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続・エイプリルフール4
しおりを挟む時期外れの胡瓜と手遊びをしていたら、上からクレソンが降ってきた。
天井を見上げると、クレソンのコロニーが出来ている。毎月恒例の腕相撲大会をしているようだ。
コロニーの中心の小さなテーブルで、腕力を競い合う。負けたクレソンが、勝負の舞台から降ってくる。
凄い熱気だ。間引きをしよう。
とはいえ、やることはそんなにない。落ちてきたクレソンを籠の中に入れれば良い。
新しく参戦したクレソンが勝ち残る。どうやらクレソン達の腕力に大きな違いは無いようだ。
クレソンが、籠いっぱいに積み上がる。今年は豊作だ。
◆◆◆◆◆
トマトが壁に隠れて、キャッキャと縁側を覗き込んでいる。一緒になって覗いてみると、白と緑のアスパラガスが肩を寄せ合っていた。春だなぁ。
青いトマトが赤くなる。食べ頃だ。
熟れたトマトは、腐るのも早い。恋の賞味期限は短い。早めに食べてしまおう。
今回はサラダにした。採れたてのクレソンと合わせて、作り置きのドレッシングをかける。クルトンを乗せるのも忘れずに。
初恋トマトはほんのり甘い。いいお味です。
◆◆◆◆◆
茶殻坊主の小さなお茶会に、私も参加することになった。
米職人も連れて行く。ドアの前でメガホン片手に騒いでいたら、襖が少し開いたので、腕を掴んで引っ張り出した。やはり、勢いは大事だ。
よく見ればパジャマのままであったので、途中、私の家に寄って服を着せた。身だしなみを整えれば、うん。なかなかいい男ではないか。
南側のドアを三回開ければ、そこは茶殻坊主の茶室だ。
茶殻坊主が、「おや?」とこちらを見る。やはり、米職人が外に出るのは珍しいことなのだろう。
時間のゆっくりと過ぎる春の茶室で、桜を眺めながら新茶を味わう。今年のお茶も、いい出来だ。
米職人が「小さな白い毛が混じっている」と苦言を呈する。「それが新茶の証だ」というと、「なるほど」と言って新茶を飲んだ。表情が明るくなる。どうやら新茶が気に入ったようだ。
茶殻坊主は新茶を振る舞う。私は胡瓜の糠漬けを振る舞う。山菜おばばがふきのとうの天ぷらを振る舞う。
酒仙人が春酒を振る舞い始めれば、それはもう宴会の合図だ。春酒に桜を浮かべて、それぞれが思い思いに宴会を楽しみ始める。
斜め前に座っている和菓子屋の娘と、米職人の目が合う。お互いスッと目線を逸らすところを見るに、何かが始まったらしい。
陽気な声に、美味しい食べ物。
春は、幸せが芽吹く季節だ。
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