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【第5章】波乱と不安
散策
しおりを挟む荷物を適当に片付けて、用意されていたお茶を飲む。
1階に降りて、しんとした館内を通り、二人で外へ出た。天気が良いので夕食まで散策をしようと話して。
他の宿の宿泊でも入れる外湯の場所を確認したり、土産物店を覗いたり。
外れには地元の人が利用するらしいスーパーがあり、そこにも寄ってみた。こういう地元の生活が垣間見られるような場所が、私はけっこう好きだ。
「その気持ちわかる」
「そう?」
「うん。俺もわりと好き」
と昂士くんが同意してくれたので、なんだか嬉しかった。
「ところでさ、そろそろ、その呼び方やめない?」
「呼び方?」
「昂士くん、ての」
「──どうすればいいの?」
「呼び捨てでいいんだけど」
「……それは、まだちょっと」
「わかった、じゃあそのうちな」
そんなやり取りも散策の間にあった。
ようやく「昂士くん」呼びに慣れてきたところだし、呼び捨てに変えるというのはやっぱりハードルが高い。
……それに、そこまで近しい呼び方をしてしまったら、別れる時にもっと辛くなってしまいそうだ。
薄暗くなってきた頃合いで旅館に戻る。館内はやはり、静かだった。おそらく厨房で調理をしているであろう、人の声がかすかに聞こえてくる程度だ。
「ずいぶん静かだね。他にお客さん、いないのかな」
「ああ、今日は貸し切りだから」
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