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【第5章】波乱と不安
その週末
しおりを挟むその週の、週末。
正確には土曜日の朝、私は昂士くんと電車に乗り、県の北部へと向かっていた。
事の起こりは一昨日の夜。
帰ってきた彼が、唐突に『1泊2日の旅行の準備しといて』と告げたのだ。
『え、出張でもあるの?』
『違う、佐奈子の旅行準備』
『……私?』
『週末、温泉行くから』
話が見えずに首を傾げる私に、彼はこう続けた。
『気分転換だよ。佐奈子この頃、なんか元気ないだろ』
『え、そ、そうかな』
ぎくりとしつつはぐらかそうとしたが、彼には通用しなかった。
『ここ半月ぐらい、しょっちゅう浮かない顔してるじゃん。今週の頭ぐらいからはさらに憂鬱そうな顔してさ』
『……』
『仕事、相当しんどいんじゃないのか』
『……そんなこと、ないけど』
『俺に強がるなって。ちょうど今週は仕事の切れ目で俺も土日休めるから、一緒に出かけよう』
こういった流れで、突然に、二人での初旅行が決まった。
山根沢氏の件に関するあれこれは、もちろん彼に話してはいないのだけど、根の深い事柄だけに顔に出てしまっている時があったらしい。確かに、地鎮祭のあった今週の日曜からは、ともすれば重い憂鬱に襲われていた。
そんな気分の中で差し出された、彼の気遣いを、とても嬉しく感じた。
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