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【第5章】波乱と不安
新居建築の件
しおりを挟む1月の3週目。
山根沢大岳氏の新居建築の件が、本格的に動き出した。
氏の現在の活動拠点は当然ながら東京なのだけど、こちらで暮らしている老齢の両親が心配なので、一緒に暮らそうと考えての新居らしい。気難しいとの噂だが、意外に親孝行な人物のようだ。
ちなみに山根沢氏は独身である。現在、という注釈が付くけど。
奥さんとは熱愛婚だったそうだが、彼女は仕事に没頭しすぎる夫との生活に嫌気が差して、氏と懇意にしていた音楽プロデューサーと駆け落ちしてしまったとか。
だから山根沢氏に奥さんや不倫とかの話題はご法度だよ、と永森さんに何度も釘を刺された。よくよく気をつけなければ、と心構えをしながら臨む打ち合わせは、なかなかに緊張する。
けれど幸い、氏は永森さんを気に入ってくれたみたいで、初めの2回の打ち合わせは順調に進んだ。
ところが、3回目のこと。
永森さんが仮案として出した設計図を見ながら、山根沢氏は長いこと唸っていた。
「あの、どのあたりがお気に召さないでしょうか……?」
10分近く何も言わないため、永森さんがおそるおそる口火を切る。
氏はさらに2分ほど唸った後、やっと言葉を発した。
「うーん、だいたいは問題ないんだけどねえ……ここ、ここのところ」
「トイレですか?」
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