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17圧勝、だが

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「ムン族は見張りを残し、野営地に引き揚げています」

リチャード王のいる崖上からは、焚き火の光がポツポツと見える。
焚き火の周りには敵兵の姿も。

「完全に油断してるな。焚き火なんか焚いて、居場所を教えてるようなものじゃないか」

地面に腹這い状態で、リチャード王がつぶやいた。
兵士たちも一様に腹這いになり、弓矢を構えている。王の号令を待つばかりだ。

王は片手を上げ、一瞬の間を置いて振り下げた。

「放て!」

一斉に矢が放たれる。
突然の襲撃に、敵は一瞬で混乱状態に陥ったようだ。怒号が飛び交い、けたたましい悲鳴が上がり、金属音と足音が交錯する。
第二、第三陣の矢が放たれ、混乱は更に広がった。敵兵たちはようやく崖上の存在に気づき、応戦しようと街道に殺到する。

「今だ、合図!」

敵兵のテントに向け、火矢が放たれた。灯り用の油の入った袋付きだ。着弾と同時に弾け、あっという間に炎が燃え広がる。
同時に、第二城門のほうから一斉に矢が放たれた。アルザス族が打ち合わせどおりのタイミングで呼応してくれたようだ。

「よし、行くぞ!」

王は弓矢を捨て、剣を抜くと、先頭に立って崖を降りて行った。まるで背中に羽根の生えた如く、軽々と岩場を飛び移る。兵士たちもそれに続いた。

そこからは、あまりに一方的な展開だった。まさか崖上から敵が降りて来るとは思いもしなかったムン族は、一方的に薙ぎ倒され、蹂躙されるばかりだった。戦闘は、ローザン・アルザス連合軍の圧倒的な勝利で幕を閉じた。



「感謝いたします、王よ。平和は保たれましたぞ」

アルザス族長が頭を下げる。

「なに、盟約に乗っ取ったまでのこと。国境地帯の平安はアルザス族あればこそ。これからもよろしく頼む」

敵兵はほぼ全滅、わずかな生き残りは逃げ去ったが、敢えて追うこともあるまい。
偵察に行かせた兵士から、クォーツ公爵夫妻と令息を無事保護したとの知らせも入った。大きな怪我もなく息災だという。
これにはリチャード王も胸を撫で下ろした。グレイスの悲痛な顔を見なくて済む。

「しかし・・・なぜ今侵攻してきたのかは、謎のままか」

そう呟いたリチャード王は、岩場に転がった矢尻を見咎めた。件の強弓、月飛弓だ。なんの気無しに手に取った王だったが、ふと、違和感を感じて高く掲げる。

「・・・これは、月飛弓ではない!」

月飛弓の矢尻は、満月の光を浴びると微かに蒼く輝くのだ。鉄に含まれる鉱石の作用によるものだが、なぜ満月の夜にだけ輝くのかは解明されていない。
ではこの矢は・・・月飛石によく似た色味、強度。おそらく陽光石だ。産地は、同じく遊牧民である、ドンガ族の住む地域。

ドンガ族・・・ザッハール皇国の砂漠の民!ムン族と祖先を同じくし、姿形もよく似ている。

そして折よく起こった、クォーツ公爵一家の拉致事件。
そうか!そういうことだったのか・・・してやられた。

グレイスの身が危ない!こうしてはいられない。一刻もはやく帰還しなければ。

王の元に、早馬の伝令が届いたのはその時だった。

ークォーツ公爵令嬢グレイス様が王宮にて何者かに拉致され、行方不明ー
と。

遅かった・・・!!

グレイス、グレイス!なんてことだ!
君と別れたのはまだ数日前のことなのに、行方不明だって?
こんなことになるなら、無理矢理にでも連れて来るんだった。王宮ならば安全だと、鷹を括った自分の過ちだ。

一刻も早く救いに行かなければ。王都に帰るか?いや、おそらくもう王都にはいないだろう。

こうしてリチャード王は、戦勝祝いもそこそこに、山岳地帯を後にしたのだった。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

作者の都合で、投稿時刻がまちまちで申し訳ありません!
コツコツ更新して行きたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
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