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続・エイプリルフール
しおりを挟む暖かくなってきたからだろう。障子窓を開けて外を覗いてみれば、水位が床下まで迫っていた。あぁ、春だなぁ。
目の前を鰆が通り過ぎる。一匹捕まえようとするが、私ではどうにも上手くいかない。やはり漁師に任せるしかないようだ。
ほうれん草に肩をベシベシと叩かれる。わざわざ窓枠を登ってきたようだ。そろそろ旬を過ぎる頃か。
私より早く目覚めた山菜おばばが、朝方しめじを分けてくれた。竹ザルの中で、しめじがざわざわと会議をしている。合わせてお浸しにしよう。
家の前を漁船が通り過ぎる。どうやら漁師も目覚めたようだ。余りのお浸しと、鰆を交換して貰う。
見上げれば、淡い青が少し濃くなった気がする。
◆◆◆◆◆
仕事中に目眩がして、気付くと廊下で倒れていた。時期外れの胡瓜がこちらを覗き込んでいる。どうやら、こんを詰め過ぎたようだ。
こんな日には、栄養のある食事が必要だ。肉料理が良いだろう。
肉屋から肉を買い付ける。肉屋は山の麓に居て、いつも爛れた豚の皮を頭に被っている。見た目は怖いが彼がいないと、だいだらぼっちを倒せない。肉は力だ。
お裾分けする物が無い。どうしたものかと尋ねると、私の髪が欲しいらしい。何に使うのだと尋ねても、豚革を器用に動かしてニヤニヤと笑うばかり。背に腹は変えられない。
変な名前の肉を貰った。えんぴつと言って、滅多に出ない部位らしい。文房具じゃないか、と袋の中を覗く。なるほど確かに良い肉だ。
ウチに帰ると山菜おばばが尋ねてきて、白米を届けてくれた。今夜はステーキだ。
房から外れたニンニクが、キッチンで跳ね回っている。両手で挟んで捕まえると、指の隙間からこっそりこちらを覗き込む。
ふっと息を吹き込めば、皮が剥ける。丁寧にスライスし、オリーブオイルに絡める。弱火でじっくり香りを出す。
香ばしい香りがする。ジュウジュウという音が食欲を唆る。良いタイミングで、漁師がしじみを持って来た。
炊き立ての白米、えんぴつのステーキ、しじみのお味噌汁。うん、良いお味だ。
◆◆◆◆◆
深夜の丑三つ時に、甲高い声が響き渡る。ゴーヤゴーストの鳴き声だ。こんな時期まで忘れられていたとは。結構な大事だ。
山菜おばばが私を呼びに来た。漁師の家の冷蔵庫に、ゴーヤが潜んでいたらしい。あいつめ。買ったはいいが、忘れていたな。
こんな時期まで放っておかれたゴーヤゴーストは厄介だ。叫び声を近くで聞いたら、誰でも失神してしまう。
まず、酒を用意する。酒瓶を盾にジリジリと近寄れば、ゴーヤゴーストは戸惑いながら、おずおずと酒を飲み始める。上手に煽てる。ふらつくまで飲ませ、少し赤みが出てきた頃に、塩をひとつまみ。
カセットコンロに着火する。豚肉と卵も忘れずに。味付けは、醤油と塩と胡椒。シンプルだから、とても良い。
ゴーヤチャンプルが出来た。ピリリと苦くて危険なお味だ。うん、食べられないこともない。
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