17 / 19
約束の果て、
17
しおりを挟む
────────────────
約束の果て
────────────────
♯
翌日、菅元が持ってきた服に着替えて帰る支度をしていると、土屋真幸が顔を見せに来た。色の濃いサングラスをかけてはいたが、目立たないジャケットにジーンズの格好だと、威圧するような芸能人オーラがない気がした。
俺が会釈すると、土屋真幸はホッとしたような笑みをみせる。
「元気そうでよかった」
「……土屋先生にはわざわざ病院まで運んでもらったみたいで、ありがとうございました」
「ははは。本当に助かってよかったよ。ま、贖罪の意味もあったしね――僕も彼も」
「……奈義から聞きました。有田謙、さん、のこと」
「だろうね」
いつか、彼なら君に話すだろうなとは思ってたよ。
独り言のように呟いて、土屋真幸は床に視線を落とした。
「……いいわけがましいな、僕も。君を見ていると、どうも謙を思い出してしまうみたいだ」
君にも、謙にも失礼だよねごめんね。
謝るのが癖になっているように、土屋真幸は俺にごめんねを繰り返した。俺に謝っているのではないんだろう。俺の向こうに見える、有田謙に向かって謝っている。
奈義と同じように、土屋真幸もまた、心に深い傷を負っている。
(――みんな、有田謙を愛してた)
だから、傷ついて。
守りきれなくて、
後悔ばかりしてる。
「土屋先生……」
有田謙の容態は良くもなく悪くもないんだと、昨日奈義は言った。ただ眠って、いつ目が覚めるかはわからないんだと。でも、確かに彼は生きている。生きようとしている。
「……俺、歌うよ」
耳を疑うように土屋真幸が顔を上げた。サングラス越しに俺と目が合う。
「ジゼルの四枚目、あんたが作ってくれるんだろ?」
「――ああ、うん、そうか。歌って……くれるんだ」
「うん。俺に出来ることってそれぐらいしかないし、ある人とも約束したから」
「……約束?」
「そいつの為に歌うって」
「――ふぅん。なんか、」
「なに?」
「なんか変わったみたい」
面白いものをみるような、好奇な視線が向けられる。
「……変わった、かな?」
自分じゃよくわからないけど、でも、彼との約束があることで俺は、自分が歌い続ける意味を少しだけ掴みかけてる気がする。
「君にもようやく、土台が出来たみたいだね」
「え」
「歌い続けるための理由。ただ歌いたいから歌ってるだけだと、壁にぶつかったとき脆いから。君にいい変化を与えてくれたのは、やっぱり[[rb:垂水 > たるみ]]なのかな。だとしたら、感謝しなくちゃ」
土屋真幸は口許を綻ばせる。なにか勘違いされてるけど、誤解をとく暇もなく、これから忙しくなるなぁ、なんて呟いてさっさと帰っていった。
約束の果て
────────────────
♯
翌日、菅元が持ってきた服に着替えて帰る支度をしていると、土屋真幸が顔を見せに来た。色の濃いサングラスをかけてはいたが、目立たないジャケットにジーンズの格好だと、威圧するような芸能人オーラがない気がした。
俺が会釈すると、土屋真幸はホッとしたような笑みをみせる。
「元気そうでよかった」
「……土屋先生にはわざわざ病院まで運んでもらったみたいで、ありがとうございました」
「ははは。本当に助かってよかったよ。ま、贖罪の意味もあったしね――僕も彼も」
「……奈義から聞きました。有田謙、さん、のこと」
「だろうね」
いつか、彼なら君に話すだろうなとは思ってたよ。
独り言のように呟いて、土屋真幸は床に視線を落とした。
「……いいわけがましいな、僕も。君を見ていると、どうも謙を思い出してしまうみたいだ」
君にも、謙にも失礼だよねごめんね。
謝るのが癖になっているように、土屋真幸は俺にごめんねを繰り返した。俺に謝っているのではないんだろう。俺の向こうに見える、有田謙に向かって謝っている。
奈義と同じように、土屋真幸もまた、心に深い傷を負っている。
(――みんな、有田謙を愛してた)
だから、傷ついて。
守りきれなくて、
後悔ばかりしてる。
「土屋先生……」
有田謙の容態は良くもなく悪くもないんだと、昨日奈義は言った。ただ眠って、いつ目が覚めるかはわからないんだと。でも、確かに彼は生きている。生きようとしている。
「……俺、歌うよ」
耳を疑うように土屋真幸が顔を上げた。サングラス越しに俺と目が合う。
「ジゼルの四枚目、あんたが作ってくれるんだろ?」
「――ああ、うん、そうか。歌って……くれるんだ」
「うん。俺に出来ることってそれぐらいしかないし、ある人とも約束したから」
「……約束?」
「そいつの為に歌うって」
「――ふぅん。なんか、」
「なに?」
「なんか変わったみたい」
面白いものをみるような、好奇な視線が向けられる。
「……変わった、かな?」
自分じゃよくわからないけど、でも、彼との約束があることで俺は、自分が歌い続ける意味を少しだけ掴みかけてる気がする。
「君にもようやく、土台が出来たみたいだね」
「え」
「歌い続けるための理由。ただ歌いたいから歌ってるだけだと、壁にぶつかったとき脆いから。君にいい変化を与えてくれたのは、やっぱり[[rb:垂水 > たるみ]]なのかな。だとしたら、感謝しなくちゃ」
土屋真幸は口許を綻ばせる。なにか勘違いされてるけど、誤解をとく暇もなく、これから忙しくなるなぁ、なんて呟いてさっさと帰っていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
まだ、言えない
怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL
XXXXXXXXX
あらすじ
高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。
“TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。
吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。
「まだ、言えない」気持ちが交差する。
“全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか”
注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m
注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。
溺愛じゃおさまらない
すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。
どろどろに愛されているけれど―――。
〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳
〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳
彼はオタサーの姫
穂祥 舞
BL
東京の芸術大学の大学院声楽専攻科に合格した片山三喜雄は、初めて故郷の北海道から出て、東京に引っ越して来た。
高校生の頃からつき合いのある塚山天音を筆頭に、ちょっと癖のある音楽家の卵たちとの学生生活が始まる……。
魅力的な声を持つバリトン歌手と、彼の周りの音楽男子大学院生たちの、たまに距離感がおかしいあれこれを描いた連作短編(中編もあり)。音楽もてんこ盛りです。
☆表紙はtwnkiさま https://coconala.com/users/4287942 にお願いしました!
BLというよりは、ブロマンスに近いです(ラブシーン皆無です)。登場人物のほとんどが自覚としては異性愛者なので、女性との関係を匂わせる描写があります。
大学・大学院は実在します(舞台が2013年のため、一部過去の学部名を使っています)が、物語はフィクションであり、各学校と登場人物は何ら関係ございません。また、筆者は音楽系の大学・大学院卒ではありませんので、事実とかけ離れた表現もあると思います。
高校生の三喜雄の物語『あいみるのときはなかろう』もよろしければどうぞ。もちろん、お読みでなくても楽しんでいただけます。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる