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【第6章】契約破棄、そして新たな約束
出ていこう
しおりを挟む普通の結婚だったら、彼はきっと喜んでくれると思う。
だけどこの結婚は、1年限定の契約。
おそらく、いやきっと、困った顔をするに違いない。欲望に負けて約束を破ったことを後悔するのではないか。
あるいは、妊娠させた責任を取って、結婚を続けようと言うだろうか。
……どちらの反応も嫌だ、と私は思っている。困った顔をされるのも、責任を感じられるのも。
こんな事態を招かないために、最初に約束を決めたはずだった。
私こそがあの夜、約束を盾に拒絶するべきだったのだ。けれどそうしなかった。
責任があるのはむしろ、私の方だ。昂士くんは悪くない。
近々、出ていこう──唐突にそう決める。
前の事務所はお給料は良かったから、勉強を続けながらでも、多少の貯金はできた。退職後もそれにはまったく手を付けていない。引っ越して出産準備をするぐらいは賄えるだろうと思う。
タクシーが、山根沢邸の現場近くに着いた。領収証をもらって降りる。
現場では、屋根を張る工事が進められていた。職人さんの姿はあるが、いるはずの永森さんや、野々原先生たちの姿がない。
時間を間違えたかな、とスマートフォンを見ると、電源が入っていなかった。病院で切ったまま、入れ直しそこねていたのだ。
慌てて起動させると、着信履歴が5件。いずれも永森さんから。
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