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第3章
あなたしか知らない
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いつものようにジェイデンと二人でベッドルームに移動すると、メイリスは自ら服を脱ぎ始めた。
ジェイデンが動揺するのを肌で感じたが、気にせずに下着姿になる。
「ねえ…最後に私としてみない?」
メイリスは立ち尽くしている男を振り返って、妖艶に微笑んだ。
ベッドの縁に腰を下ろし、上目遣いで彼を見上げる。
「あなたとは今日でお別れだし…今まで我慢させていたでしょう?構わないから、好きに抱いて…」
「……」
誘うように仰向けになって、彼を見つめながら反応を待つ。
彼女のキャラメルブロンドの髪はシーツの上で乱れ、僅かに上気した肌は緊張で汗ばみ、艶めいていた。
扇情的な瞳に引き寄せられるように、ジェイデンがシャツの胸元を寛げながらベッドに歩み寄ってくる。
しなやかに鍛え上げられた筋肉質の肉体が、どこもかしこも柔らかい滑らかな体に覆い被さった。
始まりから深いキスだった。
指先で背中や腰をゆっくりと撫で回され、官能的な刺激に息が上がる。
彼の唇が顎から首筋をなぞり、胸の膨らみに行きついた。
強く吸い付かれる感覚の後、魔法陣のあった場所にくっきりと赤く華が咲いた。
仕上げとばかりに付いた華をぺろりと舐められ、くすぐったさに僅かに身を捩る。
下着の留め具が外され、たわわな胸が露わになる。
メイリスの興奮度合を表すようにつんと主張した蕾が彼の口内に吸い込まれていく。
敏感なところを執拗に愛撫され、メイリスはすぐに快楽に呑まれた。
「ン、ゃ、ア…!アッ…ひ、ン!」
その傍らで秘部を覆い隠す布がずり下ろされた。
長い指がメイリスの奥深くに入り込み、縦横無尽に蠢く。
指の動きに合わせて潤った蜜壷が音を奏で、愛液がとろとろと彼の手首をつたった。
ぷっくりと膨れた陰核を親指の先で捏ねられると、体を大きく揺らして身悶える。
快感が波のように押し寄せて、膣壁がきゅうきゅうと筋張った指を締め上げた。
「…ッ、」
「ひぁ、イッ…ク…んっ」
喉を反らせて絶頂を迎えたメイリスは、興奮に息を乱す男の様子をぼんやりと見つめた。
スラックスの前を開き、猛々しい肉棒を取り出してはたと動きを止める。
彼が何を迷っているのかわかって、メイリスはシャツの裾を掴んで引っ張った。
「何もつけなくていいわ…そのまま入れて…」
「……」
「あなたが欲しいの…お願い…」
メイリスが強請ると、彼は逡巡した後、彼女の要求に従った。
蜜で濡れて柔らかくほぐれた入り口に先走りで濡れた先端がずりずりと擦り付けられる。
ゆっくりと男根が中に押し込められていくのに合わせて、メイリスの膣内が彼の大きさに拡げられていく。
久しぶりで痛みがあるかと思ったが、前戯でよく慣らされたそこは待ちかねていたように彼を受け入れた。
焦らすように抽送を繰り返された後、唐突に激しく奥を突かれて嬌声が上がった。
「アァ!アンッ!アッ、イ、ン…ッ!」
「…ッふ、…ハッ、は…」
彼も気持ちが良いのか、腰を打ち付ける度に艶のある吐息を漏らして彼女の情欲を煽る。
そのうちメイリスは繋がったまま体を抱き起こされ、口の中を舌で掻き回された。
リズミカルに子宮口を突いてくる彼の肩にしがみつき、されるがままに喘ぐ。
更なる快感を求めて尻を突き出す格好にさせられ、両腕を掴まれて上体を反らすと臍の下に圧迫感があった。
ベッドが軋むほど容赦なく蹂躙され、絶頂に震えそうになるとずるりと引き抜かれて体勢を変えられる。
正面を向き合うと両手のひらいっぱいに胸を鷲掴まれ、グリグリと先端を押し付けるように腰を回された。
その強すぎる快感に、メイリスは堪らず尻を浮かせて抽送を促した。
主人の要望を素直に聞き入れた彼は、自身も限界が近かったのか性急にピストンを早めた。
射精の予兆を感じたメイリスは彼が離れていかないように足を回して固定する。
「ア、アッ、ア、なかに…、だして…っ」
「! ック、ハァ、は、ッ、ァ…!」
メイリスの誘いに応えるように、彼の動きがより一層速度が増す。
そしてそのまま、濃密な精液が勢いよく発射された。
ビュ、ビュ、と音がしそうなほど熱い飛沫が最奥に届いて、メイリスは快感に震えて無自覚に腰を引いた。
しかしすぐさま引き戻れされて、少し抜けた陰茎を再び奥深くまで押し込められる。
ひくひくと収縮を続ける膣内で彼のものがまた大きく震えて精を放つ。
熱い息を吐き出しながら何度も腰を打ち付けて快楽に浸る男の姿が、メイリスにはとてつもなく愛おしく映った。
「ハァ、アァ…ッァ…」
「ン…まだなかでドクドクしてる…」
「ハァ、はぁッ…!」
「たくさん出したわね…気持ちよかった?ゲイル」
「!」
さり気なく尋ねると、ジェイデンはわかりやすくびくりと震えて息を止めた。
全身を硬直させている彼を下から見上げて、微笑みかける。
きっと仮面の下は物凄く驚いた顔をしているのだろうなと思うと、メイリスはおかしくてたまらなかった。
「どうして気が付いたのかって顔ね?当たり前じゃない…私はあなたしか知らないんだから」
「……」
「一度は騙されたわ…本気であなたがジェイデンという人なんだと思ったの。でもあなたとキスをした日から、もしかしてと思うようになって…。確信を持ったのはブレインに意識を操られた時よ。私がしている間、あなたずっと頭を撫でてくれていたでしょ?あれってあなたの癖よね。ゲイルと同じことをしているって気が付いたら…今まで気になっていたことが腑に落ちたの。キスの仕方も前と全然変わっていないし…あれで隠しているつもりなら、隠密は下手くそね」
メイリスは手を伸ばして、ジェイデンの顔を覆っている仮面を外した。
そこには今にも泣きそうに顔を歪めたゲイルがいた。
「メイス……ごめん。ごめん…」
「どうして謝るの?」
「お前を騙してたから…どうしてもお前に会いたくて…」
「ゼルキオンの入れ知恵ね?」
「ああ…事情を話したら手を貸してくださったんだ。俺、あの時ブレインに魔法陣を埋め込まれてて…お前にひどいことを言った。嫌いだとか、二度と会いたくないとか…。帰ってきてくれたお前にあんなこと……本当にごめん…」
透き通るような海緑色の目から降ってきた雫を、メイリスは頬で受け止める。
「やっぱり彼、あなたに何かしていたのね…。でも操られていたのならあなたは何も悪くないじゃない」
「だけど…!それで長いことお前を傷つけて…泣かせて…!俺は、自分で自分が許せない……!」
「それなら私が許してあげる。ゲイルの代わりに私が許すわ。それでいいでしょう?」
「メイス…メイリス…っ!」
ゲイルは喉から絞り出すように名前を呼んで、メイリスに抱きついた。
囲い込むように腕の中に閉じ込めて、止め処なく涙を流しながら喜びに咽ぶ。
彼女がこんなに簡単に「許す」と言ってくれるなんて奇跡だと思った。
ジェイデンとして再会してからも、彼女を失うかも知れない恐怖がずっとゲイルを苛んでいた。
「っく、うぅ…メイス……メイス…っ」
「ゲイル…そんなに泣いてどうしたの…?」
「好き…っ、めちゃくちゃ好き…お前が好きなんだよ…!あんなの俺じゃない…俺じゃないんだ!」
「うん…、うん…わかってるわ。ちゃんとわかっているから…」
「メイスっ…会いたかった…っ、ずっと…会いたくて……」
「私も……会いたかったわ…」
お互いの存在を確かめるように、腕を回して強く抱きしめ合う。
メイリスが抱きしめ返してくれることが嬉しくて、幸せで、また涙があふれた。
夢では背を向けて言葉も返してくれなかった彼女があっさりと振り向いて、あまつさえ慰めてくれているのだと思うと感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
同じように愛情を返してもらえるのは当たり前のことではないのだと、彼は存分に思い知っていた。
「メイス…ありがと……」
「ん…ゲイル…、くすぐったいわ」
「ありがとう、メイス…」
ゲイルはメイリスの頬に、瞼に、唇に、とにかく顔中にキスを落とした。
くすぐったいと言いながらも嬉しそうにしている彼女の額に自分の額をくっつけて、赤く腫れた目元を緩ませた。
そしてあの日から言うのを待ち望んでいた言葉を紡ぎ出す。
「おかえり、メイス…」
「…ただいま、ゲイル」
ゲイルの言葉の意図を正しく受け取ったメイリスは目を細めた。
数ヶ月で終わるはずだった出張が伸びに伸びて5年以上もかかってしまった。
ゲイルの唇が触れるたび、メイリスの心に引っかかっていた何かがキラキラと輝く砂になって消えていく。
彼女もゲイルと同じように、彼にまた以前のような愛情をもらえる奇跡に感謝していた。
その気持ちを慈しむようなキスでお返しして、涙で濡れた瞳で見つめ合う。
どちらからともなく唇が重なり、次第に情熱的なものへと変わった。
自分の首に腕を回して積極的になったメイリスをもっと貪り尽くしたくて、ゲイルは舌を奥で絡ませながら彼女を抱き起こす。
すると二人の接合部からくぷっと愛の証が溢れ出て、目を見合わせた。
あれからずっと繋がったままでいたことに気が付くと、途端に恥ずかしくなった。
お互いに頬を赤らめながら体を拭き、いそいそと服を着る。
ベッドに寄り添って座り、ゲイルはメイリスの手を握った。
唇がいつでも触れ合える距離から真剣な表情で見つめられて、メイリスの鼓動が跳ねた。
「愛してる、メイス。お前ともう一度やり直したい…お前がいないと生きていけないんだ」
「あらあら…困った人ね」
彼女の胸は歓喜に満ちていたが、大袈裟に思える愛の告白に驚き、吹き出してしまった。
くすくすと肩を揺らすと、ゲイルが拗ねた顔になった。
「茶化すなよ。そのくらい本気で愛してるんだ。俺と結婚して欲しい」
気を取り直して、メイリスの真紅の瞳を真っ直ぐに見つめる。
期待と不安にドキドキと胸が高鳴っている。
手が汗ばむほど緊張しながら自分の気持ちを伝えることも、相手の返事を待つ感覚も久しぶりだった。
プロポーズを受けたメイリスは僅かに目を見張り、頬を染めて瞳を潤ませた。
恥ずかしそうに視線を彷徨わせて、ゲイルと再び視線を一つにする。
はにかんだような微笑みを見せられて、ゲイルの興奮は最高潮に達した。
「嬉しいわ、ゲイル…でも無理。ごめんなさい」
ジェイデンが動揺するのを肌で感じたが、気にせずに下着姿になる。
「ねえ…最後に私としてみない?」
メイリスは立ち尽くしている男を振り返って、妖艶に微笑んだ。
ベッドの縁に腰を下ろし、上目遣いで彼を見上げる。
「あなたとは今日でお別れだし…今まで我慢させていたでしょう?構わないから、好きに抱いて…」
「……」
誘うように仰向けになって、彼を見つめながら反応を待つ。
彼女のキャラメルブロンドの髪はシーツの上で乱れ、僅かに上気した肌は緊張で汗ばみ、艶めいていた。
扇情的な瞳に引き寄せられるように、ジェイデンがシャツの胸元を寛げながらベッドに歩み寄ってくる。
しなやかに鍛え上げられた筋肉質の肉体が、どこもかしこも柔らかい滑らかな体に覆い被さった。
始まりから深いキスだった。
指先で背中や腰をゆっくりと撫で回され、官能的な刺激に息が上がる。
彼の唇が顎から首筋をなぞり、胸の膨らみに行きついた。
強く吸い付かれる感覚の後、魔法陣のあった場所にくっきりと赤く華が咲いた。
仕上げとばかりに付いた華をぺろりと舐められ、くすぐったさに僅かに身を捩る。
下着の留め具が外され、たわわな胸が露わになる。
メイリスの興奮度合を表すようにつんと主張した蕾が彼の口内に吸い込まれていく。
敏感なところを執拗に愛撫され、メイリスはすぐに快楽に呑まれた。
「ン、ゃ、ア…!アッ…ひ、ン!」
その傍らで秘部を覆い隠す布がずり下ろされた。
長い指がメイリスの奥深くに入り込み、縦横無尽に蠢く。
指の動きに合わせて潤った蜜壷が音を奏で、愛液がとろとろと彼の手首をつたった。
ぷっくりと膨れた陰核を親指の先で捏ねられると、体を大きく揺らして身悶える。
快感が波のように押し寄せて、膣壁がきゅうきゅうと筋張った指を締め上げた。
「…ッ、」
「ひぁ、イッ…ク…んっ」
喉を反らせて絶頂を迎えたメイリスは、興奮に息を乱す男の様子をぼんやりと見つめた。
スラックスの前を開き、猛々しい肉棒を取り出してはたと動きを止める。
彼が何を迷っているのかわかって、メイリスはシャツの裾を掴んで引っ張った。
「何もつけなくていいわ…そのまま入れて…」
「……」
「あなたが欲しいの…お願い…」
メイリスが強請ると、彼は逡巡した後、彼女の要求に従った。
蜜で濡れて柔らかくほぐれた入り口に先走りで濡れた先端がずりずりと擦り付けられる。
ゆっくりと男根が中に押し込められていくのに合わせて、メイリスの膣内が彼の大きさに拡げられていく。
久しぶりで痛みがあるかと思ったが、前戯でよく慣らされたそこは待ちかねていたように彼を受け入れた。
焦らすように抽送を繰り返された後、唐突に激しく奥を突かれて嬌声が上がった。
「アァ!アンッ!アッ、イ、ン…ッ!」
「…ッふ、…ハッ、は…」
彼も気持ちが良いのか、腰を打ち付ける度に艶のある吐息を漏らして彼女の情欲を煽る。
そのうちメイリスは繋がったまま体を抱き起こされ、口の中を舌で掻き回された。
リズミカルに子宮口を突いてくる彼の肩にしがみつき、されるがままに喘ぐ。
更なる快感を求めて尻を突き出す格好にさせられ、両腕を掴まれて上体を反らすと臍の下に圧迫感があった。
ベッドが軋むほど容赦なく蹂躙され、絶頂に震えそうになるとずるりと引き抜かれて体勢を変えられる。
正面を向き合うと両手のひらいっぱいに胸を鷲掴まれ、グリグリと先端を押し付けるように腰を回された。
その強すぎる快感に、メイリスは堪らず尻を浮かせて抽送を促した。
主人の要望を素直に聞き入れた彼は、自身も限界が近かったのか性急にピストンを早めた。
射精の予兆を感じたメイリスは彼が離れていかないように足を回して固定する。
「ア、アッ、ア、なかに…、だして…っ」
「! ック、ハァ、は、ッ、ァ…!」
メイリスの誘いに応えるように、彼の動きがより一層速度が増す。
そしてそのまま、濃密な精液が勢いよく発射された。
ビュ、ビュ、と音がしそうなほど熱い飛沫が最奥に届いて、メイリスは快感に震えて無自覚に腰を引いた。
しかしすぐさま引き戻れされて、少し抜けた陰茎を再び奥深くまで押し込められる。
ひくひくと収縮を続ける膣内で彼のものがまた大きく震えて精を放つ。
熱い息を吐き出しながら何度も腰を打ち付けて快楽に浸る男の姿が、メイリスにはとてつもなく愛おしく映った。
「ハァ、アァ…ッァ…」
「ン…まだなかでドクドクしてる…」
「ハァ、はぁッ…!」
「たくさん出したわね…気持ちよかった?ゲイル」
「!」
さり気なく尋ねると、ジェイデンはわかりやすくびくりと震えて息を止めた。
全身を硬直させている彼を下から見上げて、微笑みかける。
きっと仮面の下は物凄く驚いた顔をしているのだろうなと思うと、メイリスはおかしくてたまらなかった。
「どうして気が付いたのかって顔ね?当たり前じゃない…私はあなたしか知らないんだから」
「……」
「一度は騙されたわ…本気であなたがジェイデンという人なんだと思ったの。でもあなたとキスをした日から、もしかしてと思うようになって…。確信を持ったのはブレインに意識を操られた時よ。私がしている間、あなたずっと頭を撫でてくれていたでしょ?あれってあなたの癖よね。ゲイルと同じことをしているって気が付いたら…今まで気になっていたことが腑に落ちたの。キスの仕方も前と全然変わっていないし…あれで隠しているつもりなら、隠密は下手くそね」
メイリスは手を伸ばして、ジェイデンの顔を覆っている仮面を外した。
そこには今にも泣きそうに顔を歪めたゲイルがいた。
「メイス……ごめん。ごめん…」
「どうして謝るの?」
「お前を騙してたから…どうしてもお前に会いたくて…」
「ゼルキオンの入れ知恵ね?」
「ああ…事情を話したら手を貸してくださったんだ。俺、あの時ブレインに魔法陣を埋め込まれてて…お前にひどいことを言った。嫌いだとか、二度と会いたくないとか…。帰ってきてくれたお前にあんなこと……本当にごめん…」
透き通るような海緑色の目から降ってきた雫を、メイリスは頬で受け止める。
「やっぱり彼、あなたに何かしていたのね…。でも操られていたのならあなたは何も悪くないじゃない」
「だけど…!それで長いことお前を傷つけて…泣かせて…!俺は、自分で自分が許せない……!」
「それなら私が許してあげる。ゲイルの代わりに私が許すわ。それでいいでしょう?」
「メイス…メイリス…っ!」
ゲイルは喉から絞り出すように名前を呼んで、メイリスに抱きついた。
囲い込むように腕の中に閉じ込めて、止め処なく涙を流しながら喜びに咽ぶ。
彼女がこんなに簡単に「許す」と言ってくれるなんて奇跡だと思った。
ジェイデンとして再会してからも、彼女を失うかも知れない恐怖がずっとゲイルを苛んでいた。
「っく、うぅ…メイス……メイス…っ」
「ゲイル…そんなに泣いてどうしたの…?」
「好き…っ、めちゃくちゃ好き…お前が好きなんだよ…!あんなの俺じゃない…俺じゃないんだ!」
「うん…、うん…わかってるわ。ちゃんとわかっているから…」
「メイスっ…会いたかった…っ、ずっと…会いたくて……」
「私も……会いたかったわ…」
お互いの存在を確かめるように、腕を回して強く抱きしめ合う。
メイリスが抱きしめ返してくれることが嬉しくて、幸せで、また涙があふれた。
夢では背を向けて言葉も返してくれなかった彼女があっさりと振り向いて、あまつさえ慰めてくれているのだと思うと感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
同じように愛情を返してもらえるのは当たり前のことではないのだと、彼は存分に思い知っていた。
「メイス…ありがと……」
「ん…ゲイル…、くすぐったいわ」
「ありがとう、メイス…」
ゲイルはメイリスの頬に、瞼に、唇に、とにかく顔中にキスを落とした。
くすぐったいと言いながらも嬉しそうにしている彼女の額に自分の額をくっつけて、赤く腫れた目元を緩ませた。
そしてあの日から言うのを待ち望んでいた言葉を紡ぎ出す。
「おかえり、メイス…」
「…ただいま、ゲイル」
ゲイルの言葉の意図を正しく受け取ったメイリスは目を細めた。
数ヶ月で終わるはずだった出張が伸びに伸びて5年以上もかかってしまった。
ゲイルの唇が触れるたび、メイリスの心に引っかかっていた何かがキラキラと輝く砂になって消えていく。
彼女もゲイルと同じように、彼にまた以前のような愛情をもらえる奇跡に感謝していた。
その気持ちを慈しむようなキスでお返しして、涙で濡れた瞳で見つめ合う。
どちらからともなく唇が重なり、次第に情熱的なものへと変わった。
自分の首に腕を回して積極的になったメイリスをもっと貪り尽くしたくて、ゲイルは舌を奥で絡ませながら彼女を抱き起こす。
すると二人の接合部からくぷっと愛の証が溢れ出て、目を見合わせた。
あれからずっと繋がったままでいたことに気が付くと、途端に恥ずかしくなった。
お互いに頬を赤らめながら体を拭き、いそいそと服を着る。
ベッドに寄り添って座り、ゲイルはメイリスの手を握った。
唇がいつでも触れ合える距離から真剣な表情で見つめられて、メイリスの鼓動が跳ねた。
「愛してる、メイス。お前ともう一度やり直したい…お前がいないと生きていけないんだ」
「あらあら…困った人ね」
彼女の胸は歓喜に満ちていたが、大袈裟に思える愛の告白に驚き、吹き出してしまった。
くすくすと肩を揺らすと、ゲイルが拗ねた顔になった。
「茶化すなよ。そのくらい本気で愛してるんだ。俺と結婚して欲しい」
気を取り直して、メイリスの真紅の瞳を真っ直ぐに見つめる。
期待と不安にドキドキと胸が高鳴っている。
手が汗ばむほど緊張しながら自分の気持ちを伝えることも、相手の返事を待つ感覚も久しぶりだった。
プロポーズを受けたメイリスは僅かに目を見張り、頬を染めて瞳を潤ませた。
恥ずかしそうに視線を彷徨わせて、ゲイルと再び視線を一つにする。
はにかんだような微笑みを見せられて、ゲイルの興奮は最高潮に達した。
「嬉しいわ、ゲイル…でも無理。ごめんなさい」
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