秘された王女はひたむきに愛を貫く~男友達だった幼馴染の執着愛~

水瀬 立乃

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第1章

あなたとは付き合わない

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後輩達と別れた後、何故か機嫌の悪くなってしまったゲイルに手を引かれてショッピングモールを出た。
連れて行かれたのはゲイルの自宅で、家に入るなり奪うように口を塞がれ、壁に押し付けられながら体を弄られる。
服の中に手を入れられて乳首を摘まれ、オフホワイトのパンツを下着ごとずり降ろされて長い指が侵入する。

「ンン…!ン、ふ、ァンンッ!」

そのままキスと愛撫だけでイカされてしまい、ゲイルにしがみつきながらぶるぶると震える。
力が抜けて座り込みそうになると、横抱きに抱え上げられてベッドルームに連れ込まれた。

「ゲイル…まって…」
「メイス、バンザイして。服、皺にしたくないから」
「……」

メイリスは大人しく命令に従った。
こういう時の彼に逆らっても余計に煽るだけだと学習していた。
ゲイルは紺のブラウスをメイリスの体から抜き取ると、性急に押し倒して愛撫を始めた。
首筋を舐められ、鎖骨をなぞられて、肌を吸われると、白い肌に朱く華が咲いた。

「あっ…?!」
「今日はたくさん痕つけるから。俺に嫉妬させたお前が悪い」

恐らく後輩と話をした時のことを言っているのだろうが、いつ自分が嫉妬させるようなことをしたというのか?
頭の中に浮かんだ疑問は、ゲイルが入ってきたことで霧散した。

「アー…とろっとろなのにせま…。感じすぎ。お前ちょっと乱暴にされる方が好きだよな?」
「ン、アッ、ハァ…アァ…」
「イイ声出しちゃって。これじゃお仕置きにならないな」
「アッ…?」

ゲイルは勢いよくメイリスから出ると、ベッドを降りて窓を開け始めた。
蒸して籠もっていた空気に若干の風が吹き込んでくる。
冷房のスイッチも入れたので暑かったのかと思っていると、ゲイルが再び覆いかぶさってきてメイリスをずぶりと貫いた。

「アァン…!」
「ハハ…そんな声出していいのか、メイス?いまのお前のいやらしい声、外に聞こえたんじゃないか?」
「あっ…?!いや…窓閉めて…」
「ン…ナカがきゅんて締まった。誰かに聞かれそうで興奮してるのか?変態だな」
「ぁ、ァ、ンッンッンッ…!動いちゃっ、いや…!」
「お前の好きな奥をガンガン突いてやる。弱いトコもみんなイジってやるよ。だけど声は禁止だ。さて、敏感なメイリスちゃんはどこまでガマンできるかな?」

加虐スイッチの入ったゲイルを止める術はない。
メイリスは最奥と陰核を同時に攻められ、激しく揺さぶられながら必死に声を抑えた。


その翌日、メイリスは指輪をつけたまま出社した。
ゲイルによって鎖骨から下に散らされた鬱血痕を隠すためにリボンタイ付きのブラウスを着たのだが、この時期には少し暑くて汗ばんでしまう。

「せーんーぱーいーっ」

聞き慣れた高い声に呼ばれたのが聞こえて間もなく、突然体が重くなった。
メイリスにこうして遠慮なく抱きついてくるのは、職場では一人しかいない。

「ハァーこの汗に混じったほんのり柑橘系の甘い香り…柔らかく包み込まれるような抱き心地…癒やされますぅ…」
「ふざけていないで、仕事中よ。何か用事?」
「安心の塩対応っ。たまりませんですぅ」
「ユーファ?」
「えへへ、ごめんなさぁい」

メイリスに変態的な愛情表現をする彼女はユーフェミア・ウォルトンといい、メイリスよりも3歳年下の後輩だった。
彼女との出会いは、新人の時に研修としてメイリスの仕事を見学しに来たことがきっかけだった。
その日はちょうどダムの水量調整をする魔法陣の点検日で、季節によって天候を予測する魔法陣と照らし合わせながら組み込む情報を変えていくのだが、その説明がわかりやすく処理のスピードも神業だと感動されてしまった。
それ以来、姿を見つけると駆け寄ってきて挨拶してくれるようになったのだが、挨拶以外の言葉を交わすようになったのはユーフェミアがした大きなミスを注意した後からだった。
実際にはユーフェミアだけが原因なのではなく周囲からの伝達不足のせいだったのだが、『自分のせいではない』と不貞腐れる彼女にメイリスは怒った。

『たとえ他に原因があったとしても、あなたは間違いなくミスをしたわ。確認すれば回避できたことを、確認せずに進めたことよ』
『先輩まで私を責めるんですかぁ?私あの人達に嫌われているんですよぉ?私が聞いたってまともに答えてくれないし、教えてもくれませぇん。それなのに確認したって意味がないじゃないですかぁ?』
『なぜ意味がないと決めてしまうの?意味があったかなかったかは結果論。あなたは成すべきことの為に、どんな努力をしたのかしら』
『……』
『目的を見失わないことね。あなた自身を守るためにも』

おちゃらけた態度が気に入らないと、彼女が一部の職員達から爪弾きにされていたことは知っていた。
しかし彼女は仕事のことになると素直で覚えも早く、年も若い分伸びしろがある。
くだらない嫉妬で潰されてほしくなかった。
その気持ちが伝わったのか、その翌日から彼女は勤務態度や仕事のやり方にメリハリをつけるようになり、今では部署内でも一目置かれた存在となって古株の先輩方を黙らせている。

「朝からみんなが気になっていたことがあったので、代表して確かめに来ました」
「なに?」
「その指輪、どうしたんです?彼氏ができたんですか?」

真面目な顔をして何かと思えば、プライベートな質問だった。
一つ指輪をしたくらい気が付かないだろうと思っていたが、案外人は見ているらしい。
メイリスは苦笑いを浮かべた。

「そんなことが気になっていたの?」
「そんなことじゃありません!我々にとっては重大な事案ですっ」
「我々って…」
「この部署、いえ、研究所内にいるメイリス・クロウファンのみなさんです」
「何なのそれは?」

思わず胡乱な視線を向けると、ユーフェミアが憤慨してわざとらしく拳を振り立てた。

「これはれっきとした組織ですよ先輩。この部署だけでも過半数いますから。みなさん先輩のことを陰ながらこっそり見守っているんです」
「はあ…」
「あ、その顔は信じていませんね?まあいいです。もう一度聞きますよ。その指輪は恋人からもらったものですか?」
「…ええ」

恋人なのかどうかはゲイルが明言しないのでわからないが、傍から見れば恋人なのだろうなと思う。
メイリスは逡巡して、頷いた。
するとその直後、ざわざわと部署内にさざ波が起きた。

「えーっ!やっぱり?!相手はどんな方ですか?!先輩をオトしたのはいったいどんな奴なんです?!」

バン!と音を立ててデスクに手をつき、前のめりになって詰問してくるユーフェミアの勢いに圧されて、メイリスは少しだけ椅子を引いた。

「…ひみつ」
「どうして?!そんなふうに言われたらすごく気になるじゃないですかぁ!私にだけでもこっそり教えてくださいよぉ!」
「ひみつ」
「先輩のいじわるー!」
「はいはい、もう知りたいことは確認できたでしょ?早く仕事に戻りなさい」

騒ぐユーフェミアを無視してモニターに向き直ると、彼女は悔しそうにしながらも自分の席に戻っていった。
しかしそれ以降、周囲からちらちらと視線を感じて落ち着かなかった。
みんなを代表して来たという彼女の言葉は本当だったらしい。

「メイリス。君いつの間に指輪なんか付けるようになったんだ?」
「…あなたもなの?」

カフェスペースでアイスコーヒーを作っていると、いつかのデジャヴのようにブレインが背後にぴったりとくっついてきた。

「そんなに気になるものかしら?ただの指輪よ?」
「ピンキーリングならみんな気にならなかったよ。でもメイリスのは右手の薬指だから、意味があるものだろ。誰に買ってもらったんだ?」

メイリスはブレインの質問の意図を考えた。
なんとなく彼はユーフェミアのように好奇心だけで聞いてきたのではない気がする。
ここでゲイルの名前を出すのは危険な気がして、メイリスは嘘をついた。

「…自分で買ったのよ」
「へえ…じゃあ男避けってこと?」
「そうよ」
「メイリスに恋人ができたって噂になっているけど?」
「説明が面倒だったからそうだと言っただけ。正直に言っても信じないでしょ?」
「今までつけていなかったのにどうして?」
「あなたのような人がいるからよ」

溜め息を吐き、コーヒーを注いだカップに蓋をしてストローを差し込む。
いつもなら察して体を離してくれるはずが、今日はそうではなかった。

「ブレイン。私、仕事に戻りたいのだけど」
「…じゃあこれも自分でつけたのか?」
「!」

ブレインがメイリスのリボンタイに指をかけて広げた。
窮屈そうに下着に収まる豊満な胸の谷間が、ブレインの目に晒される。
彼の視線の先にはキスマークがあるのだろう。
見られた恥ずかしさと怒りで、即座に手を振り払う。

「何をするのよ?!」
「こんなに痕をつけていたら男避けだなんて言い逃れはできないよ、メイリス。どんな奴か知らないけど、妬けるな…昨晩は何回セックスした?」
「ブレイン…今まで大目に見てきたけど、これは許せないわ。仕事以外のことで私に話しかけてこないで」

底冷えするような恐怖を感じて、メイリスは明らかな拒絶を込めて睨みつけた。
彼は無表情に見つめ返してきたが、ニコリと愛想笑いに切り替えて両手を挙げた。

「メイリス、見ての通りもう何もしないから。さっきのは冗談が過ぎたよ。本当に嫉妬したんだ。俺は君が本気で好きだから」
「何度も言っているけど、あなたの気持ちには応えられない。間違ってもあなたと付き合うことはないわ。ごめんなさい」

メイリスはきっぱりと告げて、ブレインに背を向けた。
これまで何度も彼からの気持ちを断ってきたが、こうしてあからさまにアプローチをされるのはこれが最後のような気がした。
諦めたのか、そうではないのか、ブレインは後を追って来なかった。



一方のゲイルは、食堂に入るなり同じく昼休憩中のセルゲイの姿を見留めて、声もかけずにその隣に腰を下ろした。
驚いて声を上げた彼に構わず、満面の笑みで指輪を見せつける。

「見てくれよこれ。やっとペアリング買ったんだ」
「幸せそうな顔しやがって…付き合う前とはえらい違いだな」

リア充オーラを全開にしているゲイルを呆れた目で見つめる。

「メイリスに欲しいって言われたのか?」
「いや、全然言い出さないから待ちきれなくて俺から言った。偶然いいの見つけたように装ったんだけど、あいつ鋭いからバレそうになった」
「見るからに勘が良さそうだもんな」

学生時代の怜悧な印象のメイリスを思い浮かべて、セルゲイは苦笑いを浮かべる。
ゲイルとは全くタイプの異なる二人なのに、なかなかどうして相性が良い。

「とにかくよかったな。収まるところに収まって」
「ああ。あの時は相談に乗ってくれてありがとな」
「いつ結婚するんだ?」
「いやいや…それはさすがに気が早すぎるだろ」
「何照れてんだよ。そのつもりなんだろ?」

まだメイリスにも誰にも話していない人生設計を言い当てられたゲイルは、恥ずかしそうに頭を掻いた。

「まあ…そうだけど。今は仕事頑張ってるし、もう少し経ったらどうしようか話そうと思ってるよ」
「そうか。しっかしここまで遠回りだったな。お前気の強い女ばっかり彼女にしてたから、もしかしてとは思ってたけど」
「…そうだったか?」
「自覚なかったのか?何にせよおめでとう。俺は応援するよ」
「ありがとう。なんかお前に応援されると照れるな」
「なんでだよ」

セルゲイの突っ込みに言葉を返さず、ゲイルは笑った。
彼はゲイルにとってもう一人の親友だ。
どんな些細な話にも付き合ってくれて、味方になってくれる有難みに感謝した。

「些細な喧嘩して逃げられるなよ。きっと彼女以上の女は現れないだろうから」
「もちろん。もしあいつが逃げようとしても絶対に逃がさない」

確信と誓いを込めて、ゲイルはきっぱりとした口調で言い切った。

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