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第2章
それぞれの企み
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その後もミーアからの他愛ないメールは続いた。
あれから更に数週間が過ぎたが、相変わらずメイリスからの連絡はないままだった。
気を紛らわすように仕事をして職場を出ると、外でミーアが待っていた。
「ゲイル!お疲れ様!」
「ミーア…?なんでここにいるんだ?」
「えへへ、ゲイルが全然会ってくれないから会いに来ちゃった!」
「……」
悪戯っぽく笑うミーアに、流石のゲイルも呆れ果ててしまった。
恋人がいる男性に出待ちをしてまで会いたがったり、無邪気にデートに誘う心理が理解できなかった。
「お前さ…俺にはメイリスがいるって知っているよな?」
ゲイルは溜め息交じりに尋ねた。
その言葉の端に苛立ちを感じ取ったミーアは、笑顔を消してしょんぼりした顔をする。
「いくら幼馴染とはいえ、何度も二人で会いたがったり、仕事場に押しかけてきたりするのはおかしいんじゃないか?悪気はないんだろうけど、迷惑だからやめてくれ」
「め、迷惑だなんて…。私はただ、せっかくこっちに引っ越してきたからゲイルにもっとたくさん会いたいと思って…」
「逆にこっちにいるんだから無理に会おうとしなくてもいいだろ。村にいた時より会える機会は増えたんだから」
「でも…私はもっとゲイルと仲良くなりたいんだもん…」
ミーアは拗ねたように唇を尖らせ、ちらちらと上目遣いに視線を送りながら指先をいじり始めた。
その仕草に少女らしからぬあざとさを感じたゲイルは、ようやく彼女の魂胆を悟った。
メイリスの不在をいいことに好意をアピールしているのだと気付いた途端、彼女に抱いていた好感度が急降下する。
「仲良くなりたいっていうのはどういう意味でだ?今でも十分仲がいいと思っていたけどな」
「その…私は…」
「俺が好きなのか?」
あえてド直球に聞いてみると、ミーアは唖然としつつも顔を真っ赤に染めた。
その反応から自分の推測は間違っていなかったと確信を持つ。
ミーアはゲイルがまだエタ村に住んでいた頃、毎日のように好きと言っては抱きついて甘えていた。
彼はそれを幼い子の戯れだと思っていたし、いつからか告白もされなくなったので、まさか本気で好かれているとは思っていなかった。
「そ、そうだよ…。ゲイルったら鈍すぎ!昔から言ってたじゃない、ゲイルが好きって」
「…そうか。気が付いてやれなくて悪かったな。でもお前とは付き合わない。恋人がいると知っていて近づいてくるような、自分本位な女性は俺の一番嫌いなタイプなんだ」
「あ…」
「お前がそういう気持ちでいるんなら、友達としても付き合えない」
「そんな…。待ってよ、私そんなつもりじゃなかったの。メイリスとだって友達だし…」
「友達なら余計にこんなことはしない方がいいんじゃないのか?お前がしてるのは友達を裏切る行為だ。下手な言い訳はやめろ」
ゲイルの激しい怒りを感じ取ったミーアは、涙目になって口を噤んだ。
そのままほろほろと涙を零し始めた彼女の姿に、ゲイルは同情心を抱くどころか余計に苛立った。
「ハァ…そういうのやめてくれ。俺を泣き落としにかけようとしても無駄だ。お前はハッキリ言わないと伝わらないようだから言うけど、もう連絡してこないでくれ。俺やメイリスを見かけることがあっても声をかけるな」
「どうして…?そんなの嫌だよ。こっちにきたばかりでゲイル以外に頼れる人もいないし、まだメイリスにも会えてないのに…」
「お前、すごいな。どういうつもりでメイスに会おうとしてたんだ?大方あいつの前で、あいつに嫉妬させるようなことをするつもりだったんだろ」
メイリスはあまり表情を変えないからわかりにくいが、彼女にだって喜怒哀楽はある。
平気な顔をしていても心の中では傷ついたり、悲しんだりしている。
彼女が他の女性に嫉妬してくれるのは純粋に嬉しいが、だからといってわざと悲しませるようなことはしたくない。
いくら妹のような存在だといっても、目の前で恋人が他の女性と仲良くしているのを見たらいい気持ちはしないだろう。
もし万が一ミーアとの仲を勘違いされてメイリスが離れていくようなことがあったらと思うと、ゲイルは背筋の凍る思いがした。
「メイスは俺より優しいからな。お前が何をしても許すだろうけど…俺は許さない。もしあいつに何かしてみろ。こんな警告だけじゃ済まないからな」
ゲイルは少しの期待も抱かせないように、鋭い視線できつく睨みつけた。
彼の本気の怒りに触れたミーアは怯えた表情を浮かべ、何も言わずに逃げるように去っていった。
その後ろ姿を見えなくなるまで見送って、ゲイルは深い溜め息を吐いた。
(メイス…会いたい。早く帰ってきてくれ…)
通信端末を確認しても通知はない。
気持ちの見えない不安から、猛烈にメイリスを抱きしめたくて仕方がなかった。
ゲイルに絶縁宣言をされたミーアは、傷心を癒そうと毎晩お気に入りのバーに通ってやけ酒をした。
それなりに我儘をしてきた自覚はあるがいつも窘められる程度で終わるので、本気で怒られたことは今までになかった。
ゲイルの優しさを勘違いした彼女は、何をしても許されるような気持ちになってしまい、彼の許容範囲を見誤った。
「俺が好きなのか?」と聞かれた時に否定しておけばよかったと後悔する。
カウンターの隅でシクシクと泣きながら青いカクテルを啜るように飲んでいると、10日目にして初めて声をかけられた。
「君、ずっと泣いているよね。大丈夫かい?」
「うぅ…、大丈夫じゃ、ないです…」
「フフ、正直な子だな。お兄さんが話を聞いてあげるよ」
話しかけてきたのは、プラチナアッシュの髪色をした眼鏡の男だった。
顔は知的で精悍な印象なのに、ジャケットを脇に抱えてシャツのボタンを外した姿からは大人の色気が漂っている。
そのギャップにミーアはドキドキと胸を高鳴らせた。
彼の甘い言葉に絆された彼女は、今日初めて会った男に長年の片思いをしてきたことや、こっぴどくフラれてしまったことをあけすけに吐露した。
「成程ね…それはとても辛いな」
「あんなこと言われて、もう無理だってわかってるのにまだゲイルのことが好きなの…。これまでだって彼女がいたけど諦めきれなかったのに、そう簡単に納得できないよ…」
男に頭を撫でられたことで、ミーアの目からはますます涙があふれ出す。
顔を手で覆った彼女は、男が隣で薄ら笑いを浮かべたことに気が付かなかった。
「奇遇だね。そういう経験、俺にもあるよ」
「そうなんですね…」
「君が望むなら、協力してあげようか?」
「えっ?」
「そのゲイルって男と付き合えるように、俺がサポートしてあげるって言っているんだよ」
「えっ?!そ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど…でもどうやって?それにあなたは何も得をしないですよね?」
「方法はあるよ。俺は君と違ってマギウスだから魔法が使える。協力するメリットがあるから提案もしている」
「それってどんな方法ですか?惚れ薬を作ってくれるとか?」
「惚れ薬?フハッ、面白いことを言うね。そんな一時凌ぎのものじゃないよ。もっと永続的で確実な方法だ。俺はゲイルとメイリスを別れさせることができる。君がゲイルを激怒させたこともなかったことにできる」
願ってもない提案に、ミーアはごくりと喉を鳴らした。
「報酬は…おいくらですか?」
「金はいらないよ。俺は俺のメイリスを取り戻せるならそれでいい。その後ゲイルと恋人になれるかどうかは君の頑張り次第だ。さあどうする?乗るか乗らないかは君自身が選択するんだ」
「あ、あなたはメイリスと知り合いなんですか…?」
「ミーア。協力して欲しいなら詮索は禁止だ」
男は笑ったが、その笑顔はどこか空恐ろしかった。
ミーアは先程とは違う緊張で唾液を飲み込み、頷いた。
「…わかりました。協力をお願いします」
欲に目が眩んだ彼女は、その選択がどういう事態を引き起こすことになるかも想像せずに、その怪しい男と連絡先を交換した。
ミーアが男と悪魔のような契約を交わした数十分後。
男はまだ店に残って一人で酒を飲んでいた。
するとそこへ誰もが目を惹くようなスタイルの美女が現れる。
髪と瞳の色は違うが、風貌や雰囲気はメイリスによく似ていた。
彼女は当たり前のように男の隣に腰を落ち着け、男の顔を妖艶に覗き込んだ。
「あらぁ、色男が一人酒?さっきのかわい子ちゃんにはフラれちゃったの?」
「いや?いい返事をもらえたよ。これからが楽しみだな」
男と女性は顔見知りで、それなりに親しい間柄のようだった。
「えぇー?好みが変わっちゃったの?あんな子どもがいいなんて…」
「さあどうかな…変わったと思うか?」
「ふふっ、わからないなら私が確認してあげる。ねえ、この後どう…?」
「…いいよ。店を出ようか」
魅惑的な女性とバーを出た男は、ホテルの部屋に入るなり彼女をベッドに押し倒した。
迷うことなく彼女の着ている服に手をかけ、下着の上から胸の膨らみを揉みしだく。
「アッ…やん、ちょっと、急っ…」
「君だってこれを望んでいたんだろ?」
「そうだけど、強引っ…!」
いやいやと言いながらも、女性は抵抗するどころか男に手を貸し、服で隠されていた滑らかな肌を露わにした。
男は淡々とした様子で女性の乳房に強く吸い付き、赤く痕を付ける。
痕を舌全体で舐めると、その刺激で硬くなりはじめた頂を口に含んだ。
甘い声が上がってきたところで胸から離れ、男は早々に女性の両脚を持ち上げた。
下着を足から抜き取って秘部を露わにし、僅かにヒクついている割れ目に舌先を突っ込む。
「アァッ…!それ、いい…っ!」
親指で陰核を刺激し、巧みなテクニックで女性が達したことを確認すると、スラックスの前だけを寛げて男根を取り出した。
軽く手で扱いてからずぶずぶと挿入する。
女性から嬌声が上がったが、男は彼女とは全く別のことを考えていた。
(ゲイルとメイリスの幼馴染か…。計画にはなかったけど、好都合だ。良い働きをしてくれることを期待してるよ、ミーア)
時折角度を変えながら、男は女性の性感帯を的確に突いていく。
温度のない視線で女性を見下ろしているが、彼女はむしろそれが興奮するようだった。
「アンン!激しいっ…ブレインッ…アァ!」
快感に喘ぎながら、女性は男の名前を呼んだ。
柔らかい肉壁で締め付けられる感覚に、男の――ブレインの息も上がってくる。
(メイリス…もうすぐ君を俺だけのものにできる…)
男は抽送を続けながら、淫らに悶える女性の顔に愛してやまない女性の面影を重ねた。
彼にとってメイリス以外の女性は性の捌け口でしかなかった。
(ハァ…メイリス…、すごくイイよ…。そんなに締めつけて…君もキモチイイんだね?)
女性の声をメイリスの声に脳内変換し、妄想の中で彼女との行為を楽しむ。
メイリスが己の下で淫らに喘ぐ光景を想像して、興奮に鼻息を荒くした。
(アァ…イク、ナカに出すよ、メイリス…!メイリスッ…君は俺のものだ…!)
「アッ?!いやぁ、ナカはだめ!ブレイン、止まってっ…!アァン…!」
女性の訴えはブレインに届かず、彼はそのまま動きを速めて女性の胎に欲望を注ぎ込んだ。
ぐりぐりと白濁の汁を中に擦り込むように腰を動かして、同時に絶頂を迎えた想像の中のメイリスに酔いしれる。
「もぉ…中に出さないでって言ったのに…」
「フフ、ごめんね。あとで避妊薬をあげるから許して」
「仕方ないわね…もっと気持ちよくしてくれたら許してあげる」
身代わりにされていると知らない女性は、誘うように彼の首に腕を回した。
ブレインはその後も女性と数回行為を重ね、意識をとばした女性の隣で自分の乱れた衣服を整えた。
そのまま何事もなかったかのように帰り支度を始める。
身支度を整えたブレインは、ベッドサイドのテーブルに持ち歩いていた避妊薬を置いた。
「ありがとう。君と遊ぶのはこれが最後になりそうだよ」
気持ちよさそうに寝息を立て始めた女性に微笑み、ブレインは部屋を出て行った。
あれから更に数週間が過ぎたが、相変わらずメイリスからの連絡はないままだった。
気を紛らわすように仕事をして職場を出ると、外でミーアが待っていた。
「ゲイル!お疲れ様!」
「ミーア…?なんでここにいるんだ?」
「えへへ、ゲイルが全然会ってくれないから会いに来ちゃった!」
「……」
悪戯っぽく笑うミーアに、流石のゲイルも呆れ果ててしまった。
恋人がいる男性に出待ちをしてまで会いたがったり、無邪気にデートに誘う心理が理解できなかった。
「お前さ…俺にはメイリスがいるって知っているよな?」
ゲイルは溜め息交じりに尋ねた。
その言葉の端に苛立ちを感じ取ったミーアは、笑顔を消してしょんぼりした顔をする。
「いくら幼馴染とはいえ、何度も二人で会いたがったり、仕事場に押しかけてきたりするのはおかしいんじゃないか?悪気はないんだろうけど、迷惑だからやめてくれ」
「め、迷惑だなんて…。私はただ、せっかくこっちに引っ越してきたからゲイルにもっとたくさん会いたいと思って…」
「逆にこっちにいるんだから無理に会おうとしなくてもいいだろ。村にいた時より会える機会は増えたんだから」
「でも…私はもっとゲイルと仲良くなりたいんだもん…」
ミーアは拗ねたように唇を尖らせ、ちらちらと上目遣いに視線を送りながら指先をいじり始めた。
その仕草に少女らしからぬあざとさを感じたゲイルは、ようやく彼女の魂胆を悟った。
メイリスの不在をいいことに好意をアピールしているのだと気付いた途端、彼女に抱いていた好感度が急降下する。
「仲良くなりたいっていうのはどういう意味でだ?今でも十分仲がいいと思っていたけどな」
「その…私は…」
「俺が好きなのか?」
あえてド直球に聞いてみると、ミーアは唖然としつつも顔を真っ赤に染めた。
その反応から自分の推測は間違っていなかったと確信を持つ。
ミーアはゲイルがまだエタ村に住んでいた頃、毎日のように好きと言っては抱きついて甘えていた。
彼はそれを幼い子の戯れだと思っていたし、いつからか告白もされなくなったので、まさか本気で好かれているとは思っていなかった。
「そ、そうだよ…。ゲイルったら鈍すぎ!昔から言ってたじゃない、ゲイルが好きって」
「…そうか。気が付いてやれなくて悪かったな。でもお前とは付き合わない。恋人がいると知っていて近づいてくるような、自分本位な女性は俺の一番嫌いなタイプなんだ」
「あ…」
「お前がそういう気持ちでいるんなら、友達としても付き合えない」
「そんな…。待ってよ、私そんなつもりじゃなかったの。メイリスとだって友達だし…」
「友達なら余計にこんなことはしない方がいいんじゃないのか?お前がしてるのは友達を裏切る行為だ。下手な言い訳はやめろ」
ゲイルの激しい怒りを感じ取ったミーアは、涙目になって口を噤んだ。
そのままほろほろと涙を零し始めた彼女の姿に、ゲイルは同情心を抱くどころか余計に苛立った。
「ハァ…そういうのやめてくれ。俺を泣き落としにかけようとしても無駄だ。お前はハッキリ言わないと伝わらないようだから言うけど、もう連絡してこないでくれ。俺やメイリスを見かけることがあっても声をかけるな」
「どうして…?そんなの嫌だよ。こっちにきたばかりでゲイル以外に頼れる人もいないし、まだメイリスにも会えてないのに…」
「お前、すごいな。どういうつもりでメイスに会おうとしてたんだ?大方あいつの前で、あいつに嫉妬させるようなことをするつもりだったんだろ」
メイリスはあまり表情を変えないからわかりにくいが、彼女にだって喜怒哀楽はある。
平気な顔をしていても心の中では傷ついたり、悲しんだりしている。
彼女が他の女性に嫉妬してくれるのは純粋に嬉しいが、だからといってわざと悲しませるようなことはしたくない。
いくら妹のような存在だといっても、目の前で恋人が他の女性と仲良くしているのを見たらいい気持ちはしないだろう。
もし万が一ミーアとの仲を勘違いされてメイリスが離れていくようなことがあったらと思うと、ゲイルは背筋の凍る思いがした。
「メイスは俺より優しいからな。お前が何をしても許すだろうけど…俺は許さない。もしあいつに何かしてみろ。こんな警告だけじゃ済まないからな」
ゲイルは少しの期待も抱かせないように、鋭い視線できつく睨みつけた。
彼の本気の怒りに触れたミーアは怯えた表情を浮かべ、何も言わずに逃げるように去っていった。
その後ろ姿を見えなくなるまで見送って、ゲイルは深い溜め息を吐いた。
(メイス…会いたい。早く帰ってきてくれ…)
通信端末を確認しても通知はない。
気持ちの見えない不安から、猛烈にメイリスを抱きしめたくて仕方がなかった。
ゲイルに絶縁宣言をされたミーアは、傷心を癒そうと毎晩お気に入りのバーに通ってやけ酒をした。
それなりに我儘をしてきた自覚はあるがいつも窘められる程度で終わるので、本気で怒られたことは今までになかった。
ゲイルの優しさを勘違いした彼女は、何をしても許されるような気持ちになってしまい、彼の許容範囲を見誤った。
「俺が好きなのか?」と聞かれた時に否定しておけばよかったと後悔する。
カウンターの隅でシクシクと泣きながら青いカクテルを啜るように飲んでいると、10日目にして初めて声をかけられた。
「君、ずっと泣いているよね。大丈夫かい?」
「うぅ…、大丈夫じゃ、ないです…」
「フフ、正直な子だな。お兄さんが話を聞いてあげるよ」
話しかけてきたのは、プラチナアッシュの髪色をした眼鏡の男だった。
顔は知的で精悍な印象なのに、ジャケットを脇に抱えてシャツのボタンを外した姿からは大人の色気が漂っている。
そのギャップにミーアはドキドキと胸を高鳴らせた。
彼の甘い言葉に絆された彼女は、今日初めて会った男に長年の片思いをしてきたことや、こっぴどくフラれてしまったことをあけすけに吐露した。
「成程ね…それはとても辛いな」
「あんなこと言われて、もう無理だってわかってるのにまだゲイルのことが好きなの…。これまでだって彼女がいたけど諦めきれなかったのに、そう簡単に納得できないよ…」
男に頭を撫でられたことで、ミーアの目からはますます涙があふれ出す。
顔を手で覆った彼女は、男が隣で薄ら笑いを浮かべたことに気が付かなかった。
「奇遇だね。そういう経験、俺にもあるよ」
「そうなんですね…」
「君が望むなら、協力してあげようか?」
「えっ?」
「そのゲイルって男と付き合えるように、俺がサポートしてあげるって言っているんだよ」
「えっ?!そ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど…でもどうやって?それにあなたは何も得をしないですよね?」
「方法はあるよ。俺は君と違ってマギウスだから魔法が使える。協力するメリットがあるから提案もしている」
「それってどんな方法ですか?惚れ薬を作ってくれるとか?」
「惚れ薬?フハッ、面白いことを言うね。そんな一時凌ぎのものじゃないよ。もっと永続的で確実な方法だ。俺はゲイルとメイリスを別れさせることができる。君がゲイルを激怒させたこともなかったことにできる」
願ってもない提案に、ミーアはごくりと喉を鳴らした。
「報酬は…おいくらですか?」
「金はいらないよ。俺は俺のメイリスを取り戻せるならそれでいい。その後ゲイルと恋人になれるかどうかは君の頑張り次第だ。さあどうする?乗るか乗らないかは君自身が選択するんだ」
「あ、あなたはメイリスと知り合いなんですか…?」
「ミーア。協力して欲しいなら詮索は禁止だ」
男は笑ったが、その笑顔はどこか空恐ろしかった。
ミーアは先程とは違う緊張で唾液を飲み込み、頷いた。
「…わかりました。協力をお願いします」
欲に目が眩んだ彼女は、その選択がどういう事態を引き起こすことになるかも想像せずに、その怪しい男と連絡先を交換した。
ミーアが男と悪魔のような契約を交わした数十分後。
男はまだ店に残って一人で酒を飲んでいた。
するとそこへ誰もが目を惹くようなスタイルの美女が現れる。
髪と瞳の色は違うが、風貌や雰囲気はメイリスによく似ていた。
彼女は当たり前のように男の隣に腰を落ち着け、男の顔を妖艶に覗き込んだ。
「あらぁ、色男が一人酒?さっきのかわい子ちゃんにはフラれちゃったの?」
「いや?いい返事をもらえたよ。これからが楽しみだな」
男と女性は顔見知りで、それなりに親しい間柄のようだった。
「えぇー?好みが変わっちゃったの?あんな子どもがいいなんて…」
「さあどうかな…変わったと思うか?」
「ふふっ、わからないなら私が確認してあげる。ねえ、この後どう…?」
「…いいよ。店を出ようか」
魅惑的な女性とバーを出た男は、ホテルの部屋に入るなり彼女をベッドに押し倒した。
迷うことなく彼女の着ている服に手をかけ、下着の上から胸の膨らみを揉みしだく。
「アッ…やん、ちょっと、急っ…」
「君だってこれを望んでいたんだろ?」
「そうだけど、強引っ…!」
いやいやと言いながらも、女性は抵抗するどころか男に手を貸し、服で隠されていた滑らかな肌を露わにした。
男は淡々とした様子で女性の乳房に強く吸い付き、赤く痕を付ける。
痕を舌全体で舐めると、その刺激で硬くなりはじめた頂を口に含んだ。
甘い声が上がってきたところで胸から離れ、男は早々に女性の両脚を持ち上げた。
下着を足から抜き取って秘部を露わにし、僅かにヒクついている割れ目に舌先を突っ込む。
「アァッ…!それ、いい…っ!」
親指で陰核を刺激し、巧みなテクニックで女性が達したことを確認すると、スラックスの前だけを寛げて男根を取り出した。
軽く手で扱いてからずぶずぶと挿入する。
女性から嬌声が上がったが、男は彼女とは全く別のことを考えていた。
(ゲイルとメイリスの幼馴染か…。計画にはなかったけど、好都合だ。良い働きをしてくれることを期待してるよ、ミーア)
時折角度を変えながら、男は女性の性感帯を的確に突いていく。
温度のない視線で女性を見下ろしているが、彼女はむしろそれが興奮するようだった。
「アンン!激しいっ…ブレインッ…アァ!」
快感に喘ぎながら、女性は男の名前を呼んだ。
柔らかい肉壁で締め付けられる感覚に、男の――ブレインの息も上がってくる。
(メイリス…もうすぐ君を俺だけのものにできる…)
男は抽送を続けながら、淫らに悶える女性の顔に愛してやまない女性の面影を重ねた。
彼にとってメイリス以外の女性は性の捌け口でしかなかった。
(ハァ…メイリス…、すごくイイよ…。そんなに締めつけて…君もキモチイイんだね?)
女性の声をメイリスの声に脳内変換し、妄想の中で彼女との行為を楽しむ。
メイリスが己の下で淫らに喘ぐ光景を想像して、興奮に鼻息を荒くした。
(アァ…イク、ナカに出すよ、メイリス…!メイリスッ…君は俺のものだ…!)
「アッ?!いやぁ、ナカはだめ!ブレイン、止まってっ…!アァン…!」
女性の訴えはブレインに届かず、彼はそのまま動きを速めて女性の胎に欲望を注ぎ込んだ。
ぐりぐりと白濁の汁を中に擦り込むように腰を動かして、同時に絶頂を迎えた想像の中のメイリスに酔いしれる。
「もぉ…中に出さないでって言ったのに…」
「フフ、ごめんね。あとで避妊薬をあげるから許して」
「仕方ないわね…もっと気持ちよくしてくれたら許してあげる」
身代わりにされていると知らない女性は、誘うように彼の首に腕を回した。
ブレインはその後も女性と数回行為を重ね、意識をとばした女性の隣で自分の乱れた衣服を整えた。
そのまま何事もなかったかのように帰り支度を始める。
身支度を整えたブレインは、ベッドサイドのテーブルに持ち歩いていた避妊薬を置いた。
「ありがとう。君と遊ぶのはこれが最後になりそうだよ」
気持ちよさそうに寝息を立て始めた女性に微笑み、ブレインは部屋を出て行った。
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