交際0日の略奪婚~エリート営業マンは傷心の幼馴染を逃さない~

水瀬 立乃

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本編

第10話

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嘘から出た真じゃないが、それから本当に仕事が忙しくなって追われているうちに2週間が経った。
家に一人でいると気が滅入るばかりだからありがたくはあったが、連日の残業と希未のことが心配で体はくたくたに疲れていた。
スマホを確認してみても新着通知はなくてその度に気持ちが沈む。
少し休憩したくなって、背もたれに体を預けて目を閉じた。

(希未…どうしてるかな。ちゃんとご飯食べてるかな。夜は眠れてるか?一人で泣いてないよな…?)

仕事をしている時以外はどうしても希未のことばかり考えてしまう。
希未との関係は相変わらずで、メッセージを送っても返事がないから余計に堪えた。
あの電話の後、居場所だけでも教えてくれとしつこくメッセージを送ったら元々住んでいた家だと教えてくれた。
ホッとしたけど、それと同時に希未が俺に黙って一人で実家を片付けていたことに気付いてショックだった。
こうなるとわかっていたと言っていたし、いずれ引っ越すつもりでいたんだろう。
先週の土曜日に希未と二人で選んだクイーンサイズのベッドが届いた。
今思い返せばセミダブルに拘っていたのはいつかまた俺が一人暮らしに戻ることを見越していたからだったのかも知れない。
一人には大きすぎる新品のベッドで眠る気には到底なれなくて、あれ以来ずっとソファで寝起きしている。
もう家に押しかけてしまおうかと何度も思った。
でもそれでもっと嫌われることになったら本末転倒だし、決定打を放たれたら立ち直れる気がしない。
どんな話を聞いても信じられないと言われてしまったら他に何ができるのかわからない。

希未を裏切るような真似をした俺が一番悪いのだが、彼女がどうして俺の嘘を知ったのかも気になっていた。
薄々勘付いていたのかも知れないが、それだけで捺月絡みだと確信できるだろうか。
会社帰りに二人でいるところを見られた可能性も考えられるが、たったそれだけで復縁したと信じるのは浅慮だし彼女らしくない。
俺が希未と逆の立場だったらどういう経緯でそうなったのか詳しく話を聞こうとしただろう。
でも彼女は俺の話を聞く前からそうだと決めつけて、全く聞く耳を持たなかった。
彼女にそういう行動を起こさせる何かがあったに違いない。
そのことに思い至った俺は、希未がいなくなった週の月曜日に一度捺月と話をした。

『捺月。悪いけどもう家まで送れない。今日からは他の奴に頼んでくれ』
『…わかった。ごめんね、今まで迷惑かけて。ところで顔色が良くないけど何かあったの?』
『お前…希未に会ったか?』
『え?会ってないよ。工藤さんがどうかしたの?』
『お前と俺が復縁したって勘違いして全然話を聞いてくれなくなった』
『えっ!喧嘩したの?』
『喧嘩どろこか、家を出ていった。だけど腑に落ちないんだ。どうして希未はそんな勘違いをしたと思う?俺以外で希未と接点があるのはお前と国原だけだから、話すとすればどちらかだと思ったんだが…何か知らないか?』
『し、知らないわ。私もびっくりしてる。どうしてそんな勘違いなんて…』
『そうか…。もし何か隠してるんなら早めに言ってくれ。時間が経てば経つほど許せなくなるから』

捺月は希未が出ていったと聞いて驚いていたが、最後の一言に動揺した様子を見せた。
彼女が何か関わっていることは明らかになったが、それ以来俺を避けているのか職場で顔を合わせていない。

もう八方塞がりだった。
希未をこのまま諦めたくないのに、こうなった原因が何かもわかりかけているのに、これ以上進展する気がしない。
このまましばらく距離を置いたら話を聞いてもらえるようになるだろうか。
希未の気持ちが落ち着いたら…。
でもそんな時は二度と来ないような気もして、もどかしくて仕方がない。
結局休憩するつもりが余計に落ち着かなくなってしまった。

(今日はもう帰ろう…)

途中まで作業していたのを保存してパソコンの電源を落とした時、スマホに着信があった。
希未ではなく、国原からだった。

スマホの画面に表示された〈国原貴士〉の文字に落胆しながら電話に出た。
こんな時間に何かと思ったら、意外にも飲みの誘いだった。

「悪かったな、急に誘って」
「俺は構わないけど、奥さんはいいのか?もう23時まわってるけど」
「大丈夫。水城と会うってちゃんと言ってるし、そういうとこ寛大だから」

駅前で国原と落ち合って、予約したという店まで歩く。
ふと何気なくバスターミナルを見やると、奥の乗り場に希未の姿があった。
ドクンと心臓が高鳴る。
2週間ぶりに希未に会えたこと、彼女がちゃんと生きていたことにまずは喜んだが、何故バス乗り場にいるのか一気に不安になった。
遊びに出かけるにしては大きめの鞄を持って、間もなくやってきた高速バスに乗り込んでいく。
突然立ち止まった俺を国原が訝し気に呼んでいるのをどこか遠くで感じた。
心臓が嫌な音を立てている。
冷や汗が止まらない。

(どこに行くんだ…?また遠くになんて行かないよな?俺に黙って…。もしそうならどうする?)

俺は衝動的に走り出していた。
もしこのまま行かせたら、今度は見つけられないかも知れない。
二度と希未に会えなくなるかもしれない…!
人にぶつかるのも構わず必死の思いでバス乗り場まで走ったが、無情にもバスは発車してしまった。

(間に合わなかった……)

呆然としていると追いかけてきた国原に肩を叩かれた。

「はっ…はぁ、はぁ…待てって、言ってんのに…はぁ…」
「国原…」
「はぁ…どうしたよ…?」
「希未がいたんだ…。希未がバスに乗って…どこかに…」
「おい…」
「せっかく見つけたのに…。俺は、俺はまた…!また会えなくなるのか?!今度はいつまでだ?!いつまで待てばいいんだよ!」
「おい、水城!しっかりしろ!こういう時だからこそ冷静になれよ!大丈夫だって…きっと旅行か何かだ。彼女はちゃんと帰って来るって」
「なんで……なんでお前にそんなことがわかるんだよ?!お前は希未のこと何も知らないだろ?!」
「落ち着けよ!落ち着けって!俺は全部知ってるんだよ…お前が知りたいこと。それを話したくて、今日お前を飲みに誘ったんだ」

国原の声に冷静さを取り戻した俺は、肩で息をしながら胸倉を掴んでいた手を離した。
悪かったと謝ると、彼は気にするなと言って笑った。

「早く店に行って話そう」

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