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第1章

ふたりの関係

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むせ返るような夏の暑い夜。
冷房の効きすぎた部屋で、メイリスは二十数年間友達でしかなかった幼馴染のゲイルに時間を忘れるほど長くベッドに組み敷かれていた。
二人は呼吸を乱し、汗を散らせて、上気した素肌を重ね合わせている。

「ア、ン、アァ…、ンンンッ…」
「ハァ、ハァッ、ハァ…」

メイリスは手の甲で自らの口元を覆って悩ましい顔つきで嬌声を抑え、ゲイルは彼女の脚を掴んで緩急をつけながら激しく腰を揺さぶっていた。
充血した女性の秘部に太く逞しい自身が食い込む様を眼福そうに眺めては、興奮に鼻の穴を膨らませている。
メイリスが軽く絶頂に震えて喉を突き出すと、ゲイルはその喉元に唇を寄せてやわく噛みついた。
ねっとりと首筋の汗を唾液で塗り替え、薔薇色に染まる頬に張り付いた髪を指先で払う。
全身を預けきる彼女をゆっくりと抱き起こし、彼は執拗に舌で敏感にさせた胸の頂に吸い付いた。
泡立つような水音と張りのある肌がぶつかり合う音に、淫らな声を上乗せする。

「ァ、ン…!それ、ゃ…ア、ァ…」
「ンッ、キモチイ…ッ、…う、ァ…」

ゲイルは一度休息を取り、呼吸を整えながら迫り来る射精感に耐えた。
ただ繋がっているだけで二人の間にゾクゾクと背筋を撫で上げられるような感覚が流れて、頭が痺れてくる。

「ハァ…も、限界…バックでイキたい。いい?」
「ん…」

メイリスは短く返事をすると、彼の要望に応えるように尻を突き出した。
性急に挿入され、小刻みに焦らされて艷声を上げる。
室内に男女二人のつやめかしい息遣いが響き、声量も腰の動きも次第に荒く、大胆になっていく。

「ハァ、イク…メイス、出すよ…!アァ、イクッ!」
「ン、ふ、ぅ、ア…ンッ、ンン、ン…!」
「ァア…うっ…く、…!」

二人はほぼ同時に身悶えた。
メイリスは口から熱気をあふれさせ、顔を埋めていた枕を唾液で湿らせた。
ゲイルは大量の欲を吐き出しきると、彼女の乱れた髪を撫で梳き、乱れた呼吸のまま抱き合って唇を重ねた。

長年友達同士でいたこの二人が初めて男女の関係を持つことになったきっかけは、約1年前。
初夏になろうかという季節の、少し蒸し暑さを感じる夜だった。
その日のゲイルはすこぶる機嫌が悪く、珍しく酒に飲まれていた。
深夜に寝ているところを起こされたメイリス・クロウは、玄関のドアに施されている魔法陣を開錠した途端、なだれ込むようにして床に伏した男を冷淡な目で見下ろした。

「帰る家を間違えているわよ。ゲイル・ラーバント」





メイリス達が暮らすこの国――パレシアには魔法が存在する。
国民の約1/3が魔力を保有しており、魔力を持つ人々はマギウス、魔力のない人々はエウリスと呼ばれ共存していた。
マギウスは魔法陣に魔力を注ぎ込むことで様々な魔法を展開させることができ、その技術は生活の所々で活かされていた。
魔法陣の種類は数え切れないほどあり、その全ては国で管理され、主に国家安定の為に使用されている。
首都にある国立研究機関には優秀なマギウスが集い、魔法陣の開発や改良などを行っていて、メイリスは5年前からそこで女性研究員として働いていた。
彼女は生まれながらに魔力を有する生粋のマギウスで、赤ん坊の頃になぜか籠に入れられ置き去りにされていたのをエタ村に住むエウリスの夫婦に運良く拾われた。
彼らの子として大切に育てられ、12歳の春に村を出て、国で唯一のマギウス専門教育機関・エレメンタルスクールに入学し、寮生活をしながら8年間の教育課程を全うした。
常に成績は上位をキープし、国立研究機関から直々にオファーがあったことで卒業と同時に就職した。

メイリスは女性らしい体つきや風貌をしていたが、性格はどこか男性に近いものがあった。
整った鼻筋や凛とした目は冷え冷えとして理知的な印象を与え、感情が見えないためにどことなく神秘的な雰囲気を纏っていた。
一人を好み、人の噂には興味を持たず、それなりにお洒落もするが社会人の嗜み程度で、遊びより魔法陣が好きな研究者タイプだった。
そんな彼女には長年親しくしている異性の友達がいた。
同じエタ村出身のマギウスで、名前はゲイル・ラーバント。
彼もメイリスと同様にエレメンタルスクールに8年在籍し、国家防衛機関に就職した。
性格は明るく社交的で、素直で愛嬌もあるため自然と人が寄ってきていた。
メイリスとは真逆なタイプだったが、意外と馬が合って居心地が良く、幼い頃から何かと一緒に行動することが多かった。
就職してからも時々会ってお酒を飲んだり、理由もなくお互いの家に遊びに行ったりしていた。

ゲイルとはかれこれ20年以上の付き合いになるが、これまでに一度もそれらしい雰囲気になったことはなかった。
彼には常に恋人がいたし、メイリスも彼のことを異性と意識したことも、そういう扱いをしたこともなかった。
そもそも彼女自身が恋愛にそれほど魅力を感じておらず、淡々としていて近寄り難い雰囲気もあったので、なかなか異性とそういう関係になり難かった。
女性にもてまくりのゲイルが傍にいても全く表情を変えないことから、学生時代は陰で無性愛者なのではと噂されてもいた。
しかしそんなメイリスに唯一、好きだと告白してきた猛者がいた。
メイリスの同級生で、当時彼女と成績のトップ争いをしていたブレイン・コーニアス。
彼は在学中から何かとメイリスにちょっかいをかけていたが、就職先が同じ国立研究機関とわかると真剣に交際を申し込んできた。
メイリスは断ったが、それ以降も積極的にアプローチをしては付き合おうとしつこく迫ってくる。
それが6年も続けばもはや二人の定番のやりとりになっていて、ブレインも面白がっている節があり、メイリスも本気にはしていなかった。

その日もメイリスが職場のカフェスペースでコーヒーを落としていると、ブレインがやってきて彼女の背中に近付いた。
触れそうな距離まで近づき、彼女の両脇を固めるようにテーブルに手をついて顔を寄せる。

「お疲れ…メイリス」

耳元で色っぽく囁くが、彼女が顔を赤らめることはなかった。

「お疲れ様。あなたって何度言っても普通に言えないのね」
「これが俺の普通なんだよ。メイリス限定だけどね。休憩がかぶるなんて運命じゃないか?」
「休憩じゃないわ。コーヒーを淹れに来ただけ。今日は監査人が来てバタバタしてるから」
「大変そうだから部署のみんなに差し入れようって?君も忙しいだろうに、優しいよな」
「過去にしてもらったことがあるだけよ」
「そういうところ尊敬するよ。好き、メイリス。俺と付き合って」
「お気持ちだけ受け取るわ。そこ、邪魔だからどいてくれる?」
「あーいいね。それそれ。君に冷たくされると疲れが飛ぶんだよね」
「私は疲れるわ」

メイリスは溜め息をついて、出来上がったコーヒーを人数分の使い捨てカップに注いでいく。
ブレインは楽しそうにその様子を眺め、彼女の手からカップが乗ったトレーのひとつを奪った。

「手伝うよ。一人じゃ二度運ぶことになって大変だろ?」
「休憩中なんだからちゃんと休みなさい。私のことはいいから」
「気にするなって。二人で運べば一度で済むし」

有無を言わせない笑顔を向けられたメイリスは、申し訳なく思いつつも彼の厚意に甘えることにした。
カフェスペースを出ると、入れ違うようにぞろぞろと人がやってきた。
数十人の監査人と彼らを警護する防衛機関からの派遣SP達だった。
そのSPの中にはゲイルもいて、メイリスとブレインが二人仲良く並んで出てくる姿を目にするとほんの一瞬眉を顰めた。

「二人きりで何してたんだ?」

そう言わんばかりに非難の視線を送ってくる彼に、メイリスは苦笑いを浮かべ、ブレインはニヤリと笑った。
ゲイルは学生時代、ブレインが度々友達のメイリスに言い寄って困らせているのを見ては、割って入って彼に注意をしていた。

「ゲイルは相変わらずなんだね。今も昔も、まるで君の父親みたいだ」
「おかしなところで心配性なのよ」
「君が無防備だからじゃない?」

ブレインがくすりと笑った気配がした直後、頬に生温かい感触があった。
瞬時に何をされたのかわかって振り向くと、彼は眼鏡の奥で笑みを深めた。

「あんまり動くとコーヒー零れるよ」

顰め面をして睨むメイリスなど痛くも痒くもないといったふうに、ブレインは悪戯が成功したような顔をした。
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