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番外編 リチャード編05
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数日後、グレイスにプロポーズした。
あの夜、もちろんプロポーズするって決めてたけど(だって、早く約束しないと他の男にとられるじゃないか)、迷いがあったんだ。
僕の中にはずっと、ユリアーナの面影がある。
愛情と後悔の入り混じったそれは、一生僕から消え去ることはないだろう。
若い彼女に、それが理解できるだろうか・・・いや、してもらうんだ。
僕はこの先も、グレイスと生きていきたいから。彼女の悩みも苦しみも、僕がぜんぶ背負う。その覚悟があったから、あの夜、彼女を抱いたんだから。
虫がいいな、僕は。彼女が他の男を心に宿していたら、きっと、いや絶対に許せない。
なのに彼女には、許してくれと言うんだもんな。
だけどグレイスは、そんな僕の迷いをあっさり越えてくれた。僕の中にいるユリアーナごと、僕を愛すると言ったんだ。
なんて子だろうね。グレイス、君はすごいよ。もうきっと、一生かけても君みたいなひとには出会えないと思う。
僕はその夜、世界で一番幸福な男になったんだ。
そのまま結婚に向けて突き進むつもりだったんだけど、知ってのとおりムン族侵攻の報せが入って、戦場に出ることになった。
戦場には何度も出ている。油断はしないけど、必要以上に恐れもしない。計算通り、戦いには勝利した。
だけどグレイスが拐われるっていうのは、完全に予想外だった。ファティマ皇女が今後も何か仕掛けてきそうだな、とは警戒してたけど、こんなに早く強硬手段に出るとは、思ってなかったからね。
とにかく、ザッハールの仕業だと確信して、すぐにファティマ皇女の居場所を追った。監視は付けてあるからすぐわかる。ほどなくして、隠れ家の目星が付いた。
グレイスもそこにいるだろう。皇女の性格からして、必ずグレイスの前に現れて、罵り痛めつけようとするだろうから。
その館は、ザッハールとローザンの国境地帯の、暗い森の中にあった。
先に着いた部下の報告で、ファティマ皇女はすでに館に入った後だということだった。
ほどなくして、曰くありげな馬車が近付いてきて、ひとりの男が降り立つ。
これは奴隷商人だ、とピンと来た。やつらのことは、目つきでわかる。人を人と思わない、心底ぞっとするような、爬虫類みたいな目をしてるんだ。
こっそりと後ろから近寄って、羽交締めにする。奴隷商人は僕の顔を知っていたらしく、泡を吹いて卒倒しそうになった。そりゃそうだろう、僕は人身売買には特に厳しいから。人の命を売り買いして肥えてるくせに、自分の命は惜しいんだな。
だが、まだ倒れられては困る。きつく脅して目を覚まさせた。こいつの用心棒のふりして、館に潜り込むんだからな。死罪になる前に、せいぜい役に立て。
僕は奴隷商人の後ろについて、館に入った。分厚いローブを纏って顔を隠し、シャツの袖の下にナイフを隠す。
何も陛下が行かなくても、と部下たちは止めたが、自分の手でグレイスを助けたかった。僕の手で、彼女を安心させてやりたかった。
あの夜、もちろんプロポーズするって決めてたけど(だって、早く約束しないと他の男にとられるじゃないか)、迷いがあったんだ。
僕の中にはずっと、ユリアーナの面影がある。
愛情と後悔の入り混じったそれは、一生僕から消え去ることはないだろう。
若い彼女に、それが理解できるだろうか・・・いや、してもらうんだ。
僕はこの先も、グレイスと生きていきたいから。彼女の悩みも苦しみも、僕がぜんぶ背負う。その覚悟があったから、あの夜、彼女を抱いたんだから。
虫がいいな、僕は。彼女が他の男を心に宿していたら、きっと、いや絶対に許せない。
なのに彼女には、許してくれと言うんだもんな。
だけどグレイスは、そんな僕の迷いをあっさり越えてくれた。僕の中にいるユリアーナごと、僕を愛すると言ったんだ。
なんて子だろうね。グレイス、君はすごいよ。もうきっと、一生かけても君みたいなひとには出会えないと思う。
僕はその夜、世界で一番幸福な男になったんだ。
そのまま結婚に向けて突き進むつもりだったんだけど、知ってのとおりムン族侵攻の報せが入って、戦場に出ることになった。
戦場には何度も出ている。油断はしないけど、必要以上に恐れもしない。計算通り、戦いには勝利した。
だけどグレイスが拐われるっていうのは、完全に予想外だった。ファティマ皇女が今後も何か仕掛けてきそうだな、とは警戒してたけど、こんなに早く強硬手段に出るとは、思ってなかったからね。
とにかく、ザッハールの仕業だと確信して、すぐにファティマ皇女の居場所を追った。監視は付けてあるからすぐわかる。ほどなくして、隠れ家の目星が付いた。
グレイスもそこにいるだろう。皇女の性格からして、必ずグレイスの前に現れて、罵り痛めつけようとするだろうから。
その館は、ザッハールとローザンの国境地帯の、暗い森の中にあった。
先に着いた部下の報告で、ファティマ皇女はすでに館に入った後だということだった。
ほどなくして、曰くありげな馬車が近付いてきて、ひとりの男が降り立つ。
これは奴隷商人だ、とピンと来た。やつらのことは、目つきでわかる。人を人と思わない、心底ぞっとするような、爬虫類みたいな目をしてるんだ。
こっそりと後ろから近寄って、羽交締めにする。奴隷商人は僕の顔を知っていたらしく、泡を吹いて卒倒しそうになった。そりゃそうだろう、僕は人身売買には特に厳しいから。人の命を売り買いして肥えてるくせに、自分の命は惜しいんだな。
だが、まだ倒れられては困る。きつく脅して目を覚まさせた。こいつの用心棒のふりして、館に潜り込むんだからな。死罪になる前に、せいぜい役に立て。
僕は奴隷商人の後ろについて、館に入った。分厚いローブを纏って顔を隠し、シャツの袖の下にナイフを隠す。
何も陛下が行かなくても、と部下たちは止めたが、自分の手でグレイスを助けたかった。僕の手で、彼女を安心させてやりたかった。
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