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【第6章】契約破棄、そして新たな約束
新たな葛藤
しおりを挟むタクシーに乗っている間中、ため息が止まらなかった。
出勤を少し遅らせて、病院に行ってきたのだ。言うまでもなく産婦人科に。
『心音はまだ確認できませんが、おそらく7週目ですね』
ベテランの風格を漂わせる年配の女医さんは、検査の後で私にそう告げた。
渡された内視鏡の写真には、豆粒のような形で、小さくもはっきりとその存在が映っていた。
『来週また来てください。その頃には確認できると思いますよ』
緊張で言葉少なな私に、女医さんは安心させるように言った。心音が確認できないことを不安がっていると思ったらしい。
『……そう、ですか』
『初産かしら』
『は、はい』
『不安があったら遠慮しないでいつでもいらっしゃい。とりあえず、受付で来週の予約を取っていってね』
先ほどまでとは違う母親のような口調に、なんだか、胸に沁みるものを感じた。
一番近くにある、という点で来てみた病院だけど、この女医さんなら信頼できそうだ。
『ありがとうございます』
言われた通り、受付にある機械で来週の予約を取った。取って建物を出てから、新たな葛藤に襲われた。
やっぱり彼に言わなきゃいけないよね、という思いと。
もし堕胎を望まれたら怖い、という思いが、胸のうちで交錯している。
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