79 / 104
【第5章】波乱と不安
鄙びた温泉地
しおりを挟む彼が手配したならずいぶんと、よく言えば豪華で悪く言えば大仰なプランになっているのじゃないか、と思った。けれど予想に反して彼が選んだ場所は、それなりに知られてはいるものの賑わっているとは言えない、鄙びたと表す方がふさわしい温泉地だった。
「佐奈子は、人の多い所よりこういうトコの方が落ち着くだろ」
「よくわかったね」
年寄りっぽいかもしれないが、確かに私は、いわゆるリゾート地よりもここのような、シーズン中でもそれほど人が多くはない穴場的な場所が好きだった。
そんなことを話したことはないのに、と感心した気持ちで言うと、昂士くんはにこりと得意そうに笑んだ。
「夫婦だから」
当たり前だ、というふうに短く言い切って、繋いだ手の絡めた指に力を込めてくる。
夫婦って言っても、契約でしかないじゃない。
そう口にしてしまいそうになるのを押し込めて、淡く笑みを返した。
人通りの少ない温泉街を抜けてたどり着いたのは、瀟洒な造りの和風旅館。周りと比べて決して大きくはないけど、庭が広く取られていて、建物はまだ新しい感じがした。
「ようこそいらっしゃいました」
旅館の女将と思われる、品の良い女性に出迎えられる。
「本日はどうぞお寛ぎくださいませ」
2階の、温泉街が見渡せる眺めの部屋に案内された。10畳ぐらいだろうか。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
382
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる