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「雁首そろえてゾロゾロと」

「いいんじゃない?鴨が葱背負って歩いてきたみたいなもんだし」

「聖女についている二人も上玉だ、皇女様もいいがあの小さいのもわるくねえ」

「あんた相変わらず……正直気持ち悪いわ」

「へへへ、いいじゃねえかよ、そんなの人の勝手だ、な?いいだろ?」

「あの小娘には借りがある、俺がもらうぞ、後の事はどうでもいいが、借りだけは変えさせてもらう」

「へいへい、それじゃあ俺はおっさん二人の相手するとして、ご褒美に遊ばせてもらいますか」

「それじゃ私達で女二人ね」

「そうだ!いくぞ!」

 そう気持ちの悪い事をいいながらこちらに向かってくる疾風の英雄を見ながら仲間達の常態を確認する。

「これで終わり、具合は大丈夫ですか?」

「ありがとう聖女殿、おかげで万全に戦えます」

「こっちも助かったぜ、流石に腕が痺れて困ってたんだ」

 ルイスにハインとアルフレッド殿の治療をしてもらい戦闘に備える。

「それでは手はず通りに」

「おうよ!」

「招致しました!」

「うん、任せて!」

「わかった」

 それぞれに声をかけ、私とルイスを守るように陣形が形作られる。

 そして彼我の距離が縮まっていき、三十メートルほどの距離を置いて対峙する。

「一応勧告しておきます、投降しなさい、今なら比較的楽に処理してさしあげます」

「はっ!それはこっちの台詞だぜ!今なら痛い目に会わずにすむからそっちこそ投降しな」

 一応の勧告をして返事を聞く、まぁ分かっていた事であります。

「そうですか、分かっていましたが、仕方ありませんね」

 それでも溜息が出てしまうのは仕方ないですね、ですが!

「やるぞてめえら!」

「皆さん、お願いします!」

 敵の男と私の檄の声と共に戦闘が開始される。

 始めに飛び出したのはリンさんで、走る間にその体躯を変化させてゲラートに向かう。

「上等だ!切り刻んで素材にしてやらぁ!」

 そう叫び切りかかるゲラートの斬撃を右手の爪で受け流し一回転、そのまま尻尾で反撃をかける。

「なっ!?」

 驚愕に顔を染めながらなんとかそれに足を合わせて受けながら弾き飛ばされるゲラート。

「焦らせやがって、厄介な」

 冷や汗をかきながら強がりを言うゲラートにリンさんは冷たい目線を向ける。

 瞬間、突撃し急迫する。

「上等だ!!」

 それにあわせてゲラートも自慢の剣を振りかぶり突撃を敢行。

 ぶつかる両者の爪と剣、威力は互角、しかし。

「ぐお!?」

 再度逸らされた剣戟にバランスを崩したゲラートに左手の爪が振るわれる。

「ぐっ!!があああああ!!」

 なんとか直撃を避けるが左上腕に防具を切り裂いて3本の筋が入る。

「こなくそ!!」

 痛みに顔をゆがめながら剣を返すが、回避の為に崩れた姿勢では力がこもらずに爪を振ったまま一回転したリンの尻尾に諸共叩かれ吹き飛ばされる。

 そのまま十メートル程度地面を削りながら滑空して墜落する。

 大して力を込められなかったので、その程度の威力しか出なかったが、それでも力を削るには十分なようで、立ち上がったゲラートの身体は既に泥に汚れてボロボロになっていた。

「くそ!このままじゃジリ貧だ!仕方ねえ、あれを使うか!」

 そう言って力を溜め始めたゲラート。

 それを冷たい視線で見るリン。

 二人の戦いは始まってすぐに終盤を迎えていた。



 少し遡って戦闘開始直後

「隙有りいいいいいいいいい」

 そう言ってゲラートの相手を始めたリンにガイルは迫っていた。

 あと1秒あれば手が届く、ガイルの顔は愉悦に歪むがそれは叶わない。

 風を切る音に反応して拳を振るう。

 バキっという音と共に矢を折った感触を感じた次の瞬間には別方向から風を切る音がして瞬時に回避行動に移る。

「てめえら、俺様の邪魔をするたぁいい度胸だ、覚悟できてんだろうなああ!!」

 欲望を邪魔されたガイルの叫びを気にも留めない二人は各々の武器を構え対峙する。

「それじゃあ俺からいかせてもらうぜ」

「承知!」

 ハインとアルフレッドのコンビとガイルの戦いが始まる。

 先ず飛び出したのはアルフレッドだった。

 右手に持った大剣を振り下ろす。

 風を切る轟音と共に振り下ろされるそれを回避して反撃しようとするガイルだが。

「甘いわ!!」

 振り下ろした剣が地面を砕き破裂させる。

「チッ」

 舌打ちをしてそれを回避するガイルを見てアルフレッドが口を開く。

「なんだぁ?SSSランクの岩盤砕きさんはこの程度でびびっちまうのか?ロイドの奴なら涼しい顔して反撃してきやがるぞ?」

「んだと!このウスノロがああああ!!」

 暗にロイドよりも格下と煽られたガイルは青筋を立てて蹴り掛かるがその攻撃は届かない。

「はっ!所詮はケツの青い餓鬼ってこった!」

 盾で受け止めた蹴りを跳ね上げ体勢を崩すとそのままタックルをぶちかまし吹き飛ばす。

 背の丈1.9メートルの筋骨隆々の大男がプレートメイルをまとって打ち込むタックルだ、ガイルも戦う者として十分な身体をもっているのだが相手が悪い、吹き飛ばされて二十メートルにわたって地面を削る。

「馬鹿力め」

「はっ!おめえが弱いだけだ、それが証拠にお前らが見下したロイドの奴には一本もとれやしねえ」

 その言葉に更にガイルの頭に青筋が走る。

 しかし、実はアルフレッドは最初から堪忍袋の緒が切れているのである。

 対人スキルを鍛え上げ、腹黒い貴族相手に言い合いを制するこの男に必殺だけの脳筋が勝てるだろうか?

 モンスター相手でもSランクまでは単独で討伐するアルフレッドと、仲間と力を併せてSSランクモンスターを一気呵成に倒すのが常套手段のガイル。

 その戦闘における引き出しの差は明らかである、それを証拠に精神的に、技術的にアルフレッドは圧倒する。

「ほらいくぞ!そらそら!」

 大剣の大振りを打ち込みながら前身する。

 それに当たってはたまらないとばかりに後退するガイル、だが勝負は諦めていない。

「そこだ!」

 大振りに出来た隙を見つけ鋭く踏み込む。

 殺った!!

 そう確信をもって一撃を放つがその瞬間に目が合ったアルフレッドがニヤっと笑う。

 誘いこまれた!?そう思った時には体は宙を舞っていた。

 打たれた顔面を軸に縦回転しながら十メートル吹き飛んで脳天から地面に落ちてバウンドする。

 そして一瞬途切れた意識が戻った時には追撃を受けている。

 腹に重い蹴りが突き刺さり更に吹き飛ばされ瓦礫と化した建物にめり込む。

 胃に入った物が逆流すると同時に壁から剥がれ落ち汚物と共に地面に落下する。

「ゲホッゲホッグエエエ」

 吐き出している間にアルフレッドはハインにバトンを渡す。

「交代だ!ズタズタにしてやんな!」

「承知!」

 そう言って駆け出すハインに気がついたガイルは汚物混じりの瓦礫に打撃を叩き込みハインの方に吹き飛ばす。

 流石に汚物を浴びてはたまらないので一時後退することになる。

「があああああああああ!めんどくせえ!!!全部吹き飛ばしてやる!!!」

 そう言って距離が開いたのを好機と奥義を繰り出す為に力を溜めるガイル。

「美味しいところは任せるぜハイン殿、やっちまってくれ」

「承知!」

 ハインも応じるべく集中し魔力を高めていく、こちらも決着は近い。



アラ「アルの奴、相変わらずえげつねえな」
リリ「ほんとに、昔よりえげつなくなってるわね」
アラ「そりゃあ年食って貴族共の相手も色んな奴との相手もしてるからなぁ」
アイ「流石は私の旦那とタメはってただけはあるな」
リリ「リンドも違う意味でエゲツなかったもんねぇ」
アラ「ちょっとまてよ?ってことはロイドの奴リンドとアルの二人のエゲツなさを持ってるって事か?」
リリ「加えてアイリスのトリッキーさももってるわよ」
アラ「洒落になんねぇな……」
アイ「我が息子ながらな……」
リリ「まぁそれは置いておいて、この後どうなるのかしらね」
アラ「アンジェとルイスが出てないからそっちにいくんじゃねぇか?」

Exactly!!! ということで次回はルイスとアンジェから始まります。
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