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49 万策つきて

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「リリー、悪いが任せて良いか?」

「分かったわ、アラン、存分にやりなさい、貴方の背中は私が守るわ」

 お父さんとお母さんが言葉を交わす、そして。

「アラン、こいつを使え」

 錬金術師のお姉さんがどこからともなくダガーを取り出しお父さんに投げ渡す。

「サンキューアイリス!20年経ってもかわらねえ、流石だ」

 そういって右手にミドルソード、左手にダガーを持ち盾や鎧を地面に落としながらお父さんは前傾姿勢をとる。

「それじゃあいつはいないが、いっちょやりますか」

 その言葉と共に3人はデルクに向けて駆け出す。

「上等だ!蹴散らしてやる!」

 その言葉と共にデルクも走り出し。

「ちょっとまちなさいって!?」

 アルベはデルクの援護をしようとするがその手を止めてあらぬ方向に腕を振る。

「ちょっと~奇襲なんて私のお肌が傷ついたらどうするの~?」

 その手の鞭は後ろから飛来した矢を叩いていた。

「邪魔はさせません!」

 アンジェはその一言と共に再度弓を放ち、足止めをかける。

 それに乗じてリンちゃんもアルベに猛攻をかける。

「あら、いきのいい子ね?でも、おいたする子にはおしおきよ?」

 そう言ってもう一つの戦いも始まる。

 お父さん達に私の補助魔法は毒にもなってしまうから、私はこっちに魔力を注ぐ。

 リンちゃんにバフをかけ、動きを制限する為に聖なる光線ホーリーレイを放ち、体力の消耗にあわせて継続回復リジェネレイトをかける。

 それでも鞭と体術を駆使して巧みに立ち回るアルベを追い詰めるのは愚か、足止めが精一杯。

 そして足止めしている間にもう一つの戦局も進んでいく。

 お父さんと錬金術師のお姉さん、アイリスさんが超接近戦をかけているのだ。

 デルクの初動を見切り、左のダガーを合わせて攻撃を受け流し、攻撃に使った四肢を右のミドルソードで切りつけていく。

 その傷はそう大きいものではない為、通常は致命傷になることはない。

 しかしそこにアイリスさんの動きが合わさるとその傷もバカにはできない。

 傷口に山葵を塗りこむように謎の薬品をかけているのだ。

 それは肉の溶けるような煙と臭いを上げて、その再生を阻害していく。

 大きくない傷とはいえ、徐々に切り刻まれていくその状況にデルクはいらだたしげに大振りを放とうとする。

 しかしそこでお母さんの存在が活きてくる。

 初動を見切り盾を前に身体ごと突撃を敢行するのだ。

 動作の出に対して全体重を叩きつける事でその攻撃を崩し、バランスを崩していく。

 そしてバランスを崩したところにお父さんの攻撃とアイリスさんの薬品が襲い掛かる。

 それはデルクの右胸を刺し貫き、焼いていく。

 そして追撃に薬瓶を口に押し込み掌底で打撃を加えて砕いていく。

 その攻撃に口から悲鳴と煙を上げるダルク。

 このまま押し切れる!?そう思ったところで気持ちが挫かれる。

「うごあああああああああああああ!!」

 デルクの切れたような怒声が響き渡り、3人が弾き飛ばされたのだ。

 いや、何か爆発に巻き込まれたような、そんな飛び方だった。

 そしてそれがなにかはすぐに分かる事になる。

「あらあら、デルクったら、そんなところでそれを使っちゃって、まぁ、あの子は弱いから仕方ないわね」

 そう言って余裕の表情で攻撃を捌いていたと思ったらリンちゃんの腕を掴みとる。

「でも、少しオイタがすぎるわ、よ!っと」

 その瞬間にリンちゃんがこちらに向けて投げ飛ばされる。

 そのコースは私達に直撃するコースだった。

 リンちゃんも必死に背中の翼で勢いを殺すが、殺しきれない。

 押しつぶされる!?そう思ったところでクウちゃんが私達の前に飛び出てくる。

 魔力を使い精一杯大きくした体でリンちゃんを受け止める。

 鈍い音が響く。

 何とか受け止めきったが、リンちゃんとクウちゃんがぶつかった衝撃は小さいわけがない。

 恐らく骨が何本折れている。

 ぶつかったままのもつれた姿から起き上がれない二人に駆け寄るが、顔色は悪い。

 そしてそれ以上に私達の状況は拙い。

 お父さん達はデルクの衝撃波を受けた後は少し動きが鈍くなっていて、反対にデルクは暴走状態のような感じで更に速く出鱈目な動きになっている。

 おかげで3人ともそれに対応して致命傷を避ける事が精一杯でこちらに加勢など望むべくもない。

 そしてこちらはもっと悪い。

 前衛を張れる二人が戦闘不能。

 私も魔力が底を尽き掛けてきている上にアンジェも投げられたリンちゃんが右腕を掠ったのか、肩が上がらなくなっている。

 それでも仲間を庇おうと私達の前に立つ。

 そしてそこに歩み寄る2メートルを越える巨体のアルベ。

 恐ろしい笑みを浮かべ、鞭を鳴らしながら歩み寄る。

「さーて、殺しちゃダメとは言われているけど、怪我させるなとまでは言われていないから、これからお楽しみタイムよ、良い声で鳴いてね?」

 そう言って鞭を振り上げ、その醜悪な笑みを深くして更に続ける。

「だるまにしてから可愛がってア・ゲ・ル♪」

 そしてその手が振り下ろされる。

 その先端は音速を越え、私達の肌を裂き、肉を抉り、骨を砕く。

 それでもせめてもの抵抗と絶対に負けまいと睨みつけながら痛みに備える。

 そしてその鞭は空気を切り裂き、その先が私達を打つ……はずだった。

「吹き飛べ!!!」

「んべらばああああああああああ!?!?!?!?」

 アルベが鞠のように吹き飛び墓所の十字架を数本突き刺しながら崖の向こうに落ちて見えなくなる。

「おにい、ちゃん?」

 盾を振り切った体勢のその姿を見て、力が抜ける。

 ずっと頼りたくて、ずっと待っていた、その姿がそこにある。

「すまない、遅くなった」

 その声に目頭が熱くなる。

「こんなにボロボロになって、すまなかった」

 謝る姿に視界が滲む、でも、きてくれて嬉しくて。

「頑張ったな」

 そういって私とアンジェの頭を撫でてくれた。

「後は任せてくれ」

 そういって私達の前に立つ姿は、何よりも頼りに出来て、誰よりも何よりも、いとおしく感じた。
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