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第1章
もう家には来ないで
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うとうとと夢うつつで鳥のさえずりを聴いていたゲイルは、突如襲ってきた頭痛に顔を顰めた。
ゆっくりと瞼を開いていくと、最初に目に入ってきたのは木目調のフローリングだった。
その内装からここが自宅ではないことを瞬時に察する。
視線を上げて、ここがどこなのか情報を探る。
大方目星がつくと、彼は床に伏した状態のまま小さく溜息を吐いた。
すぐに起き上がる気力もわかず、ごろんと仰向けに寝転がる。
硬い床で寝ていたせいか心なしか首も痛いような気がする。
「…やっと起きた?」
遠くから聞こえてきた女性の声で、ここが予想通りの場所だとわかる。
どんなにぶっきらぼうでもゲイルにとっては聞き慣れた、ほっと安らぐ声だった。
「ごめん…今何時?」
「もう10時を過ぎてるわ。お休みの日でよかったわね」
「あー俺いつ寝たんだろ……」
「覚えていないの?」
「お前の家に行こうとしてたのは覚えてるけど…それから全然記憶ない」
「……」
「頭いた…飲みすぎたな。水一杯くれる?」
ゲイルはいつもの調子で頼んだが、メイリスは返事をしなかった。
訝しく思って顔を上げてみると、彼の要望に応えようとグラスに水を注いでいるのが見える。
その背中から彼女がとんでもなく怒っているのが伝わってきて、彼は慌てて起き上がった。
酒に酔ってここへ来ている時点で迷惑をかけた自覚はある。
漂ってくる不穏な空気に、気まずさから頭を掻いた。
そして無言のまま差し出された水を受け取って、一気に飲み干した。
「ありがと」
「薬飲む?」
「…あるなら欲しい」
「ちょっと待ってて」
メイリスは常備薬を入れている引き出しから痛み止めの薬を取り出し、新たに水を入れたグラスを持って戻って来た。
まだ効き目はないが、薬を飲んだという事実だけで少し気持ちが上向きになる。
二人はダイニングテーブルに移動して、向かい合わせに腰を下ろした。
ゲイルは彼女が淹れてくれた眠気覚ましのコーヒーを一口啜った。
「助かった。二日酔いなんて久々だ…」
「記憶をなくすくらい飲んだのは初めてなんじゃない?昨日はどのくらい飲んだの?」
「どのくらいだろ…。はじめはセルゲイとサシで飲んでたんだけど、友達呼んだら軽く同窓会みたいになってさ。ほろ酔いくらいでセーブできてたはずなんだけど、途中から…」
話しながら彼は昨夜の記憶を辿った。
セルゲイはゲイルが勤める防衛機関の同期で、エレメンタルスクールの同級生でもあった。
数ヶ月に一度は仕事帰りに酒を飲みに行く間柄で、話の流れでお互いの学生時代の友人を呼ぶことになった。
卒業してから初めて顔を合わせる人もいて、近況を聞いたり仕事や恋愛相談に乗ったりと楽しく騒いでいた。
そこでどういうわけかメイリスの話題になった。
マギウスにとって魔法の根本に関われる国立研究機関で働くのは憧れで、みんな口々に彼女を褒めたたえた。
ゲイルはそれを彼女と一番親しい友達の立場から鼻が高い気持ちで聞いていた。
しかし誰かが『メイリスとブレインがついに付き合い始めたらしい』と、情報源も定かじゃない噂を口にした。
メイリスが彼にも恋愛にも全く関心がないことを知っているゲイルは『事実じゃない』と否定したのだが、『長い片思いだったな』『ご愁傷様』などと言われ、周りから慰められているうちにだんだんそんな気持ちになってきてしまった。
そしてまっすぐ自宅に帰るはずが、酔った勢いでここへ来てしまった。
「途中から?」
「…揶揄われたんだろうな。あいつらの嘘を真に受けて、よくわからないまま悲観的になって…。上手く受け流せなかったってことは、その時には結構酔ってたのかも」
「それは本当に嘘だったの?」
「うん。多分」
「多分ってなに?どっちなの?」
くすくすと笑みを零すメイリスを見て、ゲイルはほっとした。
彼女が怒ることは今までにも沢山あったが、どんなに怒っていてもいつも通りに接してくれる。
不機嫌そうな顔をするのも一時だけのことだ。
過去を蒸し返して皮肉ることはままあるが、揶揄いの範疇で終わる。
同じ女性でも付き合ってきた彼女達のように口を利いてくれなくなったり、音信不通になったり、駄々をこねてきたりしない。
そういう性格が男同士でいるみたいで居心地良く感じる理由の一つだった。
「夜中に突然押しかけてごめんな。何かお前に迷惑かけなかった?」
「…何もないわ。ドアをドンドン叩く音で目が覚めて、何事かと思って開けたらあなたが勝手に入って来てそのまま床で寝たの」
「まじか…。寝てたのにごめん」
謝罪の言葉と共に頭を下げると、メイリスは「本当にね」と皮肉を返しながらも微笑ましいものを見るように目を細めた。
その慈愛を感じさせる表情にゲイルは一瞬目を奪われる。
ドキドキと胸が高鳴りそうになったが、昨日同級生達に散々揶揄われたせいだと理由をつけて頭から振り払う。
ゲイルはこれまでも時々メイリスを異性として意識してしまう瞬間があったが、あえて深く考えないようにしていた。
もし彼女を女性として見てしまったら、この心地良い関係も彼女からの信頼も全て失ってしまいそうで怖かった。
コーヒーを飲み終えると、メイリスはゲイルを玄関まで見送ると言った。
いつもならこの後食事に誘ったりもするのだが、体調も良くないのでお暇することにする。
「ありがとな。今日のことは後で絶対埋め合わせするから」
「いらないわ」
「そう言うなって。今度来たときに美味いもんでも持ってくるよ」
「本当にいらない。あのねゲイル、悪いけどもううちには来ないで欲しいの」
ゲイルは一瞬何を言われたのかわからなかった。
理解することを脳が拒否していた。
「え?なんて?」
「うちに来ないでって言ったのよ」
「…急になんでだよ?」
「酔っ払いのお世話はもうこりごりだから」
にこりともせずに言うメイリスに、さあっと血の気が引いていく。
彼女がここまで怒ることは初めてで、彼はひどく動揺した。
もしかしたら夜中に突然訪問したことで、怖い思いをさせてしまったのかも知れない。
彼女が気を遣って言わないだけで、実は床に嘔吐したのを片付けさせた可能性もある。
いくつか思い当たる理由はあり、彼女の優しさに甘えすぎていたと気付いたゲイルは項垂れた。
「ごめん、本当にごめん。もうこんなことがないように気をつける。しばらく酒も控えるよ」
「別に控えなくてもいいんじゃない?二日酔いが治るまでは飲まない方がいいとは思うけど」
「だけど…」
「あなたがお酒を飲んでいてもいなくても関係ないの。あなたにこの家に来て欲しくないの」
突き放すような言い方をするのは彼女の癖だと知っているが、それでも衝撃が大きかった。
後ろから頭をバットで思い切り殴り倒されたような心地がして、本当に倒れそうになった。
「来て欲しくない」という言葉は、彼女が思う以上に彼にかなりのダメージを与えた。
「メイス…」
「そんな顔しないで。二度と会わないって言っているわけじゃないんだから」
彼女は苦笑いを浮かべながらフォローしたが、彼の耳には届かなかった。
ゲイルはショックすぎて、休日の残りの半日を抜け殻のように過ごした。
翌日出勤すると、廊下で偶然すれ違ったセルゲイが彼の顔色を見て驚いた顔をした。
「おいおい…ひどい顔してるな。大丈夫か?二日酔いか?」
「それはもう治った。そんなことよりも俺、メイスに嫌われたかも…」
「はあ?どうしたんだよいきなり…喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩はしてない」
「じゃあなんでそう思ったんだよ。後で詳しく話聞いてやるから、とりあえずもう一回顔洗ってこい」
昼休みになると二人は落ち合って食堂に移動し、ゲイルは飲み会の翌日にあったことを打ち明けた。
セルゲイ達と別れた後、自宅には帰らずメイリスの家に直行し、寝ていた彼女を起こした挙句に床で爆睡。
起きたら彼女がかつてないレベルで激怒していたことを話すと、彼は声を上げて笑った。
「ハハハ!家に押しかけたのか。お前めちゃくちゃ酔ってたからなぁ」
「最悪なのは家を訪ねてから何も覚えていないことなんだよ。メイスはただ寝てただけだって言ってたけど、あれは絶対何かやったんだ。なんで記憶ないんだ俺…」
セルゲイはこの世の終わりのような顔をしている友人に眉を下げた。
「家に来るなって言われただけなんだろ?友達やめるって言われたんならわかるけど。嫌いになったとかじゃない気がするけどな」
「そうだけど…なんか拒絶された気がして」
「彼女は元々言葉がキツイ方じゃないか。そう聞こえただけなんじゃないのか?」
「いつものとは温度感が違ったんだよ…」
「そりゃお前にしかわからない感覚だな」
彼は苦笑した。
メイリスの微細な変化は顔見知り程度の彼にはわからない。
「そういや、あのことは確認できたのか?」
「あのこと?」
「メイリスとブレインのことだよ。彼女に直接聞くまで信じないって息巻いてただろ」
「あ…いや、あれはあいつらが俺を揶揄っただけだろ?」
「俺もそう思ってたけど…もし本当だったとしたらそれが理由なんじゃないのか?恋人ができたならいくら友達とはいえ男を家に上げられないだろ」
「そんなわけ……」
ふとゲイルは昨日の彼女との会話を振り返ってみた。
嘘を鵜呑みにして飲みすぎたと話した時、メイリスは本当に嘘だったのかと聞いてきた。
どんな嘘を吐かれたのかは話していないが、同級生の間でブレインとの仲が噂になっていると知っていたのなら、反応を確認するために聞いた可能性がある。
付き合い始めたのは本当で、嘘だと言った自分に本当のことを言い出せなかったのかも知れない。
「……あるかも」
「あるのかよ」
「今日聞く。今度は絶対聞く」
ゲイルはこの焦燥感の理由もわからないまま彼女に連絡して会う約束を取り付けた。
ゆっくりと瞼を開いていくと、最初に目に入ってきたのは木目調のフローリングだった。
その内装からここが自宅ではないことを瞬時に察する。
視線を上げて、ここがどこなのか情報を探る。
大方目星がつくと、彼は床に伏した状態のまま小さく溜息を吐いた。
すぐに起き上がる気力もわかず、ごろんと仰向けに寝転がる。
硬い床で寝ていたせいか心なしか首も痛いような気がする。
「…やっと起きた?」
遠くから聞こえてきた女性の声で、ここが予想通りの場所だとわかる。
どんなにぶっきらぼうでもゲイルにとっては聞き慣れた、ほっと安らぐ声だった。
「ごめん…今何時?」
「もう10時を過ぎてるわ。お休みの日でよかったわね」
「あー俺いつ寝たんだろ……」
「覚えていないの?」
「お前の家に行こうとしてたのは覚えてるけど…それから全然記憶ない」
「……」
「頭いた…飲みすぎたな。水一杯くれる?」
ゲイルはいつもの調子で頼んだが、メイリスは返事をしなかった。
訝しく思って顔を上げてみると、彼の要望に応えようとグラスに水を注いでいるのが見える。
その背中から彼女がとんでもなく怒っているのが伝わってきて、彼は慌てて起き上がった。
酒に酔ってここへ来ている時点で迷惑をかけた自覚はある。
漂ってくる不穏な空気に、気まずさから頭を掻いた。
そして無言のまま差し出された水を受け取って、一気に飲み干した。
「ありがと」
「薬飲む?」
「…あるなら欲しい」
「ちょっと待ってて」
メイリスは常備薬を入れている引き出しから痛み止めの薬を取り出し、新たに水を入れたグラスを持って戻って来た。
まだ効き目はないが、薬を飲んだという事実だけで少し気持ちが上向きになる。
二人はダイニングテーブルに移動して、向かい合わせに腰を下ろした。
ゲイルは彼女が淹れてくれた眠気覚ましのコーヒーを一口啜った。
「助かった。二日酔いなんて久々だ…」
「記憶をなくすくらい飲んだのは初めてなんじゃない?昨日はどのくらい飲んだの?」
「どのくらいだろ…。はじめはセルゲイとサシで飲んでたんだけど、友達呼んだら軽く同窓会みたいになってさ。ほろ酔いくらいでセーブできてたはずなんだけど、途中から…」
話しながら彼は昨夜の記憶を辿った。
セルゲイはゲイルが勤める防衛機関の同期で、エレメンタルスクールの同級生でもあった。
数ヶ月に一度は仕事帰りに酒を飲みに行く間柄で、話の流れでお互いの学生時代の友人を呼ぶことになった。
卒業してから初めて顔を合わせる人もいて、近況を聞いたり仕事や恋愛相談に乗ったりと楽しく騒いでいた。
そこでどういうわけかメイリスの話題になった。
マギウスにとって魔法の根本に関われる国立研究機関で働くのは憧れで、みんな口々に彼女を褒めたたえた。
ゲイルはそれを彼女と一番親しい友達の立場から鼻が高い気持ちで聞いていた。
しかし誰かが『メイリスとブレインがついに付き合い始めたらしい』と、情報源も定かじゃない噂を口にした。
メイリスが彼にも恋愛にも全く関心がないことを知っているゲイルは『事実じゃない』と否定したのだが、『長い片思いだったな』『ご愁傷様』などと言われ、周りから慰められているうちにだんだんそんな気持ちになってきてしまった。
そしてまっすぐ自宅に帰るはずが、酔った勢いでここへ来てしまった。
「途中から?」
「…揶揄われたんだろうな。あいつらの嘘を真に受けて、よくわからないまま悲観的になって…。上手く受け流せなかったってことは、その時には結構酔ってたのかも」
「それは本当に嘘だったの?」
「うん。多分」
「多分ってなに?どっちなの?」
くすくすと笑みを零すメイリスを見て、ゲイルはほっとした。
彼女が怒ることは今までにも沢山あったが、どんなに怒っていてもいつも通りに接してくれる。
不機嫌そうな顔をするのも一時だけのことだ。
過去を蒸し返して皮肉ることはままあるが、揶揄いの範疇で終わる。
同じ女性でも付き合ってきた彼女達のように口を利いてくれなくなったり、音信不通になったり、駄々をこねてきたりしない。
そういう性格が男同士でいるみたいで居心地良く感じる理由の一つだった。
「夜中に突然押しかけてごめんな。何かお前に迷惑かけなかった?」
「…何もないわ。ドアをドンドン叩く音で目が覚めて、何事かと思って開けたらあなたが勝手に入って来てそのまま床で寝たの」
「まじか…。寝てたのにごめん」
謝罪の言葉と共に頭を下げると、メイリスは「本当にね」と皮肉を返しながらも微笑ましいものを見るように目を細めた。
その慈愛を感じさせる表情にゲイルは一瞬目を奪われる。
ドキドキと胸が高鳴りそうになったが、昨日同級生達に散々揶揄われたせいだと理由をつけて頭から振り払う。
ゲイルはこれまでも時々メイリスを異性として意識してしまう瞬間があったが、あえて深く考えないようにしていた。
もし彼女を女性として見てしまったら、この心地良い関係も彼女からの信頼も全て失ってしまいそうで怖かった。
コーヒーを飲み終えると、メイリスはゲイルを玄関まで見送ると言った。
いつもならこの後食事に誘ったりもするのだが、体調も良くないのでお暇することにする。
「ありがとな。今日のことは後で絶対埋め合わせするから」
「いらないわ」
「そう言うなって。今度来たときに美味いもんでも持ってくるよ」
「本当にいらない。あのねゲイル、悪いけどもううちには来ないで欲しいの」
ゲイルは一瞬何を言われたのかわからなかった。
理解することを脳が拒否していた。
「え?なんて?」
「うちに来ないでって言ったのよ」
「…急になんでだよ?」
「酔っ払いのお世話はもうこりごりだから」
にこりともせずに言うメイリスに、さあっと血の気が引いていく。
彼女がここまで怒ることは初めてで、彼はひどく動揺した。
もしかしたら夜中に突然訪問したことで、怖い思いをさせてしまったのかも知れない。
彼女が気を遣って言わないだけで、実は床に嘔吐したのを片付けさせた可能性もある。
いくつか思い当たる理由はあり、彼女の優しさに甘えすぎていたと気付いたゲイルは項垂れた。
「ごめん、本当にごめん。もうこんなことがないように気をつける。しばらく酒も控えるよ」
「別に控えなくてもいいんじゃない?二日酔いが治るまでは飲まない方がいいとは思うけど」
「だけど…」
「あなたがお酒を飲んでいてもいなくても関係ないの。あなたにこの家に来て欲しくないの」
突き放すような言い方をするのは彼女の癖だと知っているが、それでも衝撃が大きかった。
後ろから頭をバットで思い切り殴り倒されたような心地がして、本当に倒れそうになった。
「来て欲しくない」という言葉は、彼女が思う以上に彼にかなりのダメージを与えた。
「メイス…」
「そんな顔しないで。二度と会わないって言っているわけじゃないんだから」
彼女は苦笑いを浮かべながらフォローしたが、彼の耳には届かなかった。
ゲイルはショックすぎて、休日の残りの半日を抜け殻のように過ごした。
翌日出勤すると、廊下で偶然すれ違ったセルゲイが彼の顔色を見て驚いた顔をした。
「おいおい…ひどい顔してるな。大丈夫か?二日酔いか?」
「それはもう治った。そんなことよりも俺、メイスに嫌われたかも…」
「はあ?どうしたんだよいきなり…喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩はしてない」
「じゃあなんでそう思ったんだよ。後で詳しく話聞いてやるから、とりあえずもう一回顔洗ってこい」
昼休みになると二人は落ち合って食堂に移動し、ゲイルは飲み会の翌日にあったことを打ち明けた。
セルゲイ達と別れた後、自宅には帰らずメイリスの家に直行し、寝ていた彼女を起こした挙句に床で爆睡。
起きたら彼女がかつてないレベルで激怒していたことを話すと、彼は声を上げて笑った。
「ハハハ!家に押しかけたのか。お前めちゃくちゃ酔ってたからなぁ」
「最悪なのは家を訪ねてから何も覚えていないことなんだよ。メイスはただ寝てただけだって言ってたけど、あれは絶対何かやったんだ。なんで記憶ないんだ俺…」
セルゲイはこの世の終わりのような顔をしている友人に眉を下げた。
「家に来るなって言われただけなんだろ?友達やめるって言われたんならわかるけど。嫌いになったとかじゃない気がするけどな」
「そうだけど…なんか拒絶された気がして」
「彼女は元々言葉がキツイ方じゃないか。そう聞こえただけなんじゃないのか?」
「いつものとは温度感が違ったんだよ…」
「そりゃお前にしかわからない感覚だな」
彼は苦笑した。
メイリスの微細な変化は顔見知り程度の彼にはわからない。
「そういや、あのことは確認できたのか?」
「あのこと?」
「メイリスとブレインのことだよ。彼女に直接聞くまで信じないって息巻いてただろ」
「あ…いや、あれはあいつらが俺を揶揄っただけだろ?」
「俺もそう思ってたけど…もし本当だったとしたらそれが理由なんじゃないのか?恋人ができたならいくら友達とはいえ男を家に上げられないだろ」
「そんなわけ……」
ふとゲイルは昨日の彼女との会話を振り返ってみた。
嘘を鵜呑みにして飲みすぎたと話した時、メイリスは本当に嘘だったのかと聞いてきた。
どんな嘘を吐かれたのかは話していないが、同級生の間でブレインとの仲が噂になっていると知っていたのなら、反応を確認するために聞いた可能性がある。
付き合い始めたのは本当で、嘘だと言った自分に本当のことを言い出せなかったのかも知れない。
「……あるかも」
「あるのかよ」
「今日聞く。今度は絶対聞く」
ゲイルはこの焦燥感の理由もわからないまま彼女に連絡して会う約束を取り付けた。
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