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14 公女さまのパンツ手に取る。捕まる
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ミスルムスフィア自治領、バタンベリー平原、ダームスフィア王国軍陣地
到着早々、事件が起きた。
「どうしてお前が、ここにいるんだー!」
「俺のほうが、びっくりなんだが。お前さあ、ちゃんと部隊の指揮、執れんの?」
街でマイに絡んでいた、いつぞやの坊っちゃんだ。
まさか、総勢一八〇名からなる部隊のトップが、坊っちゃんだったとは誰が予想できようか。
「隊長に向かって、お前とはなんだー!」
「は? 俺ら傭兵はナントカっていう国王に雇われてる身なんで、別にお前の部下でもなんでもねえし」
「言われてみれば、たしかに……」
坊っちゃんの取り巻き、ヘビィの姿もあった。その隣で長身の取り巻き、ローングが「うんうん」とうなずいている。
三人とも他の正規兵よりも立派な装備をしている。
特に坊っちゃんの鎧は、金ピカの主張が激しい。
「そんなわけあるかー! お前たちはボクの部隊に編入されているんだから、ボクの命令に従わなければならないんだ!」
「はあ、うるさいな。んじゃあ隊長さん。俺たちはこれから何をすればいいんだ?」
「そうだった。いいか! お前たちに早速、任務を与える。それは持ってきた補給物資を各部隊に配分することだ!」
「うわ、地味……」
残念そうに湊は言った。
「地味って言うんじゃなーい! そういうお前には、あそこの荷台に積んだ食糧を運んでもらうぞ! それを一番端に陣を張っているコラード騎士団のところまで送り届けるんだ!」
見ると、荷台いっぱいに袋や樽が積まれている。
(一番端って。ガキの嫌がらせかよ――)
「わかった。じゃ、さっそく運ぶわ」
そう言って、湊は荷台から適当に軽そうな袋をひとつ選んだ。
§
陣の中央付近まで来た時、ひときわ目立つ、大きくて白い天幕が見えてきた。
興味を惹かれた湊は、地べたに座って、くつろいでいた兵士に尋ねた。
「なあ、あの立派な白い天幕は誰のだ?」
「ああ、あれは麗しの姫騎士さまのだ」
(姫騎士……)
「ふうん、名前は?」
「ハイランド大公国の第一公女、エメラルダ様だよ」
「エメラルダ……教えてくれて、サンキュー」
湊は袋から干し肉を取り出して口をモグモグさせながら、白い天幕に近づいていく。
「不用心だな。見張りもいないのか」
遠巻きに中の様子をうかがう。
人の姿はない。
「ちょっと、中にお邪魔してみるか」
物資の積まれた荷台から武器棚へ。
なるべく人目につかないように近づいて、さっそうと天幕の中に入った。
香でも焚いているのか、ハーブの匂いが漂ってきた。
中は豪華な装飾が施された間仕切り壁によって、いくつかの部屋に分かれているようだ。
床まで伸びた暖簾を押しのけ、奥の部屋に入ってみると、そこは豪華なベッドが置かれた寝室だった。
地面には厚手の絨毯が敷かれている。
品のいい化粧台とチェアがひとつ。
湊は袋を置いて、ベッドに近寄る。
ベッドの上に小さな白い布切れがあった。
なんとなしに、その布切れを手にとると――、
「女性の寝室に勝手に入って、なにをしているのですか?」
背後から若い女の声。
振り返ると、ナイフの先端が目の前に。
湊は両手をあげた。
「――ッ! その、手に持っているのはわたくしの!」
「ん? これ?」
見ると紐パンだった。お尻の部分がメッシュになって透けている。
「うわ、エッロ!」
「おだまりなさい!」
エメラルドブルーの瞳が睨めつけてくる。
小さな頭に煌めくティアラをのせ、膝上まで伸びたブロンドのロングストレートがなびいていた。
白をベースとした白黒のワンピース型の防具に身を包み、下は白のニーハイブーツに黒のヒール。
肩と脇を除いて、腕もまた白の手袋で守られている。
身長は、一六〇ちょっとはありそうだ。
「どうしました? なにをそんなにじっと見ているのです?」
「……」
「なにか言ったら、どうなのですか?」
「……」
着痩せするタイプとみた。
防具のせいもあるが、膨らみからして、胸は推定Fカップ。
腰のくびれ具合といい、黒いスカートからのぞく健康的な太ももといい、スタイルはかなりのものと予想する。
すぐにでも抱きたくなるような身体つきをしている。
「いま、あなたから不穏なオーラを感じ取りました。さてはあなた。わたくしを亡き者にしようと忍び込んだ暗殺者ですか? どうなのです?」
「……」
「沈黙は肯定を意味します。そうなのですか?」
「……いや、『黙れ! このクソがぁ!』と言われたんで」
「ク……そのような、はしたない言葉で、わたくしは言ってません! ですが、たしかに『おだまりなさい』とは言いました。それならば、あなたに一度だけ、弁解のチャンスを与えます。なにか言うことは?」
「いやあ、なんとなく入ってみたかったから?」
「せっかくのチャンスを自らふいにするとは。あなたはもしかして、愚か者ですか?」
「そんな愚かな俺は、これからどうなるんだ?」
「そうですね。ここがわたくしの国であれば、即刻、死罪です」
「物騒だな。かわいい顔がだいなしだぞ。まあ死罪じゃないなら無罪確定ということで――」
湊が横に動こうとしたと同時、喉ぼとけにナイフの切っ先が触れた。
「動いたら、いまこの場で死刑執行です」
「おいおい、よしてくれよ。俺はなにもしてないぞ」
「天幕に一般の兵士が立ち入ること自体、重罪なのです。ましてや男などもってのほか。これで死罪確定です」
「じつは俺、貴族なんだけど?」
ティアラの少女が小首をかしげ、訝しげに見つめてくる。
「……ほう。あなたが貴族? 貴族であれば、先程の作戦会議の場にいたはずですが? しかし、あなたのような格好をした者は見かけませんでした。なぜでしょうか、傭兵さん?」
(やべ……)
「……ああ、貴族ってのは冗談! じつは本日よりあなたさまを護衛する任につきました湊って言います。エメラルダ第一公女殿下!」
「まあ、そうでございましたの?」
にこやかに――エメラルダの声色が変わった。
「はい!」
「では湊。そなたに最初の任を与えます。このハイランド大公国第二公女、エメラルダ・デトマソ・ハイランドが。――死になさいっ!」
公女が一歩踏み込んで湊の喉を突き刺す。
湊は片足を引きつつ、体を反らせた。
(第二? 第一じゃないのか。あの野郎、間違いやがって!)
「なぜ、避けるのですか?」
「避けれたから?」
エメラルダの剣技は、パワーでは劣るもののスピードと正確さでは国内でも五本指には入る。
それなのに、難なく湊は避けた。
追撃するエメラルダ。
しかし、かすり傷ひとつ与えられず、空を切る音だけが虚しく響く。
「殿下、あまり暴れないほうがよいのでは。汗臭くなりますよ? 俺もそろそろお暇しようと思いますので――」
エメラルダはハッ、ハッと息を切らしながら、
「もう忘れたのですか? どこにも行かせません!」
エメラルダが大振りしたところを湊はすかさず、足払いする。
「きゃ!」
可愛いい声をあげエメラルダがベッドの上に倒れた。ブロンドの髪がベッド一面に広がった。
馬乗りになった湊はナイフを彼女から取りあげると、遠くに投げ捨てた。
少女の細い両手首を片手で拘束。
エメラルダの両脚の間に体を割り込ませる。
エメラルダは、M字に股を広げて湊を迎え入れるような格好になった。
恥ずかしさのあまり、エメラルダの顔が真っ赤になる。
この世に公女として、生を享けて一七年。
男子禁制の環境で大切に育てられたエメラルダは、男がどんなものなのか知らない。
直接、まともに話したことのある男といえば、大公である父だけだ。
侍女たちから学んだことは、男は皆、野蛮で汚らしい狼であること。
「放しなさい。無礼者! わたくしを誰だと――」
湊はもう片方の手で、エメラルダの口を塞いだ。
「んぐー! むぐぅ……」
ジタバタもがくエメラルダに顔を近づけ、湊は落ち着いた口調で言った。
「助けを呼ばなかったのは賢明な判断です。叫んだ時点であなたの方が死んでいたかもしれませんよ? それにしても……殿下はなぜ、このような状況になってしまわれたのか、わかりますか?」
エメラルダは首を横に振った。
「それは殿下が――。バカだからですよ?」
「むふーっ! んふーっ!」
案の定、怒ってもがくエメラルダ。目がこわい。
高貴な公女さまのことだ。こんなこと言われたのは初めてだったろう。
「おバカで弱いくせに。ひとりで、どうにかできると思ったのですか。それがこのザマです。だから、ナニされても文句は言えませんよね?」
そう言って、湊はエメラルダに顔を近づけた。
いままで、強気だったエメラルダの顔が恐怖にゆがむ。
湊は少女の首すじに口づけして、ペロッと舐めた。
エメラルダがビクっと反応する。
かすかな塩気と苦味が、舌に広がった。
エメラルダの胸元から甘い匂いが漂ってきた。
苦味の原因はこれか。
香水を首すじから胸元にかけて振りまいたのだろう。
「んーーっ! むふふーっ!」
「そんな殿下だからこそ、この俺がボディーガードとして送られてきたわけです」
キリっ!
すべてアドリブ。
「無礼な振る舞いをしたことはお詫びします。ですが、身をもって現実を知ってほしかった。この戦場で殿下がどれだけ危険に晒されているのか。どうです? わかっていただけましたか、殿下?」
湊の言うことを信じたのか、エメラルダが全身の力を弱めた。
(意外と素直だな――)
突然、めまいに襲われた。
(……あれ?)
それからはあっという間だった。
視界がゆがみ、全身が金縛りになる。
湊は気を失った。
§
蝋人形のように固まった湊をどかして、エメラルダはベッドから離れると、身なりを整えた。
「愚か者は、あなたでしたね」
エメラルダは、腰に付けた小さなポーションバッグから液体の入った小瓶を取り出した。
相手が経口摂取しそうな場所に、あらかじめ塗っておくことで口にした相手を麻痺させて気を失わせる秘薬。
「これを塗っておいて正解でした。男は誰もかれも皆、ケダモノ。これからも身を引き締めて、用心することにいたしましょう――」
作戦会議を終えた帰り、エメラルダは、湊が天幕に入るところを偶然にも目撃していた。
「姫さま――」
「その声は……アーシェですね……」
寝室に入ってきたのは、神官の格好をした少女だった。
エメラルダとは同い年の女の子で、神官とはいってもまだ見習いの身である。
「姫さま。お怪我はございませんか?」
「大丈夫です、アーシェ。それよりも心配をかけてしまったようですね」
「とんでもございません。……ところで姫さま。この者の扱いは、いかがなさいますか?」
「そうですね。とりあえず檻に入れておいてください。処遇については、これから考えます。もし本当に誰かの差し金であれば、調べあげる必要がありますが」
到着早々、事件が起きた。
「どうしてお前が、ここにいるんだー!」
「俺のほうが、びっくりなんだが。お前さあ、ちゃんと部隊の指揮、執れんの?」
街でマイに絡んでいた、いつぞやの坊っちゃんだ。
まさか、総勢一八〇名からなる部隊のトップが、坊っちゃんだったとは誰が予想できようか。
「隊長に向かって、お前とはなんだー!」
「は? 俺ら傭兵はナントカっていう国王に雇われてる身なんで、別にお前の部下でもなんでもねえし」
「言われてみれば、たしかに……」
坊っちゃんの取り巻き、ヘビィの姿もあった。その隣で長身の取り巻き、ローングが「うんうん」とうなずいている。
三人とも他の正規兵よりも立派な装備をしている。
特に坊っちゃんの鎧は、金ピカの主張が激しい。
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「はあ、うるさいな。んじゃあ隊長さん。俺たちはこれから何をすればいいんだ?」
「そうだった。いいか! お前たちに早速、任務を与える。それは持ってきた補給物資を各部隊に配分することだ!」
「うわ、地味……」
残念そうに湊は言った。
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見ると、荷台いっぱいに袋や樽が積まれている。
(一番端って。ガキの嫌がらせかよ――)
「わかった。じゃ、さっそく運ぶわ」
そう言って、湊は荷台から適当に軽そうな袋をひとつ選んだ。
§
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興味を惹かれた湊は、地べたに座って、くつろいでいた兵士に尋ねた。
「なあ、あの立派な白い天幕は誰のだ?」
「ああ、あれは麗しの姫騎士さまのだ」
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「ふうん、名前は?」
「ハイランド大公国の第一公女、エメラルダ様だよ」
「エメラルダ……教えてくれて、サンキュー」
湊は袋から干し肉を取り出して口をモグモグさせながら、白い天幕に近づいていく。
「不用心だな。見張りもいないのか」
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人の姿はない。
「ちょっと、中にお邪魔してみるか」
物資の積まれた荷台から武器棚へ。
なるべく人目につかないように近づいて、さっそうと天幕の中に入った。
香でも焚いているのか、ハーブの匂いが漂ってきた。
中は豪華な装飾が施された間仕切り壁によって、いくつかの部屋に分かれているようだ。
床まで伸びた暖簾を押しのけ、奥の部屋に入ってみると、そこは豪華なベッドが置かれた寝室だった。
地面には厚手の絨毯が敷かれている。
品のいい化粧台とチェアがひとつ。
湊は袋を置いて、ベッドに近寄る。
ベッドの上に小さな白い布切れがあった。
なんとなしに、その布切れを手にとると――、
「女性の寝室に勝手に入って、なにをしているのですか?」
背後から若い女の声。
振り返ると、ナイフの先端が目の前に。
湊は両手をあげた。
「――ッ! その、手に持っているのはわたくしの!」
「ん? これ?」
見ると紐パンだった。お尻の部分がメッシュになって透けている。
「うわ、エッロ!」
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白をベースとした白黒のワンピース型の防具に身を包み、下は白のニーハイブーツに黒のヒール。
肩と脇を除いて、腕もまた白の手袋で守られている。
身長は、一六〇ちょっとはありそうだ。
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「……」
着痩せするタイプとみた。
防具のせいもあるが、膨らみからして、胸は推定Fカップ。
腰のくびれ具合といい、黒いスカートからのぞく健康的な太ももといい、スタイルはかなりのものと予想する。
すぐにでも抱きたくなるような身体つきをしている。
「いま、あなたから不穏なオーラを感じ取りました。さてはあなた。わたくしを亡き者にしようと忍び込んだ暗殺者ですか? どうなのです?」
「……」
「沈黙は肯定を意味します。そうなのですか?」
「……いや、『黙れ! このクソがぁ!』と言われたんで」
「ク……そのような、はしたない言葉で、わたくしは言ってません! ですが、たしかに『おだまりなさい』とは言いました。それならば、あなたに一度だけ、弁解のチャンスを与えます。なにか言うことは?」
「いやあ、なんとなく入ってみたかったから?」
「せっかくのチャンスを自らふいにするとは。あなたはもしかして、愚か者ですか?」
「そんな愚かな俺は、これからどうなるんだ?」
「そうですね。ここがわたくしの国であれば、即刻、死罪です」
「物騒だな。かわいい顔がだいなしだぞ。まあ死罪じゃないなら無罪確定ということで――」
湊が横に動こうとしたと同時、喉ぼとけにナイフの切っ先が触れた。
「動いたら、いまこの場で死刑執行です」
「おいおい、よしてくれよ。俺はなにもしてないぞ」
「天幕に一般の兵士が立ち入ること自体、重罪なのです。ましてや男などもってのほか。これで死罪確定です」
「じつは俺、貴族なんだけど?」
ティアラの少女が小首をかしげ、訝しげに見つめてくる。
「……ほう。あなたが貴族? 貴族であれば、先程の作戦会議の場にいたはずですが? しかし、あなたのような格好をした者は見かけませんでした。なぜでしょうか、傭兵さん?」
(やべ……)
「……ああ、貴族ってのは冗談! じつは本日よりあなたさまを護衛する任につきました湊って言います。エメラルダ第一公女殿下!」
「まあ、そうでございましたの?」
にこやかに――エメラルダの声色が変わった。
「はい!」
「では湊。そなたに最初の任を与えます。このハイランド大公国第二公女、エメラルダ・デトマソ・ハイランドが。――死になさいっ!」
公女が一歩踏み込んで湊の喉を突き刺す。
湊は片足を引きつつ、体を反らせた。
(第二? 第一じゃないのか。あの野郎、間違いやがって!)
「なぜ、避けるのですか?」
「避けれたから?」
エメラルダの剣技は、パワーでは劣るもののスピードと正確さでは国内でも五本指には入る。
それなのに、難なく湊は避けた。
追撃するエメラルダ。
しかし、かすり傷ひとつ与えられず、空を切る音だけが虚しく響く。
「殿下、あまり暴れないほうがよいのでは。汗臭くなりますよ? 俺もそろそろお暇しようと思いますので――」
エメラルダはハッ、ハッと息を切らしながら、
「もう忘れたのですか? どこにも行かせません!」
エメラルダが大振りしたところを湊はすかさず、足払いする。
「きゃ!」
可愛いい声をあげエメラルダがベッドの上に倒れた。ブロンドの髪がベッド一面に広がった。
馬乗りになった湊はナイフを彼女から取りあげると、遠くに投げ捨てた。
少女の細い両手首を片手で拘束。
エメラルダの両脚の間に体を割り込ませる。
エメラルダは、M字に股を広げて湊を迎え入れるような格好になった。
恥ずかしさのあまり、エメラルダの顔が真っ赤になる。
この世に公女として、生を享けて一七年。
男子禁制の環境で大切に育てられたエメラルダは、男がどんなものなのか知らない。
直接、まともに話したことのある男といえば、大公である父だけだ。
侍女たちから学んだことは、男は皆、野蛮で汚らしい狼であること。
「放しなさい。無礼者! わたくしを誰だと――」
湊はもう片方の手で、エメラルダの口を塞いだ。
「んぐー! むぐぅ……」
ジタバタもがくエメラルダに顔を近づけ、湊は落ち着いた口調で言った。
「助けを呼ばなかったのは賢明な判断です。叫んだ時点であなたの方が死んでいたかもしれませんよ? それにしても……殿下はなぜ、このような状況になってしまわれたのか、わかりますか?」
エメラルダは首を横に振った。
「それは殿下が――。バカだからですよ?」
「むふーっ! んふーっ!」
案の定、怒ってもがくエメラルダ。目がこわい。
高貴な公女さまのことだ。こんなこと言われたのは初めてだったろう。
「おバカで弱いくせに。ひとりで、どうにかできると思ったのですか。それがこのザマです。だから、ナニされても文句は言えませんよね?」
そう言って、湊はエメラルダに顔を近づけた。
いままで、強気だったエメラルダの顔が恐怖にゆがむ。
湊は少女の首すじに口づけして、ペロッと舐めた。
エメラルダがビクっと反応する。
かすかな塩気と苦味が、舌に広がった。
エメラルダの胸元から甘い匂いが漂ってきた。
苦味の原因はこれか。
香水を首すじから胸元にかけて振りまいたのだろう。
「んーーっ! むふふーっ!」
「そんな殿下だからこそ、この俺がボディーガードとして送られてきたわけです」
キリっ!
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湊の言うことを信じたのか、エメラルダが全身の力を弱めた。
(意外と素直だな――)
突然、めまいに襲われた。
(……あれ?)
それからはあっという間だった。
視界がゆがみ、全身が金縛りになる。
湊は気を失った。
§
蝋人形のように固まった湊をどかして、エメラルダはベッドから離れると、身なりを整えた。
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エメラルダは、腰に付けた小さなポーションバッグから液体の入った小瓶を取り出した。
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作戦会議を終えた帰り、エメラルダは、湊が天幕に入るところを偶然にも目撃していた。
「姫さま――」
「その声は……アーシェですね……」
寝室に入ってきたのは、神官の格好をした少女だった。
エメラルダとは同い年の女の子で、神官とはいってもまだ見習いの身である。
「姫さま。お怪我はございませんか?」
「大丈夫です、アーシェ。それよりも心配をかけてしまったようですね」
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