無理やりそこに連れていかれたのだろう」

「つれ戻す方法は無いのですか?」

「有るにはあるが、それが難しいのだ。直ぐには手にも入らん」

「手に入らんとは、必要なのは物なのですか?」
「ああ、そうだ。"死者の書"だ」

「死者の書……?」

「そうだ。稀にリッチを倒せば手に入ると言われている」

「あっ、それ持ってるかも」
「はぁ?」


ーー

「さすがの私も君には呆れるな。いや、失礼。称賛しているのだよ」

「いえ、偶々ですから。でも読めませんでした」
「それなら大丈夫だ。賢者が書いた辞典が有る」

「読めたとして、どうするのです?」
「この部屋を魂の世界の入口にするのだ」

「なるほど。で、行くのは誰が……」
「君しかいないだろう。娘を助けてくれ頼む」

「分かりました」


こうなるよな、やっぱり。

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