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余命1年
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窓から朝日が入り込み、目が冷めた。窓を開けると、湘南の潮風が心地良く吹いてくる。
今日からいよいよ待ちに待った高校生。進学先は神奈川県内にある、県立江ノ島高等学校。観光地で有名な江ノ島や水族館の近くに位置する高校で、学校から海までもそう遠くない。駅も江ノ電に湘南モノレール、小田急江ノ島線が乗入れており、交通の便も充実している。放課後に海に寄ることもできるし、オシャレなカフェに寄ることもできる。学校の評判もなかなか良く、楽しい学校生活を送ることができると思っていた。が、私はこの高校を卒業できる保証はない。そもそも卒業できない。
――余命1年半。
今から約半年前の中学3年生の10月。医者から告げられたのは、死へのカウントダウンだった。急に高熱を出し、行きつけの病院で診てもらったところ、ただの風邪だと診断された。が、なかなか熱は下がってくれず、病状は悪化する一方だった。気になって詳しい検査を市民病院で受けた。その時に告げられてしまった余命宣告。最初はどうも現実味が無くて、夢の中だと思ってしまった。余命宣告なんてドラマとかの話だと思っていた。まさか自分に来るなんて思ってもいなかった。が、それが私に突きつけられた現実だった。はじめの頃は、なかなか受け入れられずに閉じこもりの生活を送っていたが、閉じこもっても余命は伸びることは無い。なので、気持ちを入れ替えて残りの人生を送ることにした。
今は薬で症状を抑えているが、病状がどんどん悪化しているのは定期検診で分かっている。現状維持で、治ることは無い私の病気。どうせ死ぬなら、悔いのないように死のう。最期の1年間、誰にも負けないくらい楽しく過ごそう。そう強く思った。
「美香、達也君がお迎えに来たよ」
朝ご飯を食べ終え、部屋で制服に着替えていると、下からお姉ちゃんが呼んでいる声が聞こえた。
達也は、家が隣ということもあり、小学生の頃から仲が良い。シングルマザーで家にお母さんが居ないことが多い達也は、我が家に遊びに来ることも多かった。一人っ子で、私のお姉ちゃんの事を「美優姉ちゃん」と呼ぶぐらい我が家に馴染んでしまっている。
いってきます。と、玄関を出ると、達也が小説を読みながら待っていた。
「おはよう美香。入学早々お寝坊さんか?」
鞄に本をしまいながら、嫌味も混じえながら挨拶をしてくる。
本のタイトルは『最後の夏』だった。最近発刊された、男子高校生の日常を書いた青春物語だ。
「おはよう……言っておくけど寝坊じゃないから。達也が来るのが早いだけだから」
「ふーん。まあ良いわ。早く駅に向かわなきゃ。瑞希が待ってる」
そう言うと達也は、さっさと前を歩いていってしまった。私も慌てて追いかける。
瑞希とは中学生の時に知り合った。つい人見知りをしてしまう性格の私は、その性格ゆえに、友達がなかなか作れないまま過ごしていた。が、瑞希はそんな私に辛抱強く接してくれた。そんな瑞希に、私はいつの間にか心を開いており、今では瑞希とは大の仲良しになった。
昨日の雨の水溜りが残っている道を、2人並んで歩く。目指すは最寄りの江ノ電の稲村ヶ崎駅。朝早いこともあるが、すれ違う人は少ない。私と達也の家は海岸の近くにあるが、駅は海から少し離れているからだろうか。が、坂道を10分も歩けば、晴天時に海と富士山が同時に望める稲村ヶ崎公園に行くことができる。大人気の江ノ島からは少し離れているためか、観光客は江ノ島エリアよりかは少なく、そこそこ空いている。そのため、知る人ぞ知る隠れ家的な観光スポットみたいになっている。
7分ほど歩いて稲村ヶ崎駅に着くと、瑞希は手鏡で前髪を木にしながら待っていた。
「あっおはよう!美香ちゃん、達也君」
こちらに気づいて手を振りながら近づいてくる。私も手を振って答える。
「おはよう、瑞希。高校も一緒の学校に行けて嬉しいよ」
「うちもー。それより……今日も、達也君と一緒に来たんだね」
瑞希はニヤニヤしながら私の顔を見てきた。瑞希は何かを勘違いしているな。
「一緒に来たというか、達也が勝手に迎えに来ただけ。余計なこと考えないの。そんな事より、ホームに上がらないと電車来ちゃうよ?」
瑞希は少し頬を膨らませて、ふてくされたような顔をした。瑞希はいったい何を期待しているのだろうか。
3人でホームに上がると、タイミングよく電車が入っていた。2両同士を連結した、4両編成の藤沢行き。緑色とクリーム色の車両が朝日に照らされて輝いている。数年前までは、2両編成の単独運転だったが、江ノ島エリアの観光需要が高まり、4両編成で増結運転された。
乗車すると、朝早い時間帯で観光客が少ないからか、ゆったりと座ることができた。座るのは進行方向左側の座席。稲村ヶ崎駅を発車したら、車窓に注目する。ここから腰越駅までは、列車から海が望めるからだ。また、七里ヶ浜駅と腰越駅の間にある鎌倉高校前駅は、駅から海が一望できる。そのため、ドラマやアニメ等でも登場することも多く、駅自体が観光名所みたいになっている。江ノ島電鉄の駅の中でも、かなり人気な駅となっている。近くにある踏切もマニアの中では、聖地として有名スポットとなっている。
稲村ヶ崎駅を出て約15分。江ノ島駅に着いた。ここから5分歩くと、江ノ島高校に通うことができる。校門から昇降口まで、綺麗な桜が咲いており、より一層入学の雰囲気が出ている。
「ほら、早くクラスを確認しにいこうよ」
クラスの名簿表に向かって走っていった、瑞希と達也を慌てて追いかける。今日から私の最期の1年が始まろうとしていた。
「ただ今より、第43回、江ノ島高等学校、入学式を始めます」
進行役の教頭先生の言葉で、美香の高校生活、そして最期の1年が始まった。
余命宣告された時は、正直、高校に進学しようとは思わなかった。高校に行っても進学も就職もできないから成績は関係ないし、残りの人生は自分の好きなように自由に生きようと思ったから。しかし、よくよく考えたら、特にやりたいことは無かった。それならばと、達也や瑞希の行く高校に一緒に進学して、最期の思い出を作ったほうが有意義に過ごせるのではないかと判断して、同じ江ノ島高校に進学した。
しかし、このままずっと高校に一緒に行けるわけではない。私の残りの人生は長くてあと1年。その事をまだ達也と瑞希に伝えてなかった。余命が宣告されていることは、然るべき時に話せば良いと思うけれど、自分の症状ぐらいは伝えていたほうが良いと思う。問題はいつ伝えるべきか……
いつ伝えようか考えていると、長ったらしい校長講話はあっという間に終わっていた。教頭先生が、次々とプログラムを進行する。
「続きまして、生徒会による新入生歓迎の言葉です」
校長先生と入れ替わりで登場したのは、美香の見慣れた人物だった。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。そして、江ノ島高校へようこそ!私は生徒会長を勤めています、佐々木美優です。我々生徒会は――」
ハッとして我に返った。まさかお姉ちゃんが会長になっているとは知らなかった。よく家で学校の話をするのに、会長になっているとは知らなかった。きっとお姉ちゃんなりのサプライズのつもりだったのだろう。
生徒会の新入生歓迎の言葉、指導部での高校生活での諸注意、クラス担任紹介など、順調に入学式のプログラムが進んだ。
約1時間で、無事に入学式が終わった。ホームルームを行うため、美香達は教室へと向かう。私と瑞希は運良く同じ3組になったが、達也は残念ながら隣の4組になってしまった。
教室に入り、席に座ると、長身で眼鏡をかけた細身の先生が静かに入ってきた。
「みなさん、ご入学おめでとうございます。私は、3組の担任をする事になりました、田中健仁です。担当科目は科学です。1年間よろしくおねがいします」
と、簡単に自己紹介を終えた。
「さて、入学して気分も高まっている時に申し訳ないのですが、明後日の学力テストの事なんですが――」
入学早々学力テストかぁ。学力は気にしていないとはいえ、一応しっかりと勉強はしておいたほうが良いかな?江ノ島高校は進学校だから、悪い点数では補習になってしまうかもしれないし。そうなると帰りも遅くなり、お母さんを心配させてしまうだあろうし、何よりとても面倒くさい。
そっと瑞希の方を見ると、ぼんやり窓の外を見ているようだった。先生の話など気にせずに、まるで一人だけの世界に居るようだった。窓の外からは、建物の間だけど海が薄っすらと見える。どこを見ているのだろうか。何を考えているのだろうか。それにしても、授業中なのに外を見ているなんて、ほのぼのとしていて、瑞希らしいと思った。
私も窓の外を見ながら思いにふけっていると、前の席からプリントが回ってきた。慌てて受け取る。A4用紙のプリントには、一番上に『部活動について』と書いてある。
「我が校の1年生の部活動は、強制とはなっていません。ですが、極力参加していただいたほうが、積極性があるということで、大学の推薦等が書きやすくはなります。運動部、文化部ともに種類が多く充実しており、運動部は――」
部活動もどうしようかな。なにかと忙しいだろうし、自分の身体がいつまで追いつくかも問題だ。途中で倒れてしまったら、周りの部員たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、部活で何か達成できるかもしれないし、その分思い出も増えていくことだろう。まあ、達也と瑞希が、部活動をどうするかで決めよう。
その後、教科書配布、各係の説明などをされて、ホームルームの時間は終わった。今から帰ると考えると、お昼前には家に着きそうだ。
早速、下校しようとした時に、田中先生に呼び止められた。達也と瑞希と一緒に帰る予定だったから、瑞希に先に昇降口で待ってもらうように伝えた。
「佐々木さん。学級委員をやってくれませんか?」
田中先生は、眼鏡を持ち上げ、微笑みながら言った。正直、思いもしない言葉で嬉しい気持ちもあった。が……。
「私などに期待していただいてありがとうございます。ですが、今回は見送らせてください。お気持ちにお答えできずにすみません」
定期検診で時々学校を休まなければいけないし、お母さんを心配させないためにも、早く帰らなければいけない。ここで本当の事を言えば納得してくれるだろうが、病気の事を堂々と言えるほどそこまで私も強くない。
「いえいえ、こちらこそ押し付けるような真似をしてしまってすみません。そうですか……生徒会長の妹さんならやってくださると思ったのですがね。分かりました。お時間をお取りしてしまいすみません。気をつけて下校してくださいね」
その表情も口調もとても優しかったが、自分の中には言葉にしにくいモヤモヤとするものが残った。自分の胸の中で、何かがグルグルと回っている感じがして……正直気持ち悪い。
その気持ち悪さから逃げ出すように教室を出て、急いで昇降口に向かうと、達也と瑞希が談笑しながらちゃんと待っていてくれた。
「ねぇ、田中先生と何を話していたの?あっ、もしかして惚れられた!?」
瑞希はこういう話が大好きなのか、また期待しているかのような目で聞いてきた。
「瑞希が思っていることはなんにも言われてないからね」
「ほんとにぃ?」
「ほんとだって。そもそも、田中先生は奥さん居るし」
ホームルーム中もさっき話していた時も、陽の光に反射して、左手の薬指のリングが輝かしく光っていた。
「そうなんだぁ。つまらないのー」
瑞希は不満そうな顔で口を尖らせた。まったく、この子はいったいどこでそんな事を知ったんだろう。そもそも先生と学生なんてありえない。それも高校生活初日になんて。
江ノ島駅から電車に乗り、稲村ヶ崎駅に戻ってきた。行きと違い、帰りの電車は、車窓を見る余裕なんて無かった。さっき、田中先生に言われた言葉が頭を回っていた。妹さんなら……と。
「じゃあね、美香ちゃん。達也君。また明日ー!」
瑞希は手を振りながら脇道へと入っていく。私と達也は海岸に近いところに住んでいるが、瑞希は駅の近くに住んでいるため、ここで分かれることになる。私と達也は瑞希を見送ると、家へと歩く。
「ねぇ、いきなりで申し訳ないけど、今日も家に寄っていい?」
駅から5分ほど歩き、家の近くになって、いきなり達也が聞いてくる。
「はぁ?高校に進学してからも家に来るつもり?」
いったい現役女子高生の家で、何をしようというのだ。
「なんだ?嫌か?嫌なら別に良いけど」
別に嫌ってことじゃないけどさ……と、美香は玄関の鍵を空ける。玄関に入ると、達也のお腹が鳴った。なるほど、そういう事か。でも、まさかご飯を食べに来たわけじゃないよね?ないない。それはあり得ないって。
「ごめんごめん。実はお腹空いているんだよね。今日、朝ご飯食べずに来たから」
何かを企んでいるいたずらっ子みたいに、達也は笑う。あれ?
「1回家に帰ってお昼ご飯でも食べてきたら?」
「それがさ、昨日で冷蔵庫の中身を切らしちゃてさ……」
これはまさかだけど……。
「つまり、我が家でお昼ご飯を食べさせてほしいから家に上がらせてほしいと?」
「よろしくお願いします。美香さん」
やっぱり、思った通りの返答。でも、そのまま返してしまったら、夕ご飯まで空腹で耐え忍ぶ事になる。それを見逃すほど私は鬼ではない。全くしょうがない人だ。
「はぁ……分かったよ。じゃあ、私の部屋に荷物置いて、早速準備しよ。そのかわり、ちゃんと手伝ってよね」
「お任せください!」
荷物を置き、早速キッチンに移動する。さて、何を作ろうか。冷蔵庫を覗いてみると、私の家も対して食材が無いではないか。あとは、冷凍物か……。冷凍庫にはミックスベジタブルがあった。卵の在庫も充分あるし、鶏のもも肉もある。ご飯も結構残っている。こうなったら作るものはアレしかない。
「よし、今日のお昼ご飯はオムライスにしよっか」
「おっいいね。最近オムライス食べてなかったから楽しみ!」
そうと決まれば、早速調理に取り掛かる。達也にオムレツ部分を任せると大変なことになりそうなので、達也にはチキンライスをお願いし、私がオムレツを作ることにしよう。
「じゃあ、達也はチキンライスを作ってね。私はオムレツの部分を作るから」
「了解。ご飯は何人分?」
「そうだねぇ。お姉ちゃんはもう少ししたら帰ってくると思うけど……お母さんはどうだろう?ちょと電話してみるね」
早速スマートフォンを取り出して電話してみる。
「もしもし、お母さん?今どこに居るの?」
「今ねえ、お母さんの高校時代の友達とね、ランチに来てるの」
「えっ?じゃあ、お昼ご飯はいらないってこと?」
「そういう事になるわね。あ、呼ばれたか切るわね」
「あっ、冷蔵庫の中身が切れてるから買ってきてね。それじゃあ、ゆっくり楽しんできて」
お母さんは本当に気まぐれな人なんだから。友達も苦労してそう。
「美香、お母さんはなんだって?」
「高校時代の友達とランチしてるからいらないって」
「了解。じゃあ、3人前だね」
達也は、人数分ご飯をよそい、ミックスベジタブルと一緒にフライパンへと入れ、コンロに火を点けた。さて、私もオムレツを作らなきゃ。
冷蔵庫から卵を取り出す。ボウルに手際よく、割った生卵を入れていく。菜箸で、黄身と卵白を混ぜていると、お姉ちゃんが帰ってきた。
「ただいまぁ。あれ?達也君来てたんだ。いらっしゃい」
お姉ちゃんは、いい匂いに誘われたのか、直接キッチンにやってきた。
「美優姉ちゃん、お邪魔してます」
「お姉ちゃんおかえり。今日は達也と一緒にお昼ご飯だよ。お母さんは、高校時代の友達とランチだって」
お姉ちゃんはふーんと、聞き流すと、近くに寄ってきて耳元で囁いてきた。
「で、美香は達也君と新婚劇を楽しんでおられるってわけですか?おめでたですなぁ」
その瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
「ちっ違うから!うちでご飯を食べさせてあげる代わりに、お昼ご飯を手伝ってもらってるだけだから!」
「そうですかそうですか。お二人さんは昔から仲良くて微笑まですな」
「だから!違うって!それよりお姉ちゃん。制服汚しちゃう前に早く着替えてきて!」
「美香は将来良いお母さんになれるね。それじゃあ、ごゆっくりー」
お姉ちゃんの背中を押しながら、部屋に行くよう促した。お姉ちゃんが自室に行くのを、腰に手を当てながら見送っていると、達也がクスクスと笑っていた。
「達也なに笑ってるの!」
「いやーごめんごめん。姉妹で仲が良くて、羨ましいなぁって」
そっか、達也は一人っ子だからこういうのを経験したこと無いんだ。
「だったらさ、達也もお姉ちゃんに、もっと甘えればいいじゃない」
「へー。達也もって、美香は美優姉ちゃんに甘えてるんだねぇ」
あっこいつ!人の揚げ足を取りやがって。
「そ、そういう意味じゃないから!ほら、口より手を動かす!」
まったく、達也はすぐ調子に乗る。
さてと、気を取り直して、こっちもオムレツを作らないと。フライパンにバターを敷いて、1人分の溶き卵を流す。流し込んだら、フワフワになるように菜箸で空気を取り込むようにかき混ぜる。溶き卵が固まる前にかき混ぜるのをやめ、オムレツの形に丸める。最後に、達也が作ってくれたチキンライスに乗せ、オムレツの真ん中に切り込みを入れて開いたら完成。
「お姉ちゃーん。お昼ごはんできたよー」
3人分のオムライスと箸を、ダイニングテーブルに置く。
「おっ、今日のお昼ご飯はオムライスですか」
「そう、オムライス。オムレツ部分は私で、チキンライスは達也が作ったんだよ」
「へー凄いじゃん。じゃあ、早速冷めないうちにいただくことにしますか」
お姉ちゃんも椅子についたところで、お昼ご飯にする。
「いただきます!」
オムレツも思ったよりフワフワに仕上がったし、達也が作ったチキンライスも少し焦げていたが、そのお焦げが良いアクセントになって美味しくなってると思う。達也もお姉ちゃんも、満足そうに食べてる。
「それで美香、高校はどう?慣れそう?」
「うーん……どうだろう。学校自体は慣れるとは思うけど、通学がなぁ。夏の観光シーズンが不安」
「美香は人混み苦手だもんねぇ。だったら、やっぱり朝早く家を出るしか無いね」
「そういえば、美優姉ちゃん。生徒会長になったんだね」
「そうそう!驚いたでしょ!高校生活最後の3年生だから、張り切って生徒会長になちゃった!」
お姉ちゃんのその言葉で、今日、田中先生に言われたことを思い出した。学級委員の件。今までなにかに推薦されたことがなかった私が、初めて学級委員に推薦された。が、私は余命を理由に逃げてしまっていた。部活も余命を理由に逃げようとしている。最近、逃げてばっかりな気がする。これじゃあ、前向きに生きようと決めたのに全然できてないじゃないか。
なんだかそんな自分が情けなくなって、1人黙々とオムライスを食べ終え、そそくさと自室へ戻る。
達也もお昼ご飯を食べ終えたらしく、部屋に入ってきた。気を使っているのか、お昼ご飯の事は聞いてこなかった。何かと暇だったので、明後日の学力テストに備え、2人で勉強をすることにした。明後日なんだから別に明日でもいいじゃんと、言ったけれど、一夜漬けはいけないと怒られてしまった。達也のお母さんは学校の先生をしているから、そういうことには厳しいのだ。だから渋々勉強することにした。
学力テストの範囲としては、国語と英語と数学の3教科。文系の2教科はそこそこ出来るが、数学だけは中学から苦手で、卒業までに克服することができなかった。対して達也は、平均的に全ての教科が得意で羨ましい。
入学説明会の時に渡された課題を、達也に教えられながら復習する。が、なんだか教えられっぱなしもつまらない。そもそも勉強自体が苦手なのに、学力テストなんてやる気が起きない。しかし、ボケ―っとしてたりすると達也に注意されてイライラするから、仕方なく勉強する。
勉強しているうちに日はかなり傾いており、日の入りが近づいていた。達也の提案で、勉強の息抜きとして外を歩くことにした。向かったのは稲村ヶ崎公園。この調子だと日の入りには公園に間に合いそうだ。思えば、達也と稲村ヶ崎公園に行くのは久しぶりだ。小学生の頃はよく行っていたが、中学生になると部活動が始まり、なかなか公園に行く機会が無くなった。
「2人で公園なんて、小学生の頃以来だな」
「そうだね。最近は忙しくて、なかなか機会が無かったしね」
地平線に消えていく夕日を見る。しばらく沈黙の時間が流れた。私はこういう静かな沈黙が流れる時間が苦手だったりする。
「ねぇ」
「あのさ」
達也と声が被ってしまった。案の定、少々気まずい雰囲気が流れる。
「……どうぞ」
「いや、達也からどうぞ」
「……美香からで……どうぞ」
しょうがない。こっちから話すか。
「じゃあ、私から。瑞希と達也って部活ってどうするの?」
そう聞くと達也は、なんだそんな事かと、言いたそうな顔をした。
「瑞希は中学と同じで、吹奏楽部に入部したいって言ってたな。俺は……どうしようか迷ってる」
瑞希のお母さんは元々有名なトランペット奏者で、瑞希もその影響を受けて吹奏楽を始めた。楽器はオーボエを担当している。
「いったい、どの部活とどの部活で悩んでるの?」
「違う違う。部活に入ろうかどうしようかってこと」
あれ?意味がよく分からないのだけど……。
「達也が部活やらないなんて珍しいね。何かあったの?」
中学生の頃は、部活熱心な人だったのに。
「ほら、俺の家ってシングルマザーで母さんが働きに出てるじゃん?それも教師やってるから、基本的には平日も休日も帰りが遅くなちゃってね。だから、少しでも大丈夫なところを見せて、気持ちだけでも楽させてあげようと思ったら、アルバイトを始めてみても良いかなって思ってさ」
なるほど。達也なりの親孝行なのかもしれない。
「美香は部活どうするの?」
「入ろうか迷ってるけど、達也が入部しないなら私もやめておこうかな?」
「なんだよそれ」
「なんとなくね」
こういう何気ない日常の会話ができるのが、幸せだと病気になって近頃気づいた。
「で、達也は私に何を言いたかったの?」
つい、部活動の話で盛り上がって忘れかけていた。ふと、海を見ると、もう水平線に太陽が沈まりかけていた。
「なぁ、何かあったのか?」
無意識に背が伸びた。まさか、病気の事を気づかれたのかと思ってしまった。
「さっき、お昼ご飯の時にあまり会話に入ってこなかったし、さっさと部屋に戻るしさ。もしかしたら学校で何かあったのかなって」
良かった。とりあえず気づかれてなかったみたいだ。
「ちょっとね。担任の先生から学級委員に推薦されたんだ」
「へー凄いじゃん。引き受けたの?」
美香は大きく首を振った。
「ううん、断ったよ。もともとやる気もなかったし」
本当は、病気でできないとか、お姉ちゃんと比べられてしまって少し傷ついてしまったとか言わない。言えない。達也は大雑把な性格に見えて、実際は結構心配性だからだ。
日も沈まり終わったようだ。周りがゆっくり暗くなってくる。
「達也、帰ろっか」
今日も達也に症状を打ち明けられなかった。いったい、いつ打ち明けられるのだろうか。こっそり達也の横顔を見ると、幸せそうな満面の笑み。
はぁ……。
この顔を見るとなかなか言えないなぁ。
そんな事も知らずに意気揚々と歩く達也の背中に、思いっきり平手打ちを食らわしてやった。
「痛っ!何するんだよ!」
「そのヘラヘラした顔が憎たらしいから、八つ当たり」
達也から離れるように早々と歩く。
「おい待てって!」
背中を押さえながらついてくる達也を見ると、可笑しくって病気の事も忘れて気が楽になる。
「ありがとね、達也」
恥ずかしいから小声で本音を言ってみる。
「えっ?何?なんか言った?」
小声だし背中を向けてるので、達也には案の定聞こえなかったらしい。良かった。
「なんでもないよーだ!」
今度は聞こえるように大声で言ってやった。死ぬまでに、達也にも感謝の気持を伝えとこ。
海からくる潮風に背中を押されているような気がした。モヤモヤとした気持ちも薄れていく。あと1年。なんだか思ったより楽しく過ごせそうな気がしてきた。
入学してから2日目の目覚めは良くなかった。達也が帰ってから、少し貧血気味になったけど、まさか翌日まで続くとは思っていなかった。
熱も微熱程度だから、一応、鎮痛剤で症状を抑えてから学校に行こう。
「美香、体調悪いの?今日は学校休んだほうが良いんじゃない?顔も赤いし、熱あるんじゃない?」
と、お母さんは言うけれど、入学してから2日目。そう簡単に休めれるはずがない。入学して早々休んでしまうと、周りの人に目をつけられてしまうし、達也や瑞希に感づかれるかもしれない。
今日も達也が迎えに来て、一緒に稲村ヶ崎駅に向かう。途中でフラフラしてしまい、達也に心配されてしまったが、なんとか誤魔化す。
稲村ヶ崎駅で瑞希と合流し、学校に向かう。痛みは薬のおかげで和らいではいるけど、熱は徐々に上がっている。江ノ島駅に着いた時点で、誤魔化せきれないぐらいに悪化して、保健室まで達也におんぶしてもらった。背中は大きくて暖かかった。小学生は同じぐらいだったのに、高校生にまでなるといつの間にか私より大きくなっていた。周りの目が少し気になったが、達也は人目も気にせず保健室に直行する。少しぐらい照れても良いんじゃないかと思ったけれど、言う気力も無いのでやめておいた。
保健室に着くと、女性の保健の先生が、熱も39度3分あるし、早退したほうが良いと判断し、家に連絡してくれた。我が家は車を持っていないため教頭先生が送るそうだけど、あいにく今は職員会議とその後の朝礼の為、家に帰るのは少し遅くなるそう。なので、時間が来るまで保健室のベッドで休ましてもらうことにした。
「ほら、美香さんが心配なのは分かるけど、始業時間が近づいてるから2人は教室に戻ってねぇ」
保健の先生が達也と瑞希を、教室に戻るよう促す。
「美香ちゃん、お大事にね」
「終わったら見舞いに行くから」
2人が保健室を出てから、やけに静かになった。締め切られたカーテンに、白い天井。いつもと違う風景に一人ぼっちになるのは、やはり少し寂しいものだった。ゆっくり目を閉じると、いつの間にか眠ってしまった。
「美香さん。起きれますか?」
声に気づいて起きると、保健の先生と入学式の時に見た教頭先生が、ベッドの側に居た。
「教頭先生が来たので、お家に帰りましょう」
教頭先生は鞄を、保健の先生は私をおんぶして、駐車場に向かった。助手席に乗り込み、車を家に向けて走らせる。車は国道134号線を東に走っていく。途中、観光客の渋滞などにも巻き揉まれたが、15分ほどで家に到着した。家に着く頃には、少し体調も楽になった気がする。
「どうも、美香がお世話になりました」
「いえいえ、お大事になさってください。それでは私はこれで」
やっぱり教頭先生は忙しいのか、すぐに学校に引き返していった。
「ほら、やっぱり休んでおいたほうが良かったじゃない。ほら、早く着替えて安静にしてなきゃ」
フラフラになりながらも、なんとか階段を上がり、自分の部屋へとたどり着いた。そのままベッドで横になりたかったけれど、まだ制服を着たのはたった2回。グシャグシャにはしたくなかったので、渋々パジャマに着替えて寝る。
いつもはなかなか寝付けないのに、体調が悪い時は不思議とすぐに寝付けてしまう。しかも、そんな時に限って見る夢は、なんで違和感あふれる夢なのだろうか。
窓からは橙色に染まった空が見える。次に目を覚ましたのは、夕方だった。どうやら昼ごはんも食べずに寝ていたらしい。今朝より体調もかなり良い。熱も38度4分とだいぶ下がった。この調子だと明日には学校には登校できそうだ。
ふと、部屋の折りたたみ式のテーブルの上を見ると、コンビニ袋が置いてあった。コンビニ袋を覗いてみると、メモが貼られたプリンが入っていた。
『しっかりと休んで元気になれよ 達也』
何か消した跡もあったから、目を凝らして読んでみると『プリン代は今度請求するから』と、書いてあった。最初は冗談のつもりで書いたのだろうけど、気遣いで消したんだろう。
「何やってんだか」
プリンの蓋を開けて、スプーンですくって一口。達也から貰ったプリンは、カラメルで少し苦く、でもほんのり甘い感じがした。
結局、3日目の学力テストの日も学校には行けなかった。熱も平熱で万全な体調なのに、お母さんから今日1日は絶対安静だと言われた。結果としては、学力テストは全教科赤点。いや、赤点どころか点数すら無い。と、言うわけで達也と勉強した内容も無駄になってしまったということになってしまった。
毛布にくるまってると、ふと寝てしまった。次に起きたら、時刻は10時を回っていた。とりあえず、暇なのでお風呂に入ることにした。昨日はお風呂に入ってないので、シャワーでしっかりと汗を流す。こんな時間からシャワーを浴びれるなんて、ちょっと贅沢な気がした。今頃みんなは学力テストを受けているんだろうなぁ。そう思うと少し複雑な気持ちにもなってしまうが……。
お風呂を出て、まだ濡れている髪の毛をバスタオルで拭きながら、部屋に戻る。ドライヤーをコンセントに刺して電源を入れ、髪を乾かす。ボブだった髪も、中学に入ってから伸ばしているせいか、腰ぐらいまで伸びていた。髪質は良い方らしく、瑞希からも「髪質良くて良いなぁ」って、よく言われる。
ある程度乾かした後に、新品の櫛があったことに気がついた。中学3年生の時、入院中で修学旅行の京都に行けなかった私に、達也が買ってきてくれた物だった。勿論、達也には入院ではなく、発熱と伝えたが。
赤色の可愛らしい花柄の入れ物から、櫛を取り出してみる。つげの木で作られた扇形のつげ櫛。ほのかに木材のいい匂いがした。決して値段は安く無いであろうつげ櫛。ざっと値段を調べると5千円を軽く超えるものが多かった。貰った頃は、高すぎて使えなかったが、ずっと使わないのも勿体ないから、高校に入ってから使うことにした。早速、髪を梳かしてみる。髪に沿ってサラサラっと流す。うん。やっぱり良い櫛は安物と大違いだ。
「ただいま」
「お邪魔します」
髪を梳いていると、下から声が聞こえた。1人はお姉ちゃん。もう1人は、声からして達也だろう。2人の足音が階段を上がって近づいてくる。
「美香?体調の方はどう?」
お姉ちゃんがドアを開けながら聞いてきた。櫛の事はお姉ちゃんは知らないから、つい隠してしまった。達也から貰ったと気づくと、またからかわれてしまうかもしれない。
「うん、もう大丈夫。明日からはちゃんと学校行けるよ」
「それは良かった。今日も達也君が見舞いに来てくれたよ」
後ろからコンビニ袋を掲げた達也が、ちょこんと顔を見せる。
「昨日はずっと寝てたから話せなかったでしょ?ちゃんと昨日のお礼言わなきゃね。じゃあ、お姉ちゃんは生徒会の仕事があるから、2人でごゆっくりー」
ニコニコしたまま隣のお姉ちゃんの部屋に入っていく。
「生徒会長ってやっぱり大変なんだな」
お姉ちゃんの後ろ姿を見ながら、達也がボソリと呟いた。確かに、入学式の日も帰りが少し遅かったし、やっぱり大変なんだなと実感する。
「それより、体調の方は本当に大丈夫なのか?昨日みたいに無理してないか?」
「ううん、本当に大丈夫。昨日はいきなり倒れ込んだりして心配かけてごめんね。ほら、座って」
クッションを手渡し、座ってもらうように促す。
「あれ?それって修学旅行の時、お土産に渡した櫛だよね」
忘れてたと思ったのに、意外にも達也は覚えていた。そりゃこんな高い買い物をしたら、達也だって覚えているよね。
「そう、行けないからって達也がお土産にくれたやつ。高くて使うのが勿体ない気がして……でも、使わないのも勿体ないって思って高校に入ってからは使うことにしたの」
このまま使わなかったら、買ってきてくれた達也にも申し訳ないし。なんて思っても、恥ずかしいから本人の目の前では絶対に言えないけど。
「そっか、良かった。てっきり使ってくれないんじゃないかって思ってたから」
「これから高校生活でお世話になりますよ」
「そうそう、つげ櫛ってね、結構長持ちするんだよ。しっかりと手入れをしてあげると、何十年も使えるものになるんだって」
そうなんだ。つげ櫛って結構長い期間使えるんだ。
「そうだ、ついでに梳いてあげるよ。後ろの方とか梳きにくいだろ?」
確かに、さっきからなかなか手が届かなかったけど、男子に梳いてもらうのもなぁ。でも、まぁいっか。ここで恥じいてると、無駄に意識してると思われたくないし。
「良いけど……梳くなら優しくしてよね」
美香が座っているベッドの隣に腰掛けた達也に、つげ櫛を手渡した。達也は櫛を受け取り、梳き始めた。
なんだか、他人に髪を梳かれるのは、少しこそばゆい感じがする。それ以上に、達也が思った以上に優しく梳いてくれて驚く。少々大雑把な性格の達也だが、結構優しいところもあるのだと気がついた。決して無理した梳き方はせず、温かい手で梳いてくれた。そんな達也に、美香は体を預けた。
思えば、小学生の時も達也に梳いてもらった気がする。
ある程度梳かした後、こんなもんかな?と、達也が櫛を返してきた。
「うん、ありがとう。助かったよ。後ろの方とかなかなか手が届かないから、少し困ってたの」
「お役に立てて良かったよ。そうだ、プリン買ってきたんだけど食べる?」
達也は、折りたたみ机に置かれていたコンビニ袋を指差した。
「昨日も買ってきたよね?そんなにプリン好きなの?」
2日連続プリンを買ってくるなんて、よほど好きなんだろう。
「好きだよ。あれ?もしかしてプリン嫌いだった?」
「そんな事無いけど、2日連続でプリン買ってくるなんて好きなんだなぁって」
「まぁ、俺は病気の時にやけにプリン食べたかったからね」
「あっ、分かる。なんか食べたくなるよね。あんまり甘ったるくないし、欲しくなるんだよねぇ」
そんな事を言いながら、2人でプリンを食べる。熱が引いたせいか、昨日よりもっとプリンの甘さを感じることができた。
その後、午前授業でまだお昼ご飯を食べていなかった達也と一緒にまた昼ごはんを食べ、談笑していたらあっという間に時間が過ぎた。
お昼の2時を回る頃に、達也が鞄を持って立ち上がった。
「そろそろ帰るわ」
「あれ?今日は早いね。何か予定とかあるの?」
いつも夕方まで居座る達也が、こんなにも早く帰るなんて珍しかった。
「この後、3時ぐらいからバイトの面接があるんだ」
そういえば、入学式の後にもバイトをしようか部活をしようか迷っていたと言っていたっけ。結局、バイトをして自分なりの親孝行をすることにしたのも達也らしいと思った。
「そう……じゃあ、玄関まで送るよ」
自分も元気になったのに、また1人になるのは少し寂しい感じがした。でも、昨日と今日もお見舞いに来てくれたから、せめてお見送りだけでもしたかった。
「じゃあ、今日はしっかりと寝て明日に備えろよ」
「うん、お見舞いとプリンありがとね」
「じゃあ、また明日」
「うん、明日」
そう言い、達也は隣の家に入っていった。
家の玄関を閉めて、部屋に戻ろうと階段を上がると、お姉ちゃんが部屋からピョコッと顔を出していた。
「なっ……何?お姉ちゃん……」
「なぁんにも無いよ」
ニヤニヤしていて気持ち悪いなぁ。
「なんにも無いならニヤニヤしないで」
「まぁまぁ、何かあったり進展したら、ちゃんとお姉ちゃんに相談するんだよ?」
何かって何のことって聞き返したくなったけれど、面倒くさいことになるのは確実なので、無視して部屋に入った。
お姉ちゃんのこの行為はいつまで続くのか……。
美香はベッドに寝転がり、大きくため息をついた。
今日からいよいよ待ちに待った高校生。進学先は神奈川県内にある、県立江ノ島高等学校。観光地で有名な江ノ島や水族館の近くに位置する高校で、学校から海までもそう遠くない。駅も江ノ電に湘南モノレール、小田急江ノ島線が乗入れており、交通の便も充実している。放課後に海に寄ることもできるし、オシャレなカフェに寄ることもできる。学校の評判もなかなか良く、楽しい学校生活を送ることができると思っていた。が、私はこの高校を卒業できる保証はない。そもそも卒業できない。
――余命1年半。
今から約半年前の中学3年生の10月。医者から告げられたのは、死へのカウントダウンだった。急に高熱を出し、行きつけの病院で診てもらったところ、ただの風邪だと診断された。が、なかなか熱は下がってくれず、病状は悪化する一方だった。気になって詳しい検査を市民病院で受けた。その時に告げられてしまった余命宣告。最初はどうも現実味が無くて、夢の中だと思ってしまった。余命宣告なんてドラマとかの話だと思っていた。まさか自分に来るなんて思ってもいなかった。が、それが私に突きつけられた現実だった。はじめの頃は、なかなか受け入れられずに閉じこもりの生活を送っていたが、閉じこもっても余命は伸びることは無い。なので、気持ちを入れ替えて残りの人生を送ることにした。
今は薬で症状を抑えているが、病状がどんどん悪化しているのは定期検診で分かっている。現状維持で、治ることは無い私の病気。どうせ死ぬなら、悔いのないように死のう。最期の1年間、誰にも負けないくらい楽しく過ごそう。そう強く思った。
「美香、達也君がお迎えに来たよ」
朝ご飯を食べ終え、部屋で制服に着替えていると、下からお姉ちゃんが呼んでいる声が聞こえた。
達也は、家が隣ということもあり、小学生の頃から仲が良い。シングルマザーで家にお母さんが居ないことが多い達也は、我が家に遊びに来ることも多かった。一人っ子で、私のお姉ちゃんの事を「美優姉ちゃん」と呼ぶぐらい我が家に馴染んでしまっている。
いってきます。と、玄関を出ると、達也が小説を読みながら待っていた。
「おはよう美香。入学早々お寝坊さんか?」
鞄に本をしまいながら、嫌味も混じえながら挨拶をしてくる。
本のタイトルは『最後の夏』だった。最近発刊された、男子高校生の日常を書いた青春物語だ。
「おはよう……言っておくけど寝坊じゃないから。達也が来るのが早いだけだから」
「ふーん。まあ良いわ。早く駅に向かわなきゃ。瑞希が待ってる」
そう言うと達也は、さっさと前を歩いていってしまった。私も慌てて追いかける。
瑞希とは中学生の時に知り合った。つい人見知りをしてしまう性格の私は、その性格ゆえに、友達がなかなか作れないまま過ごしていた。が、瑞希はそんな私に辛抱強く接してくれた。そんな瑞希に、私はいつの間にか心を開いており、今では瑞希とは大の仲良しになった。
昨日の雨の水溜りが残っている道を、2人並んで歩く。目指すは最寄りの江ノ電の稲村ヶ崎駅。朝早いこともあるが、すれ違う人は少ない。私と達也の家は海岸の近くにあるが、駅は海から少し離れているからだろうか。が、坂道を10分も歩けば、晴天時に海と富士山が同時に望める稲村ヶ崎公園に行くことができる。大人気の江ノ島からは少し離れているためか、観光客は江ノ島エリアよりかは少なく、そこそこ空いている。そのため、知る人ぞ知る隠れ家的な観光スポットみたいになっている。
7分ほど歩いて稲村ヶ崎駅に着くと、瑞希は手鏡で前髪を木にしながら待っていた。
「あっおはよう!美香ちゃん、達也君」
こちらに気づいて手を振りながら近づいてくる。私も手を振って答える。
「おはよう、瑞希。高校も一緒の学校に行けて嬉しいよ」
「うちもー。それより……今日も、達也君と一緒に来たんだね」
瑞希はニヤニヤしながら私の顔を見てきた。瑞希は何かを勘違いしているな。
「一緒に来たというか、達也が勝手に迎えに来ただけ。余計なこと考えないの。そんな事より、ホームに上がらないと電車来ちゃうよ?」
瑞希は少し頬を膨らませて、ふてくされたような顔をした。瑞希はいったい何を期待しているのだろうか。
3人でホームに上がると、タイミングよく電車が入っていた。2両同士を連結した、4両編成の藤沢行き。緑色とクリーム色の車両が朝日に照らされて輝いている。数年前までは、2両編成の単独運転だったが、江ノ島エリアの観光需要が高まり、4両編成で増結運転された。
乗車すると、朝早い時間帯で観光客が少ないからか、ゆったりと座ることができた。座るのは進行方向左側の座席。稲村ヶ崎駅を発車したら、車窓に注目する。ここから腰越駅までは、列車から海が望めるからだ。また、七里ヶ浜駅と腰越駅の間にある鎌倉高校前駅は、駅から海が一望できる。そのため、ドラマやアニメ等でも登場することも多く、駅自体が観光名所みたいになっている。江ノ島電鉄の駅の中でも、かなり人気な駅となっている。近くにある踏切もマニアの中では、聖地として有名スポットとなっている。
稲村ヶ崎駅を出て約15分。江ノ島駅に着いた。ここから5分歩くと、江ノ島高校に通うことができる。校門から昇降口まで、綺麗な桜が咲いており、より一層入学の雰囲気が出ている。
「ほら、早くクラスを確認しにいこうよ」
クラスの名簿表に向かって走っていった、瑞希と達也を慌てて追いかける。今日から私の最期の1年が始まろうとしていた。
「ただ今より、第43回、江ノ島高等学校、入学式を始めます」
進行役の教頭先生の言葉で、美香の高校生活、そして最期の1年が始まった。
余命宣告された時は、正直、高校に進学しようとは思わなかった。高校に行っても進学も就職もできないから成績は関係ないし、残りの人生は自分の好きなように自由に生きようと思ったから。しかし、よくよく考えたら、特にやりたいことは無かった。それならばと、達也や瑞希の行く高校に一緒に進学して、最期の思い出を作ったほうが有意義に過ごせるのではないかと判断して、同じ江ノ島高校に進学した。
しかし、このままずっと高校に一緒に行けるわけではない。私の残りの人生は長くてあと1年。その事をまだ達也と瑞希に伝えてなかった。余命が宣告されていることは、然るべき時に話せば良いと思うけれど、自分の症状ぐらいは伝えていたほうが良いと思う。問題はいつ伝えるべきか……
いつ伝えようか考えていると、長ったらしい校長講話はあっという間に終わっていた。教頭先生が、次々とプログラムを進行する。
「続きまして、生徒会による新入生歓迎の言葉です」
校長先生と入れ替わりで登場したのは、美香の見慣れた人物だった。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。そして、江ノ島高校へようこそ!私は生徒会長を勤めています、佐々木美優です。我々生徒会は――」
ハッとして我に返った。まさかお姉ちゃんが会長になっているとは知らなかった。よく家で学校の話をするのに、会長になっているとは知らなかった。きっとお姉ちゃんなりのサプライズのつもりだったのだろう。
生徒会の新入生歓迎の言葉、指導部での高校生活での諸注意、クラス担任紹介など、順調に入学式のプログラムが進んだ。
約1時間で、無事に入学式が終わった。ホームルームを行うため、美香達は教室へと向かう。私と瑞希は運良く同じ3組になったが、達也は残念ながら隣の4組になってしまった。
教室に入り、席に座ると、長身で眼鏡をかけた細身の先生が静かに入ってきた。
「みなさん、ご入学おめでとうございます。私は、3組の担任をする事になりました、田中健仁です。担当科目は科学です。1年間よろしくおねがいします」
と、簡単に自己紹介を終えた。
「さて、入学して気分も高まっている時に申し訳ないのですが、明後日の学力テストの事なんですが――」
入学早々学力テストかぁ。学力は気にしていないとはいえ、一応しっかりと勉強はしておいたほうが良いかな?江ノ島高校は進学校だから、悪い点数では補習になってしまうかもしれないし。そうなると帰りも遅くなり、お母さんを心配させてしまうだあろうし、何よりとても面倒くさい。
そっと瑞希の方を見ると、ぼんやり窓の外を見ているようだった。先生の話など気にせずに、まるで一人だけの世界に居るようだった。窓の外からは、建物の間だけど海が薄っすらと見える。どこを見ているのだろうか。何を考えているのだろうか。それにしても、授業中なのに外を見ているなんて、ほのぼのとしていて、瑞希らしいと思った。
私も窓の外を見ながら思いにふけっていると、前の席からプリントが回ってきた。慌てて受け取る。A4用紙のプリントには、一番上に『部活動について』と書いてある。
「我が校の1年生の部活動は、強制とはなっていません。ですが、極力参加していただいたほうが、積極性があるということで、大学の推薦等が書きやすくはなります。運動部、文化部ともに種類が多く充実しており、運動部は――」
部活動もどうしようかな。なにかと忙しいだろうし、自分の身体がいつまで追いつくかも問題だ。途中で倒れてしまったら、周りの部員たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、部活で何か達成できるかもしれないし、その分思い出も増えていくことだろう。まあ、達也と瑞希が、部活動をどうするかで決めよう。
その後、教科書配布、各係の説明などをされて、ホームルームの時間は終わった。今から帰ると考えると、お昼前には家に着きそうだ。
早速、下校しようとした時に、田中先生に呼び止められた。達也と瑞希と一緒に帰る予定だったから、瑞希に先に昇降口で待ってもらうように伝えた。
「佐々木さん。学級委員をやってくれませんか?」
田中先生は、眼鏡を持ち上げ、微笑みながら言った。正直、思いもしない言葉で嬉しい気持ちもあった。が……。
「私などに期待していただいてありがとうございます。ですが、今回は見送らせてください。お気持ちにお答えできずにすみません」
定期検診で時々学校を休まなければいけないし、お母さんを心配させないためにも、早く帰らなければいけない。ここで本当の事を言えば納得してくれるだろうが、病気の事を堂々と言えるほどそこまで私も強くない。
「いえいえ、こちらこそ押し付けるような真似をしてしまってすみません。そうですか……生徒会長の妹さんならやってくださると思ったのですがね。分かりました。お時間をお取りしてしまいすみません。気をつけて下校してくださいね」
その表情も口調もとても優しかったが、自分の中には言葉にしにくいモヤモヤとするものが残った。自分の胸の中で、何かがグルグルと回っている感じがして……正直気持ち悪い。
その気持ち悪さから逃げ出すように教室を出て、急いで昇降口に向かうと、達也と瑞希が談笑しながらちゃんと待っていてくれた。
「ねぇ、田中先生と何を話していたの?あっ、もしかして惚れられた!?」
瑞希はこういう話が大好きなのか、また期待しているかのような目で聞いてきた。
「瑞希が思っていることはなんにも言われてないからね」
「ほんとにぃ?」
「ほんとだって。そもそも、田中先生は奥さん居るし」
ホームルーム中もさっき話していた時も、陽の光に反射して、左手の薬指のリングが輝かしく光っていた。
「そうなんだぁ。つまらないのー」
瑞希は不満そうな顔で口を尖らせた。まったく、この子はいったいどこでそんな事を知ったんだろう。そもそも先生と学生なんてありえない。それも高校生活初日になんて。
江ノ島駅から電車に乗り、稲村ヶ崎駅に戻ってきた。行きと違い、帰りの電車は、車窓を見る余裕なんて無かった。さっき、田中先生に言われた言葉が頭を回っていた。妹さんなら……と。
「じゃあね、美香ちゃん。達也君。また明日ー!」
瑞希は手を振りながら脇道へと入っていく。私と達也は海岸に近いところに住んでいるが、瑞希は駅の近くに住んでいるため、ここで分かれることになる。私と達也は瑞希を見送ると、家へと歩く。
「ねぇ、いきなりで申し訳ないけど、今日も家に寄っていい?」
駅から5分ほど歩き、家の近くになって、いきなり達也が聞いてくる。
「はぁ?高校に進学してからも家に来るつもり?」
いったい現役女子高生の家で、何をしようというのだ。
「なんだ?嫌か?嫌なら別に良いけど」
別に嫌ってことじゃないけどさ……と、美香は玄関の鍵を空ける。玄関に入ると、達也のお腹が鳴った。なるほど、そういう事か。でも、まさかご飯を食べに来たわけじゃないよね?ないない。それはあり得ないって。
「ごめんごめん。実はお腹空いているんだよね。今日、朝ご飯食べずに来たから」
何かを企んでいるいたずらっ子みたいに、達也は笑う。あれ?
「1回家に帰ってお昼ご飯でも食べてきたら?」
「それがさ、昨日で冷蔵庫の中身を切らしちゃてさ……」
これはまさかだけど……。
「つまり、我が家でお昼ご飯を食べさせてほしいから家に上がらせてほしいと?」
「よろしくお願いします。美香さん」
やっぱり、思った通りの返答。でも、そのまま返してしまったら、夕ご飯まで空腹で耐え忍ぶ事になる。それを見逃すほど私は鬼ではない。全くしょうがない人だ。
「はぁ……分かったよ。じゃあ、私の部屋に荷物置いて、早速準備しよ。そのかわり、ちゃんと手伝ってよね」
「お任せください!」
荷物を置き、早速キッチンに移動する。さて、何を作ろうか。冷蔵庫を覗いてみると、私の家も対して食材が無いではないか。あとは、冷凍物か……。冷凍庫にはミックスベジタブルがあった。卵の在庫も充分あるし、鶏のもも肉もある。ご飯も結構残っている。こうなったら作るものはアレしかない。
「よし、今日のお昼ご飯はオムライスにしよっか」
「おっいいね。最近オムライス食べてなかったから楽しみ!」
そうと決まれば、早速調理に取り掛かる。達也にオムレツ部分を任せると大変なことになりそうなので、達也にはチキンライスをお願いし、私がオムレツを作ることにしよう。
「じゃあ、達也はチキンライスを作ってね。私はオムレツの部分を作るから」
「了解。ご飯は何人分?」
「そうだねぇ。お姉ちゃんはもう少ししたら帰ってくると思うけど……お母さんはどうだろう?ちょと電話してみるね」
早速スマートフォンを取り出して電話してみる。
「もしもし、お母さん?今どこに居るの?」
「今ねえ、お母さんの高校時代の友達とね、ランチに来てるの」
「えっ?じゃあ、お昼ご飯はいらないってこと?」
「そういう事になるわね。あ、呼ばれたか切るわね」
「あっ、冷蔵庫の中身が切れてるから買ってきてね。それじゃあ、ゆっくり楽しんできて」
お母さんは本当に気まぐれな人なんだから。友達も苦労してそう。
「美香、お母さんはなんだって?」
「高校時代の友達とランチしてるからいらないって」
「了解。じゃあ、3人前だね」
達也は、人数分ご飯をよそい、ミックスベジタブルと一緒にフライパンへと入れ、コンロに火を点けた。さて、私もオムレツを作らなきゃ。
冷蔵庫から卵を取り出す。ボウルに手際よく、割った生卵を入れていく。菜箸で、黄身と卵白を混ぜていると、お姉ちゃんが帰ってきた。
「ただいまぁ。あれ?達也君来てたんだ。いらっしゃい」
お姉ちゃんは、いい匂いに誘われたのか、直接キッチンにやってきた。
「美優姉ちゃん、お邪魔してます」
「お姉ちゃんおかえり。今日は達也と一緒にお昼ご飯だよ。お母さんは、高校時代の友達とランチだって」
お姉ちゃんはふーんと、聞き流すと、近くに寄ってきて耳元で囁いてきた。
「で、美香は達也君と新婚劇を楽しんでおられるってわけですか?おめでたですなぁ」
その瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
「ちっ違うから!うちでご飯を食べさせてあげる代わりに、お昼ご飯を手伝ってもらってるだけだから!」
「そうですかそうですか。お二人さんは昔から仲良くて微笑まですな」
「だから!違うって!それよりお姉ちゃん。制服汚しちゃう前に早く着替えてきて!」
「美香は将来良いお母さんになれるね。それじゃあ、ごゆっくりー」
お姉ちゃんの背中を押しながら、部屋に行くよう促した。お姉ちゃんが自室に行くのを、腰に手を当てながら見送っていると、達也がクスクスと笑っていた。
「達也なに笑ってるの!」
「いやーごめんごめん。姉妹で仲が良くて、羨ましいなぁって」
そっか、達也は一人っ子だからこういうのを経験したこと無いんだ。
「だったらさ、達也もお姉ちゃんに、もっと甘えればいいじゃない」
「へー。達也もって、美香は美優姉ちゃんに甘えてるんだねぇ」
あっこいつ!人の揚げ足を取りやがって。
「そ、そういう意味じゃないから!ほら、口より手を動かす!」
まったく、達也はすぐ調子に乗る。
さてと、気を取り直して、こっちもオムレツを作らないと。フライパンにバターを敷いて、1人分の溶き卵を流す。流し込んだら、フワフワになるように菜箸で空気を取り込むようにかき混ぜる。溶き卵が固まる前にかき混ぜるのをやめ、オムレツの形に丸める。最後に、達也が作ってくれたチキンライスに乗せ、オムレツの真ん中に切り込みを入れて開いたら完成。
「お姉ちゃーん。お昼ごはんできたよー」
3人分のオムライスと箸を、ダイニングテーブルに置く。
「おっ、今日のお昼ご飯はオムライスですか」
「そう、オムライス。オムレツ部分は私で、チキンライスは達也が作ったんだよ」
「へー凄いじゃん。じゃあ、早速冷めないうちにいただくことにしますか」
お姉ちゃんも椅子についたところで、お昼ご飯にする。
「いただきます!」
オムレツも思ったよりフワフワに仕上がったし、達也が作ったチキンライスも少し焦げていたが、そのお焦げが良いアクセントになって美味しくなってると思う。達也もお姉ちゃんも、満足そうに食べてる。
「それで美香、高校はどう?慣れそう?」
「うーん……どうだろう。学校自体は慣れるとは思うけど、通学がなぁ。夏の観光シーズンが不安」
「美香は人混み苦手だもんねぇ。だったら、やっぱり朝早く家を出るしか無いね」
「そういえば、美優姉ちゃん。生徒会長になったんだね」
「そうそう!驚いたでしょ!高校生活最後の3年生だから、張り切って生徒会長になちゃった!」
お姉ちゃんのその言葉で、今日、田中先生に言われたことを思い出した。学級委員の件。今までなにかに推薦されたことがなかった私が、初めて学級委員に推薦された。が、私は余命を理由に逃げてしまっていた。部活も余命を理由に逃げようとしている。最近、逃げてばっかりな気がする。これじゃあ、前向きに生きようと決めたのに全然できてないじゃないか。
なんだかそんな自分が情けなくなって、1人黙々とオムライスを食べ終え、そそくさと自室へ戻る。
達也もお昼ご飯を食べ終えたらしく、部屋に入ってきた。気を使っているのか、お昼ご飯の事は聞いてこなかった。何かと暇だったので、明後日の学力テストに備え、2人で勉強をすることにした。明後日なんだから別に明日でもいいじゃんと、言ったけれど、一夜漬けはいけないと怒られてしまった。達也のお母さんは学校の先生をしているから、そういうことには厳しいのだ。だから渋々勉強することにした。
学力テストの範囲としては、国語と英語と数学の3教科。文系の2教科はそこそこ出来るが、数学だけは中学から苦手で、卒業までに克服することができなかった。対して達也は、平均的に全ての教科が得意で羨ましい。
入学説明会の時に渡された課題を、達也に教えられながら復習する。が、なんだか教えられっぱなしもつまらない。そもそも勉強自体が苦手なのに、学力テストなんてやる気が起きない。しかし、ボケ―っとしてたりすると達也に注意されてイライラするから、仕方なく勉強する。
勉強しているうちに日はかなり傾いており、日の入りが近づいていた。達也の提案で、勉強の息抜きとして外を歩くことにした。向かったのは稲村ヶ崎公園。この調子だと日の入りには公園に間に合いそうだ。思えば、達也と稲村ヶ崎公園に行くのは久しぶりだ。小学生の頃はよく行っていたが、中学生になると部活動が始まり、なかなか公園に行く機会が無くなった。
「2人で公園なんて、小学生の頃以来だな」
「そうだね。最近は忙しくて、なかなか機会が無かったしね」
地平線に消えていく夕日を見る。しばらく沈黙の時間が流れた。私はこういう静かな沈黙が流れる時間が苦手だったりする。
「ねぇ」
「あのさ」
達也と声が被ってしまった。案の定、少々気まずい雰囲気が流れる。
「……どうぞ」
「いや、達也からどうぞ」
「……美香からで……どうぞ」
しょうがない。こっちから話すか。
「じゃあ、私から。瑞希と達也って部活ってどうするの?」
そう聞くと達也は、なんだそんな事かと、言いたそうな顔をした。
「瑞希は中学と同じで、吹奏楽部に入部したいって言ってたな。俺は……どうしようか迷ってる」
瑞希のお母さんは元々有名なトランペット奏者で、瑞希もその影響を受けて吹奏楽を始めた。楽器はオーボエを担当している。
「いったい、どの部活とどの部活で悩んでるの?」
「違う違う。部活に入ろうかどうしようかってこと」
あれ?意味がよく分からないのだけど……。
「達也が部活やらないなんて珍しいね。何かあったの?」
中学生の頃は、部活熱心な人だったのに。
「ほら、俺の家ってシングルマザーで母さんが働きに出てるじゃん?それも教師やってるから、基本的には平日も休日も帰りが遅くなちゃってね。だから、少しでも大丈夫なところを見せて、気持ちだけでも楽させてあげようと思ったら、アルバイトを始めてみても良いかなって思ってさ」
なるほど。達也なりの親孝行なのかもしれない。
「美香は部活どうするの?」
「入ろうか迷ってるけど、達也が入部しないなら私もやめておこうかな?」
「なんだよそれ」
「なんとなくね」
こういう何気ない日常の会話ができるのが、幸せだと病気になって近頃気づいた。
「で、達也は私に何を言いたかったの?」
つい、部活動の話で盛り上がって忘れかけていた。ふと、海を見ると、もう水平線に太陽が沈まりかけていた。
「なぁ、何かあったのか?」
無意識に背が伸びた。まさか、病気の事を気づかれたのかと思ってしまった。
「さっき、お昼ご飯の時にあまり会話に入ってこなかったし、さっさと部屋に戻るしさ。もしかしたら学校で何かあったのかなって」
良かった。とりあえず気づかれてなかったみたいだ。
「ちょっとね。担任の先生から学級委員に推薦されたんだ」
「へー凄いじゃん。引き受けたの?」
美香は大きく首を振った。
「ううん、断ったよ。もともとやる気もなかったし」
本当は、病気でできないとか、お姉ちゃんと比べられてしまって少し傷ついてしまったとか言わない。言えない。達也は大雑把な性格に見えて、実際は結構心配性だからだ。
日も沈まり終わったようだ。周りがゆっくり暗くなってくる。
「達也、帰ろっか」
今日も達也に症状を打ち明けられなかった。いったい、いつ打ち明けられるのだろうか。こっそり達也の横顔を見ると、幸せそうな満面の笑み。
はぁ……。
この顔を見るとなかなか言えないなぁ。
そんな事も知らずに意気揚々と歩く達也の背中に、思いっきり平手打ちを食らわしてやった。
「痛っ!何するんだよ!」
「そのヘラヘラした顔が憎たらしいから、八つ当たり」
達也から離れるように早々と歩く。
「おい待てって!」
背中を押さえながらついてくる達也を見ると、可笑しくって病気の事も忘れて気が楽になる。
「ありがとね、達也」
恥ずかしいから小声で本音を言ってみる。
「えっ?何?なんか言った?」
小声だし背中を向けてるので、達也には案の定聞こえなかったらしい。良かった。
「なんでもないよーだ!」
今度は聞こえるように大声で言ってやった。死ぬまでに、達也にも感謝の気持を伝えとこ。
海からくる潮風に背中を押されているような気がした。モヤモヤとした気持ちも薄れていく。あと1年。なんだか思ったより楽しく過ごせそうな気がしてきた。
入学してから2日目の目覚めは良くなかった。達也が帰ってから、少し貧血気味になったけど、まさか翌日まで続くとは思っていなかった。
熱も微熱程度だから、一応、鎮痛剤で症状を抑えてから学校に行こう。
「美香、体調悪いの?今日は学校休んだほうが良いんじゃない?顔も赤いし、熱あるんじゃない?」
と、お母さんは言うけれど、入学してから2日目。そう簡単に休めれるはずがない。入学して早々休んでしまうと、周りの人に目をつけられてしまうし、達也や瑞希に感づかれるかもしれない。
今日も達也が迎えに来て、一緒に稲村ヶ崎駅に向かう。途中でフラフラしてしまい、達也に心配されてしまったが、なんとか誤魔化す。
稲村ヶ崎駅で瑞希と合流し、学校に向かう。痛みは薬のおかげで和らいではいるけど、熱は徐々に上がっている。江ノ島駅に着いた時点で、誤魔化せきれないぐらいに悪化して、保健室まで達也におんぶしてもらった。背中は大きくて暖かかった。小学生は同じぐらいだったのに、高校生にまでなるといつの間にか私より大きくなっていた。周りの目が少し気になったが、達也は人目も気にせず保健室に直行する。少しぐらい照れても良いんじゃないかと思ったけれど、言う気力も無いのでやめておいた。
保健室に着くと、女性の保健の先生が、熱も39度3分あるし、早退したほうが良いと判断し、家に連絡してくれた。我が家は車を持っていないため教頭先生が送るそうだけど、あいにく今は職員会議とその後の朝礼の為、家に帰るのは少し遅くなるそう。なので、時間が来るまで保健室のベッドで休ましてもらうことにした。
「ほら、美香さんが心配なのは分かるけど、始業時間が近づいてるから2人は教室に戻ってねぇ」
保健の先生が達也と瑞希を、教室に戻るよう促す。
「美香ちゃん、お大事にね」
「終わったら見舞いに行くから」
2人が保健室を出てから、やけに静かになった。締め切られたカーテンに、白い天井。いつもと違う風景に一人ぼっちになるのは、やはり少し寂しいものだった。ゆっくり目を閉じると、いつの間にか眠ってしまった。
「美香さん。起きれますか?」
声に気づいて起きると、保健の先生と入学式の時に見た教頭先生が、ベッドの側に居た。
「教頭先生が来たので、お家に帰りましょう」
教頭先生は鞄を、保健の先生は私をおんぶして、駐車場に向かった。助手席に乗り込み、車を家に向けて走らせる。車は国道134号線を東に走っていく。途中、観光客の渋滞などにも巻き揉まれたが、15分ほどで家に到着した。家に着く頃には、少し体調も楽になった気がする。
「どうも、美香がお世話になりました」
「いえいえ、お大事になさってください。それでは私はこれで」
やっぱり教頭先生は忙しいのか、すぐに学校に引き返していった。
「ほら、やっぱり休んでおいたほうが良かったじゃない。ほら、早く着替えて安静にしてなきゃ」
フラフラになりながらも、なんとか階段を上がり、自分の部屋へとたどり着いた。そのままベッドで横になりたかったけれど、まだ制服を着たのはたった2回。グシャグシャにはしたくなかったので、渋々パジャマに着替えて寝る。
いつもはなかなか寝付けないのに、体調が悪い時は不思議とすぐに寝付けてしまう。しかも、そんな時に限って見る夢は、なんで違和感あふれる夢なのだろうか。
窓からは橙色に染まった空が見える。次に目を覚ましたのは、夕方だった。どうやら昼ごはんも食べずに寝ていたらしい。今朝より体調もかなり良い。熱も38度4分とだいぶ下がった。この調子だと明日には学校には登校できそうだ。
ふと、部屋の折りたたみ式のテーブルの上を見ると、コンビニ袋が置いてあった。コンビニ袋を覗いてみると、メモが貼られたプリンが入っていた。
『しっかりと休んで元気になれよ 達也』
何か消した跡もあったから、目を凝らして読んでみると『プリン代は今度請求するから』と、書いてあった。最初は冗談のつもりで書いたのだろうけど、気遣いで消したんだろう。
「何やってんだか」
プリンの蓋を開けて、スプーンですくって一口。達也から貰ったプリンは、カラメルで少し苦く、でもほんのり甘い感じがした。
結局、3日目の学力テストの日も学校には行けなかった。熱も平熱で万全な体調なのに、お母さんから今日1日は絶対安静だと言われた。結果としては、学力テストは全教科赤点。いや、赤点どころか点数すら無い。と、言うわけで達也と勉強した内容も無駄になってしまったということになってしまった。
毛布にくるまってると、ふと寝てしまった。次に起きたら、時刻は10時を回っていた。とりあえず、暇なのでお風呂に入ることにした。昨日はお風呂に入ってないので、シャワーでしっかりと汗を流す。こんな時間からシャワーを浴びれるなんて、ちょっと贅沢な気がした。今頃みんなは学力テストを受けているんだろうなぁ。そう思うと少し複雑な気持ちにもなってしまうが……。
お風呂を出て、まだ濡れている髪の毛をバスタオルで拭きながら、部屋に戻る。ドライヤーをコンセントに刺して電源を入れ、髪を乾かす。ボブだった髪も、中学に入ってから伸ばしているせいか、腰ぐらいまで伸びていた。髪質は良い方らしく、瑞希からも「髪質良くて良いなぁ」って、よく言われる。
ある程度乾かした後に、新品の櫛があったことに気がついた。中学3年生の時、入院中で修学旅行の京都に行けなかった私に、達也が買ってきてくれた物だった。勿論、達也には入院ではなく、発熱と伝えたが。
赤色の可愛らしい花柄の入れ物から、櫛を取り出してみる。つげの木で作られた扇形のつげ櫛。ほのかに木材のいい匂いがした。決して値段は安く無いであろうつげ櫛。ざっと値段を調べると5千円を軽く超えるものが多かった。貰った頃は、高すぎて使えなかったが、ずっと使わないのも勿体ないから、高校に入ってから使うことにした。早速、髪を梳かしてみる。髪に沿ってサラサラっと流す。うん。やっぱり良い櫛は安物と大違いだ。
「ただいま」
「お邪魔します」
髪を梳いていると、下から声が聞こえた。1人はお姉ちゃん。もう1人は、声からして達也だろう。2人の足音が階段を上がって近づいてくる。
「美香?体調の方はどう?」
お姉ちゃんがドアを開けながら聞いてきた。櫛の事はお姉ちゃんは知らないから、つい隠してしまった。達也から貰ったと気づくと、またからかわれてしまうかもしれない。
「うん、もう大丈夫。明日からはちゃんと学校行けるよ」
「それは良かった。今日も達也君が見舞いに来てくれたよ」
後ろからコンビニ袋を掲げた達也が、ちょこんと顔を見せる。
「昨日はずっと寝てたから話せなかったでしょ?ちゃんと昨日のお礼言わなきゃね。じゃあ、お姉ちゃんは生徒会の仕事があるから、2人でごゆっくりー」
ニコニコしたまま隣のお姉ちゃんの部屋に入っていく。
「生徒会長ってやっぱり大変なんだな」
お姉ちゃんの後ろ姿を見ながら、達也がボソリと呟いた。確かに、入学式の日も帰りが少し遅かったし、やっぱり大変なんだなと実感する。
「それより、体調の方は本当に大丈夫なのか?昨日みたいに無理してないか?」
「ううん、本当に大丈夫。昨日はいきなり倒れ込んだりして心配かけてごめんね。ほら、座って」
クッションを手渡し、座ってもらうように促す。
「あれ?それって修学旅行の時、お土産に渡した櫛だよね」
忘れてたと思ったのに、意外にも達也は覚えていた。そりゃこんな高い買い物をしたら、達也だって覚えているよね。
「そう、行けないからって達也がお土産にくれたやつ。高くて使うのが勿体ない気がして……でも、使わないのも勿体ないって思って高校に入ってからは使うことにしたの」
このまま使わなかったら、買ってきてくれた達也にも申し訳ないし。なんて思っても、恥ずかしいから本人の目の前では絶対に言えないけど。
「そっか、良かった。てっきり使ってくれないんじゃないかって思ってたから」
「これから高校生活でお世話になりますよ」
「そうそう、つげ櫛ってね、結構長持ちするんだよ。しっかりと手入れをしてあげると、何十年も使えるものになるんだって」
そうなんだ。つげ櫛って結構長い期間使えるんだ。
「そうだ、ついでに梳いてあげるよ。後ろの方とか梳きにくいだろ?」
確かに、さっきからなかなか手が届かなかったけど、男子に梳いてもらうのもなぁ。でも、まぁいっか。ここで恥じいてると、無駄に意識してると思われたくないし。
「良いけど……梳くなら優しくしてよね」
美香が座っているベッドの隣に腰掛けた達也に、つげ櫛を手渡した。達也は櫛を受け取り、梳き始めた。
なんだか、他人に髪を梳かれるのは、少しこそばゆい感じがする。それ以上に、達也が思った以上に優しく梳いてくれて驚く。少々大雑把な性格の達也だが、結構優しいところもあるのだと気がついた。決して無理した梳き方はせず、温かい手で梳いてくれた。そんな達也に、美香は体を預けた。
思えば、小学生の時も達也に梳いてもらった気がする。
ある程度梳かした後、こんなもんかな?と、達也が櫛を返してきた。
「うん、ありがとう。助かったよ。後ろの方とかなかなか手が届かないから、少し困ってたの」
「お役に立てて良かったよ。そうだ、プリン買ってきたんだけど食べる?」
達也は、折りたたみ机に置かれていたコンビニ袋を指差した。
「昨日も買ってきたよね?そんなにプリン好きなの?」
2日連続プリンを買ってくるなんて、よほど好きなんだろう。
「好きだよ。あれ?もしかしてプリン嫌いだった?」
「そんな事無いけど、2日連続でプリン買ってくるなんて好きなんだなぁって」
「まぁ、俺は病気の時にやけにプリン食べたかったからね」
「あっ、分かる。なんか食べたくなるよね。あんまり甘ったるくないし、欲しくなるんだよねぇ」
そんな事を言いながら、2人でプリンを食べる。熱が引いたせいか、昨日よりもっとプリンの甘さを感じることができた。
その後、午前授業でまだお昼ご飯を食べていなかった達也と一緒にまた昼ごはんを食べ、談笑していたらあっという間に時間が過ぎた。
お昼の2時を回る頃に、達也が鞄を持って立ち上がった。
「そろそろ帰るわ」
「あれ?今日は早いね。何か予定とかあるの?」
いつも夕方まで居座る達也が、こんなにも早く帰るなんて珍しかった。
「この後、3時ぐらいからバイトの面接があるんだ」
そういえば、入学式の後にもバイトをしようか部活をしようか迷っていたと言っていたっけ。結局、バイトをして自分なりの親孝行をすることにしたのも達也らしいと思った。
「そう……じゃあ、玄関まで送るよ」
自分も元気になったのに、また1人になるのは少し寂しい感じがした。でも、昨日と今日もお見舞いに来てくれたから、せめてお見送りだけでもしたかった。
「じゃあ、今日はしっかりと寝て明日に備えろよ」
「うん、お見舞いとプリンありがとね」
「じゃあ、また明日」
「うん、明日」
そう言い、達也は隣の家に入っていった。
家の玄関を閉めて、部屋に戻ろうと階段を上がると、お姉ちゃんが部屋からピョコッと顔を出していた。
「なっ……何?お姉ちゃん……」
「なぁんにも無いよ」
ニヤニヤしていて気持ち悪いなぁ。
「なんにも無いならニヤニヤしないで」
「まぁまぁ、何かあったり進展したら、ちゃんとお姉ちゃんに相談するんだよ?」
何かって何のことって聞き返したくなったけれど、面倒くさいことになるのは確実なので、無視して部屋に入った。
お姉ちゃんのこの行為はいつまで続くのか……。
美香はベッドに寝転がり、大きくため息をついた。
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