錆びた指先。~大人なあんたとガキの俺の二重奏~

かたらぎヨシノリ

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約束の果て、

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 約束の果て
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 翌日、菅元が持ってきた服に着替えて帰る支度をしていると、土屋真幸が顔を見せに来た。色の濃いサングラスをかけてはいたが、目立たないジャケットにジーンズの格好だと、威圧するような芸能人オーラがない気がした。
 俺が会釈すると、土屋真幸はホッとしたような笑みをみせる。


「元気そうでよかった」
「……土屋先生にはわざわざ病院まで運んでもらったみたいで、ありがとうございました」
「ははは。本当に助かってよかったよ。ま、贖罪の意味もあったしね――僕も彼も」
「……奈義から聞きました。有田謙、さん、のこと」
「だろうね」

 いつか、彼なら君に話すだろうなとは思ってたよ。
 独り言のように呟いて、土屋真幸は床に視線を落とした。

「……いいわけがましいな、僕も。君を見ていると、どうも謙を思い出してしまうみたいだ」

 君にも、謙にも失礼だよねごめんね。
 謝るのが癖になっているように、土屋真幸は俺にごめんねを繰り返した。俺に謝っているのではないんだろう。俺の向こうに見える、有田謙に向かって謝っている。

 奈義と同じように、土屋真幸もまた、心に深い傷を負っている。

(――みんな、有田謙を愛してた)

 だから、傷ついて。
 守りきれなくて、
 後悔ばかりしてる。

「土屋先生……」

 有田謙の容態は良くもなく悪くもないんだと、昨日奈義は言った。ただ眠って、いつ目が覚めるかはわからないんだと。でも、確かに彼は生きている。生きようとしている。

「……俺、歌うよ」

 耳を疑うように土屋真幸が顔を上げた。サングラス越しに俺と目が合う。

「ジゼルの四枚目、あんたが作ってくれるんだろ?」
「――ああ、うん、そうか。歌って……くれるんだ」
「うん。俺に出来ることってそれぐらいしかないし、ある人とも約束したから」
「……約束?」
「そいつの為に歌うって」
「――ふぅん。なんか、」
「なに?」
「なんか変わったみたい」


 面白いものをみるような、好奇な視線が向けられる。


「……変わった、かな?」


 自分じゃよくわからないけど、でも、彼との約束があることで俺は、自分が歌い続ける意味を少しだけ掴みかけてる気がする。

「君にもようやく、土台が出来たみたいだね」
「え」
「歌い続けるための理由。ただ歌いたいから歌ってるだけだと、壁にぶつかったとき脆いから。君にいい変化を与えてくれたのは、やっぱり[[rb:垂水 > たるみ]]なのかな。だとしたら、感謝しなくちゃ」


 土屋真幸は口許を綻ばせる。なにか勘違いされてるけど、誤解をとく暇もなく、これから忙しくなるなぁ、なんて呟いてさっさと帰っていった。
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