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18グレイスの危機
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「ぐっ、ぐうぅっ」
ここはどこかしら・・・。
手足を縛られていて身動きがとれない。助けを呼ぼうにも猿轡をされていて、うめき声しか出せないし、目隠しのせいで何も見えない。
ガタゴトと揺れるたび、固い板に身体が当たって痛い。どうやら馬車の荷台に転がされて、移動しているみたい。
どうしてこんなことになったの?
私はぼんやりした頭を振って、記憶を呼び起こす。最後に覚えているのは、王宮の前庭にいたこと。
そう、そうだった。王宮で王女様方のお相手をしていたら、クォーツ公爵家から火急の使者がおいでです、と呼び出しがあったんだわ。至急決済が欲しい案件がある、と。手紙に押された印章は確かにクォーツ家のものだった。
両親も兄も所在不明の今、その責務を代行できるのは私しかいない。私は万一のことを考えて、前庭で会うことにしたのだった。王女様方を警備隊に任せて。
行ってみると、使者は見たことのない顔だった。おかしい、と思って引き返そうとしたとき、頭を殴られたような衝撃があって、目の前が真っ暗に。そこからの記憶がないわ・・・。
なおも記憶をたどろうとしていると、ガタンと音がして、突然揺れが止まった。
息を潜めていると、乱暴に担ぎ上げられる。そのまま運ばれ、やがて無造作に放り出された。ドスン、と派手な音を立てて床板にぶつかる。
「うっ、ううっぐぅ」
落とされた衝撃と痛みで思わず声がもれたのだけど、猿轡のせいでみっともない声しか出せない。
「大人しくしな。騒ぐと命が縮まるぜ」
凄みの効いた男の声がした。
「どれ、大貴族のお嬢様の顔を拝ませてもらうとするか」
乱暴に目隠しが外される。
周りを見まわそうとしたけれど、わかったのは、窓ひとつない部屋ということだけ。乱暴に顎を掴まれて顔を引き上げられると、男たちに見下ろされていた。
皆一様に、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
「ひひっ、さすがに上玉じゃねえか」
舐め回すように見られ、全身が総毛だつ。
「しっかし、清純そうな顔して、あのお方の大事なお人を寝とっちまったって?信じらんねえな」
「ものすげえ秘技でも持ってんのかもしれねぇぜ。どれ、ちょいと試してみっか」
男たちは下卑た笑みを浮かべると、私に覆い被さって来た。
ーいやぁーっ!やめてっ!さわらないでっ!
大声で叫びたいけれど、恐怖のあまり身体は強張り、声も出ない。男たちは下卑た笑い声を上げながら、面白半分に私に触れようとした。
「お前ら、やめねえか!あの方がいらっしゃるまで、傷をつけるなと言われてるだろうが!」
上役らしき男の声がして、男たちの動きが止まった。残念そうに私を椅子に座らせると、ガチャリ、と鉄の扉に鍵をかけて出て行く。
私はひとり放置された。
男たちに触られたところが気持ち悪くて、訳も分からず涙が溢れる。
ーリチャード様、リチャードさま・・・!
こんなことで、リチャード様がどんなに私を大切にしてくださったかを思い知った。
あの夜、私が怖がったら止めてくれた。
きっと傷ついただろうに、責めも怒りもせず、優しく服を着せてくれた・・・。
リチャード様、ご無事かしら。歴戦の勇者でも、絶対はないもの。もしもあの方に何かあったら・・・。
いけない、弱気になっては。私がこんなことでは、リチャード様も安心して戦えないではないの。
私は、あの方をお支えすると決めたのだから。心を強く持とう。希望は捨てないわ。
振り返ってみればあんなこともあったね、と、笑って話せる日が来るわよね、きっと。
人知れず心を振るい立たせたとき、ガチャリ、と扉の開く音がしてて、聞き覚えのある、けれどあまり聞きたくなかった声がした。
「お前にはほんに地べたがよう似合うの。どうじゃ、少しは思い知ったであろう?」
ここはどこかしら・・・。
手足を縛られていて身動きがとれない。助けを呼ぼうにも猿轡をされていて、うめき声しか出せないし、目隠しのせいで何も見えない。
ガタゴトと揺れるたび、固い板に身体が当たって痛い。どうやら馬車の荷台に転がされて、移動しているみたい。
どうしてこんなことになったの?
私はぼんやりした頭を振って、記憶を呼び起こす。最後に覚えているのは、王宮の前庭にいたこと。
そう、そうだった。王宮で王女様方のお相手をしていたら、クォーツ公爵家から火急の使者がおいでです、と呼び出しがあったんだわ。至急決済が欲しい案件がある、と。手紙に押された印章は確かにクォーツ家のものだった。
両親も兄も所在不明の今、その責務を代行できるのは私しかいない。私は万一のことを考えて、前庭で会うことにしたのだった。王女様方を警備隊に任せて。
行ってみると、使者は見たことのない顔だった。おかしい、と思って引き返そうとしたとき、頭を殴られたような衝撃があって、目の前が真っ暗に。そこからの記憶がないわ・・・。
なおも記憶をたどろうとしていると、ガタンと音がして、突然揺れが止まった。
息を潜めていると、乱暴に担ぎ上げられる。そのまま運ばれ、やがて無造作に放り出された。ドスン、と派手な音を立てて床板にぶつかる。
「うっ、ううっぐぅ」
落とされた衝撃と痛みで思わず声がもれたのだけど、猿轡のせいでみっともない声しか出せない。
「大人しくしな。騒ぐと命が縮まるぜ」
凄みの効いた男の声がした。
「どれ、大貴族のお嬢様の顔を拝ませてもらうとするか」
乱暴に目隠しが外される。
周りを見まわそうとしたけれど、わかったのは、窓ひとつない部屋ということだけ。乱暴に顎を掴まれて顔を引き上げられると、男たちに見下ろされていた。
皆一様に、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
「ひひっ、さすがに上玉じゃねえか」
舐め回すように見られ、全身が総毛だつ。
「しっかし、清純そうな顔して、あのお方の大事なお人を寝とっちまったって?信じらんねえな」
「ものすげえ秘技でも持ってんのかもしれねぇぜ。どれ、ちょいと試してみっか」
男たちは下卑た笑みを浮かべると、私に覆い被さって来た。
ーいやぁーっ!やめてっ!さわらないでっ!
大声で叫びたいけれど、恐怖のあまり身体は強張り、声も出ない。男たちは下卑た笑い声を上げながら、面白半分に私に触れようとした。
「お前ら、やめねえか!あの方がいらっしゃるまで、傷をつけるなと言われてるだろうが!」
上役らしき男の声がして、男たちの動きが止まった。残念そうに私を椅子に座らせると、ガチャリ、と鉄の扉に鍵をかけて出て行く。
私はひとり放置された。
男たちに触られたところが気持ち悪くて、訳も分からず涙が溢れる。
ーリチャード様、リチャードさま・・・!
こんなことで、リチャード様がどんなに私を大切にしてくださったかを思い知った。
あの夜、私が怖がったら止めてくれた。
きっと傷ついただろうに、責めも怒りもせず、優しく服を着せてくれた・・・。
リチャード様、ご無事かしら。歴戦の勇者でも、絶対はないもの。もしもあの方に何かあったら・・・。
いけない、弱気になっては。私がこんなことでは、リチャード様も安心して戦えないではないの。
私は、あの方をお支えすると決めたのだから。心を強く持とう。希望は捨てないわ。
振り返ってみればあんなこともあったね、と、笑って話せる日が来るわよね、きっと。
人知れず心を振るい立たせたとき、ガチャリ、と扉の開く音がしてて、聞き覚えのある、けれどあまり聞きたくなかった声がした。
「お前にはほんに地べたがよう似合うの。どうじゃ、少しは思い知ったであろう?」
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