猫の手は借りたくない

ミャア

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狼と幼女と触手なモンスター その1

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「…………………」
まだギリギリ日が出て無いと言っても良い時間、未夜は本の少しだけ明るい窓の外をぼーっと見ながらベットに横たわる。

『おやおや、こんな時間にお目覚めですか?』
未夜の脳裏に声が響く。

「………謎の人のせいで今起きた」
まだ眠たいのか、目の違いが分からないくらい細く開けた目のまま未夜は言う。

『そろそろ謎の人の呼び名を変えてくれませんかね? 何だが言いづらい感じもしますし』

「なら、何て呼べば?」

『そうですね……、では「ねこさま」でどうですか?』

「まぁ、それで良いよ」
この間も、全く表情を変えない未夜。その見た目は、眠たいと言うより興味ないと言った感じの印象を受ける。

「それで、何の用なのねこさま」

『いえ、様子見です、タダの様子見』
ねこさまは何か探るように言う。
『どうですか、この世界は? 中々に楽しい場所では無いですか?』

「んー…… まぁ、そうだね……」
ごろん、と未夜は寝返りを打つ。

「楽しい、と言えば楽しいね」

『そう、それは良かった……「でも」
でも、とねこさまの言葉を遮って未夜はこう言う。

「でも、面白くは無いかな」

『………ほう?』
ねこさまは興味深そうに言う。
『それは何故です? と言うより、楽しいと面白いと言う感情はほぼ同じだと思いますが』

「そう言われると何も言えないのだけどね」
ここに来て、ようやく未夜は小さく笑う。

「実際問題、とても楽しいよ。ミケをからかえるし、楽してお金を稼いで、ただ楽しむだけで一日を終えれるし、勿論死と隣合わせっていうリスクもあるけど、まぁそれも楽しさの内さ。

と言うより死亡率は現代社会とそうそう変わり無いんじゃない? 車が無い分、交通事故が減って健康に気を付ければ基本死ななさそうだけど」

『それは確かに一理ありますね』
現代社会のおいて、交通事故の死亡率はかなりを誇る。そう考えると、未夜の言う通り死亡率を誇る原因がこの異世界には無いのだから死亡率が減ると言われれば確かに減っているであろう。

とは言っても、モンスターとか居るのでそれ程変わりがあるかと言えば……まぁ、現代社会も熊に遭遇する事とかあるし、ね?

「ただ、ね………」
未夜は二本ある尻尾を揺らす。自分にある筈の無い、二つの尻尾を。

『………あぁ、面白く無いってそう言う事ですか』
その動作に納得したように声を上げるねこさま。

『そういえば、その説はどうもと言う伝言がありますが』

「んじゃ、その子に楽しい見返りをくれてありがとうと言っておいて」
そう言って、話しは終わりとばかりに目を閉じる未夜。

『では、そのように伝えておきますね。それでは、二度寝をどうぞお楽しみ下さい』
そうねこさまが言った後、未夜の頭に声が響く事は無くなった。

「………………………………………」
過剰な見返りは、ワタシは嫌いだ。

履き捨てるよに頭の中で呟いて、ゆっくりと瞼の裏を見て時間を潰す作業を行ったのだった。



「ハイハイ!」

「ハイ何でショウ未夜殿」

「今日はまったりする日が良いと思います!」
未夜とミケがパーティーを組んで数日、ギルドの酒飲み場で今日は何のクエストをするかの話し合いで、未夜は休む事を提案した。

「イヤ……、ご主人大概どんな時でもまったりしてまセンカ?」
未夜が『フレクション』、強力なバフをミケに掛け、不死身のミケが特攻するというスタイルでダンジョン攻略を行っている二人。

ミケが前衛、未夜が後衛をしている為、基本未夜は何もしていない。後ろからミケにバフを掛け、ミケが突っ込んでいる後ろをゆうゆうと未夜が歩く。
何もしていないと言う訳では無いが、ほぼ何もしていないに等しい。

「いやいや! 言っとくけどニートと社内ニートは違うからね! 何もしてなくてもキッチリ働いてはいるんだから、窓際族なんだから!
窓際にすら来ないニートと一緒にしないで!」

「堂々とサボってるコトを言わないでクダサイ……」
堂々と自分は社内ニート、働いているように見せかけていると言い切る未夜。

勿論これは適材適所故の仕方のない事なのは分かっているミケ。
どうあがいても戦う事は出来ないであろう未夜、そんな未夜が張り切って敵に突撃されても、むしろそっちの方が困ってしまう。

それは分かっているミケなのだが……
「ソレデモ、ご主人ばかりがノーリスクなのは納得いかないのデスガ……」
げんなりした顔でミケは言う。

ミケが差すノーリスクと言うのは、きっとフレクションの悪い方の能力、『強力なバフが付けれるが、ランダムでデバフも付く』という、ハイリスクハイリターンな効果の事を言っている。

「ナンカイボクご主人に殺されれば良いのですか……?」

「いやー、それはワタシも分かんないから……」
ランダムなはずなのに、何故かよく『攻撃したら大ダメージ』のデバフがミケに付いて、何度も死へと追いやられるミケ。

明らかにミケだけが毎回死のリスクを抱えているのである。
まぁ、ミケは不死身なので実質ノーリスクなのだが、不死身だからと言って死んで気持ちい思いはするはずも無いだろう。

「まぁまぁ、それを含めての今日はお休みにしよって事だよ。毎日毎日お亡くなりになるのも辛いでしょ?」

「ナンカ言いくるめられている気もシマスが…… ソレモソウデスネ、今日はゆっくりしましょうか」

「うー、やったー!」
休める事に大はしゃぎする未夜。
「どうしよっかなー、この前ボードゲームのお店を見かけたから行ってみるのもいいなー。それとも惰眠を謳歌するか……」

そんな事を未夜がぶつぶつ言っていると、ふと未夜が思い出したように、
「あ、折角お店にいるんだから何かたーのもっと」

テーブルのメニューを手に取り、一通り見返した後、
「すみませーん、このフリーズケーキとファルコーラを一つー」
と、注文をする未夜。

「……ホント凄いですね。もう字を覚えたのデスカ?」
前まで字は読めないと言っていたのに、物の数日で字を覚えた未夜。

「お、来るの早い。別に不思議な事では無いよ」
早速届いたファルコーラとフリーズケーキ。未夜はファルコーラをストローで飲みながら話しをする。
「自然言語と人工言語って三毛猫は知ってるかい?」

「イエ、なんですかソレ?」

「自然言語ってのは普通に言語だ。何も変哲も無い、ワタシの世界で言うと日本語や英語何か、ここの世界で言うと汎用語がそれに当てはまる。

ま、そっちは今回は別に良いとして、今回のお題は人工言語だ」
未夜はケーキを口に頬張る。

「~~~っ、やっぱコレ頭にくる~……っ!

……それで人工言語なんだけど、これは意図的に作られた文字、まぁこっちも文字通り人工的な言語、文字の事だね」

「ハァ…… それはナントナク名前で分かりますが、それがどうしたのデスカ?」

「ねぇ三毛猫、『A』と『a』ってどっちも『エー』じゃん?」
そう言ってテーブルをなぞって、汎用語で二つのエーを書く未夜。

「ソウデスネ、それはどちらも同じAですね」

「なら次は……」
と、未夜はテーブルに汎用語で『あ』と、もう一つ、

「エート、これは何です?」

「これも『あ』なんだよ」
もう一つ、日本語の『あ』をテーブルになぞって書く。

「この文字はワタシの世界の『あ』なんだよ。それで『い』はこうなって……」
未夜は汎用語と日本語の二つの『あいうえお』を順番にテーブルをなぞって書く。

「不っ思議な事に、この世界もワタシの世界と同じ50音基準なんだよ」

「……アァ、そうゆう事ですね」
ようやくミケは未夜が文字を覚える事が簡単だと言った意味が分かった。
「ヨウは文字の形が違うだけで、言うなればタダのアンゴウでしかナイのですね」

「そそ、人工言語は基本的に自然言語の派生だから、大体の物は訳す事が出来るんだよ。どんな異世界言語でも何処かの誰かが必ず訳すように、必ず絶対的な共通点があるんだよ」

英語を日本語で訳すときに色々なニュアンスの違いが出来るのは、自然言語として物が違うから、言うなれば同じ果実だが、みかんとブドウで物が違うからと言っても良い。

それに対して人工言語は必ず自然言語を元にされている訳で、みかんとでこぽん、ブドウとマスカットと言った感じで、必ず近い物になるのである。

「喋る言葉が同じな以上、分類は絶対に日本語だ。ぶっちゃけ言うともう85%は読めるも同然だったってだけで、後は文字の形を覚えれば良かっただけだから苦は無かったって事」
そう言い終えて、未夜は最後のファルコーラを一気に飲み干す。

「っ、っ~…… っふー、ごちそうさま」
満足そうに手を合わせる未夜。

「………………」
その光景を感心したように眺めるミケ。
勿論ごちそうさまをしっかりしている事に感心している訳では無く、未夜の適応力に感心していた。

普通は初めて見た文字は変な記号にしか思えず、思わず投げ出してしまう物であろう。分かり易く例えると大学生が習う数式を見て「?」となる感じに似ているだろうか。

そんな不可解な形をした物をすぐさま理解しようとして、そして物の数日で物にする。そして『フレクション』と言う支援スキル。
不利な状況であろうと適切な行動を行う思考とそれをアシスタントするスキル。

本当に未夜はパーティーに居るだけで心強い猫だとミケは思った。
「んじゃ、受講料として支払い宜しく!」
そうやって他人にリスクや不利益を押し付ける事を覗けば。

「アノですね…… 一応ここ数日のクエスト攻略で少しはお金をカセギましたよね? ちゃんとそれくらいポケットマネーをダシテ下さい」

「いいじゃんー、ワタシはノーマネースタートなんだからそれほどお金は持って無いの。こんなちょこちょこ節約しないといつかお金が無くなっちゃうんだよ」

「それはボクもオナジなのですが……」
心強いのに居て欲しくない、正に未夜のスキルそのものである。
強いのに掛けて欲しくない。

「……マァ、これくらいはダシテあげますよ」

「やった!」

「ソノカワリ少し買い物やら武器の見直しに付き合ってクダサイネ」

「えー…… ホントはお昼寝したかったんだけどー…… まぁ、払ってくれるんだし良いか。ワンチャン買い物に付いて行ったら何かおこぼれ貰えるかもしれないし」
相変わらずの私欲丸出しの未夜。

まぁ、いいか とミケはこれ以上の未夜への叱咤は無駄だと感じて、二人で店を出ようとしたその時、
「お主ら」

「ん? ワタシたち?」

「うむ、猫二匹のお主らじゃ」
少し古風な感じの口調の者に声を掛けられる。
声を掛けられて未夜とミケは振り返る。

「ちょっと良いかお主ら」
そこには、朱い髪の毛をしていて、その色と同じ狼の尻尾と狼の耳を二つ頭に宿した少女がそこには立っていた。

見たところ同じ冒険者の様で、腰には長めの剣がぶら下がっていた。

「おやおやどうしました狼さん、まさかワタシ達を食べに来たのか? 人間の美味しい部位は脳みそらしいぞ」

「そうなのかや? って、食べぬわ」
勿論相手も冗談と分かってはいるだろうが、どうにも苦笑いな反応を示してしまうようだった。

「一つ聞きたいのじゃが、何処かで黒い髪の雌の子を見んかったか?」

「黒髪の女の子? 背とかは?」

「かなり小さい。幼女かってくらいの背で、わっちらと同じ冒険者じゃ」

「幼女、ねぇ……」
幼女な冒険者、そんな冒険者を見かけたら物珍しさも相まって、見たらすぐに覚えるだろう。

「ごめん、ワタシは見て無いや、三毛猫はどう? ………三毛猫?」
未夜は三毛猫に返答を求めたが一向に返答が返って来ず、不審に思って未夜が隣を見れば……

「かわいい……………」
どうやら狼の冒険者に魅了されて、目がハートになっていた。
だめだこりゃ。

「ミケも見て無いらしいね」

「そうかや……」
困った様に狼の冒険者はため息を付く。

「どったの? その幼女を食べようとしたけど逃げられちゃったの?」

「だからわちきは人を食べぬって。とは言え、逃げられたと言うのはあながち間違ってのうての……」
もう一度、狼の冒険者はため息を付く。そのため息は、まるで子を心配する親のようだった。

「実はの、その幼女はわちきのパートナーでの。少し前言い争いになってしもうて、それで『自分一人でもダンジョン攻略は出来る』と出て行ってしもうての」

「あー、成程」
納得したように言う未夜。
「となると、多分その子一人でダンジョン攻略しに行ったね、受付の人に聞いてみたら」

「そ、そうじゃの……」
一人でダンジョン攻略しに行った可能性も出てきて不安がこみ上げて来たのか、不安そうな顔をしながら狼の冒険者は受付へ行き、少し話しをした後、更に不安そうな顔で帰って来た。

「ダンジョン攻略に言ったそうじゃ…… わちきのパートナーの名前で外来のモンスター討伐クエストの受注があったそうじゃ」

「あー、ドンマイ」
一人でクエスト攻略に行って、おまけに未だ帰って来ない、これは明らかに何かあったと言う事だろう。

「頼む! 主ら、わちきとダンジョン攻略に行ってはくれぬか!」
パンッ、と両手を合わせて狼の冒険者は未夜達に頼み込む。

「報酬は全部渡しても構わぬ、じゃから!」
それほどこの狼の冒険者にとって、その幼女が大事なのだろう、尻尾を股にしまい込んでまでそう頼み込む。

が、残念ながら未夜はそれを突っぱねて、
「残念だけど今日ワタシらはオフだからそうゆうの「ハイイキマショウ!!」

と、未夜のセリフに被せて、今まで狼の冒険者に目を奪われていたミケが声を上げる。

「お友達のキキなんて放ってオケマセン! 一緒にタスケニ行きましょう!」

「本当かや!?」
ぱぁっ、と狼の冒険者の表情が明るくなり、冒険者はミケの手を取る。
その手を取られた途端、ミケの顔が赤く染まる。

「お主ら、よろしく頼むぞ!」

「えー、ワタシオーケーしてないんだけど……」
よっぽど休憩が欲しかったのか、全然乗り気では無い未夜。

「……ご主人、報酬全別け」

「よし行くか! ワタシが居れば大体の敵は片付くから!」
報酬を全て渡すとミケに言われ、速攻で掌を返した未夜。

「んじゃ、サクっと攻略と人探しに言って来よー! ……と、自己紹介まだだね。ワタシの名前は未夜、でそっちは」

「ミケです、三毛猫でもダイジョブです」

「うむ、未夜にミケじゃな。わちきの名ははアカネじゃ。主に剣と魔法を使える。俗に言う魔法剣士じゃな」
アカネは剣の柄に手を当ててそう言ったのであった。



「やっ!! そこ、逃がさぬ!」
見事な剣捌きて敵を倒し、逃亡を図ろうとした敵も炎の魔法で追撃する。

「いやー、凄い凄い」

「マホウもケンジュツも中々に出来ますね!」
パチパチと拍手を送る未夜とミケ。

因みにここまでの道中、ミケはともかくとして、未夜は全く働いておらず、道中で拾った猫じゃらしを装備してただただ見守っているだけだった。

「お主ら…… 少しは働いてくれぬかの……?」

「イチオウボクは働いてマスヨ? そりゃあ、アカネ殿のように強くは無いですが……」
と、言うよりアカネがあまりに活躍するので不死身スキルを活かしての特攻攻撃をする事が無いので全く活躍させてくれないと言った感じのミケ。


「ワタシは来たるべき時にしか働かないの」
実際フレクションはギャンブルスキルなので大事な場面でしか使わない方が良いのだが、それを知らないアカネは未夜の外見から働く気が無いと感じ、思わずため息と付く。

「こ奴らを誘ったのは失敗だったかや……?」
これでは一人と大して変わらない。そう思ってた矢先……

「っ!? アカネ殿!!」
ドンッ! とアカネを押すミケ。

「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴を上げて倒れ込むアカネ。
「いてて……」
頭をさすりながら立ち上がり、目を開けてみれば……

「~~~~~~~っっ!!?」
目の前でポタポタと血を流して倒れ込んでいるミケ。
どうやらアカネの死角から槍が飛んできて、ミケがそれを庇ったようだった。

そして、その槍は深々とミケの心臓を貫いていた。

「ミ、ミケ! ミケっ!!」
アカネは慌ててミケの体を揺さぶるも全く反応が無い。
「わっ、わちきは………っ!」

わちきのせいだっ! わちきが油断したばっかりに……っ!
アカネは恐怖に駆られ、更にミケの体を揺さぶる。

「三毛猫………」

「み、未夜っ! その、その………っ!」

「さっさと起きろー」
誤ろうとしたアカネを無視して、未夜はミケとアカネを引きはがし、深々とミケに刺さった槍をズボッと雑に抜いた。

「んじゃ、さっさとその幼女見つけて報酬総取りしちゃおうよ」
ミケが死んだと言うのにかなり呑気な未夜。

それを見てアカネは、
「……お主は金の事しか目に無いのかや?」

プルプルと震えながら拳を握るアカネ
「お主! 今目の前で仲間が死んだと言うのにそうゆう態度を「マッタクご主人は……」きゃあぁぁぁぁぁ!!?」

唐突に、かなり唐突に未夜とアカネ以外の声がして、可愛らしい悲鳴と共にその場で飛び上がるアカネ。

「オヤ、中々可愛らしい悲鳴のヨウデ」
勿論、その声の主はミケだった。

「な、は、え、は?」
確かに目の前で深々と胸を突きさされたはずなのに、ピンピンしているどころがケガの痕すら無いミケにポカンと間抜けな顔を晒してしまうアカネ。

「ソレニシテモご主人、幾らボクが不死身と言えど、少しくらいはヤサシク扱っても良いのでは無いですか? コレデモ痛かったんですよ?」

「どうせワタシに優しくされたところで嬉しく無いでしょ? そうゆうのはアカネちゃんにして貰ったら?」
そう言ってチラリとアカネを見る未夜。

その視線でようやくアカネは放心から脱する。
「ミ、ミケ! 大丈夫なのかや!?」

「ア、ハイ、ボク不死身なスキルの持ち主デスノデ。ですから基本ボクがヤラレル事はシンパイしなくても大丈夫ですよ? あ、でもボク的には少しくらい心配して欲しいんですけど、ドウデスカ?」

「……………………」
正直、どう返答すれば良いか分からないアカネ。
不死身何て、そんなの普通あり得るはずも無い。更に今さっきまで本気で死んでいたと思って居た相手が死んでいなかった衝撃も大きく、誰もアカネが返答に困ったことを責める事は出来ないであろう。

それを分かってか、それともそうゆう反応に慣れているのか、深いため息を付くミケ。

「マァ、ソウデスよね……」
その表情はかなり複雑そうであった。

「ほらほら、行くよ二人ともー」

「ハイハイ、今行きますよ。アカネ殿も」

「う、うむ……」
未夜の後を追うミケとアカネ。

「ホント、ご主人ハザッパリしてるな…… ボクとしては嬉しいのですが」

「…………」
ポツリと小さい声でミケがそう呟いたのを、アカネは聞いたのだった。



「うぉあぁぁぁぁぁ!!!?」

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!?」

「ムリムリムリムリ!!!?」
三人とも全員叫んで全力疾走をする。

「何であんな大きな岩が転がって来るんだよおかしいだろ!! 三毛猫、ちょっとアレ止めろ!」

「ムリですって! ボク腕力ホボ無いというか腕力在ってもムリデスッテ!」

「言い争う暇があるのなら全力で走るんじゃ!!」
一本道を歩いている途中、何故か唐突に道を塞ぐ程の岩が転がってきて、全力で元来た道を後退する。

「これさ! ワンチャンアカネちゃんの相棒生きて無い説あるんだけど!」

「その前にわちきらが生きれない説もあるんじゃが! と言うか不吉な事を言う出ない!」
未夜にそう言われて、一瞬アカネの脳裏に相棒の安否の心配が過ぎったが、ゴロゴロと音を立てて転がる岩の音を聞いて、そんな心配も一瞬で消し飛んだ。

相棒の心配よりも自分の身を心配するのは、この場合では仕方のない事であろう。

「とイウカ岩のスピード早くなってませんか!?」

「あー、結構坂が急になってるからね…… これこのままだと潰されるね」
冷静に未夜がそう分析する。

冷静に言っとる場合か! とアカネが未夜に言おうとしたが、それより早く未夜は少し唸って、
「しょうが無い…… 三毛猫、『フレクション』使うからアレ壊しに掛かって」

「なぬ!?」
壊しに掛かって、確かに未夜はそう言った。

もしかしてこの状況をどうにか出来るのか!?
そう期待の眼差しで未夜を見たが、

「アー、多分無理デスネ……」
少し諦めがちな声でミケは言う。
「タブンボクが攻撃する前にプチって潰れますね」

「あー、運動エネルギー乗ってるもんね……」
その意見に未夜が納得して、この場に諦めたような雰囲気が漂う。

「勝手に期待させてその言い草は何じゃ!?」
もうダメなのかと少し半泣きになりながらアカネは言う。

「……って、そうじゃん、アカネちゃんが居るじゃん!」
そんなアカネを見て、未夜は言う。

「アカネちゃん、あの岩に何か魔法撃ち込んで。岩が壊せそうなヤツなら何でも良いから」

「あ、あの岩をじゃと?」
そう言われてチラリと後ろの岩を見る。
「いやいやいやいや! アレは無理じゃろ!!」

「あーもう! 爆発系の呪文でも何でも良いから!」
そう早く打てと急かして来る未夜。

「う、うむ! とにかくアレに撃ち込めば良いんじゃな! それで良いんじゃな!!」
もうそれ以外どうしようも無いと割り切り、アカネは岩に魔法を放とうとして、

「あ、魔法放つなら321の合図で撃って!」

「う、うむ!」

「んじゃ、行くよ! 3 2 1!」

「『ボマーアクション』!」
そうアカネが爆発系の技を撃つよりも少し早く未夜は、
「『フレクション』!」

それは何なのだとアカネが思うよりも早く、

ドオオオオオオォォォォォォォン!!!!!

と、明らかに洞窟内で響かせてはいけないような轟音が響き渡る。

「わ、わ!!」

「ウワ!」
衝撃で足元が揺らいで転んでしまう暁音。

「な、何じゃ……」
幸いケガは無いようで、砂煙止まない中でアカネは立ち上がろうとして、ふと、体に違和感と言うか、ヤな感触が、正確には体を触られているような感触が……

「イテテ…………」
ミケもどうやら転んでいたようで、どこからか声が聞こえる。と言うか、アカネの下から聞こえるような……

「……………………ン?」
その内、段々と砂煙が晴れ……

「……………………」
もにゅ、もにゅ と、起き上がる途中の四つん這いのポーズで止まっているアカネの下に居るミケがアカネの胸を揉んでいた。

「…………~~~~~~~~~っっ!!」
バッと起き上がろうとしたアカネであったが、慌てた為かズルっと再び足を滑らして、

「きゃっ!」

「ワッ!」
ドンッ、と再びミケに倒れ込むアカネ。
そして……

「~~~~~~~~~っ!(むぐむぐっ!)」
嗚呼、これが定めとでも言うのか、丁度良くアカネが倒れ込んだ拍子にアカネの胸がミケの顔を覆い、もごもごとアカネの胸に顔を埋めたミケが何かを喋る。

「~~~~~~~~~~ミケぇぇぇぇぇっ!!?」

「ケホッ…… イッタイな」
再びバッとアカネは立ち上がる。
そして視界が晴れて状況を確認しようとするミケの言葉を遮って、

「こも変態ネコが~~~~っっっ!!!」

「茶トラ猫ーーーーっ!(猫の種類)」
ザクッとアカネの剣で刺されるミケ。

「はぁ、はぁ…………」
羞恥か怒りか定かでは無いが、真っ赤な顔で荒い息をするアカネ。

ここだけ見るとついカッとなって仲間を殺してしまった殺人現場であるが、ミケは死なない為何も問題は無い。

「……………………む? 未夜は何処かや?」
アカネはそこそこ冷静になって、ふと未夜の姿も声も無い事に気付く。

キョロキョロと辺りを見渡して、何処かに居ないか辺りを探ろうと辺りを歩こうとしたアカネであったが、再び何かに足を取られたように躓くアカネ。

「きゃっ!?」
三度ドサッとアカネは転んでしまう。

「な、何故こんなに転ぶのかや!?」
何だか立ち上がるのが怖くなって、上半身だけ起こしながらアカネは言う。

「イテテ……ソレはタブンご主人の『フレクション』の原因でしょうネ」
突き刺さった剣を抜きながらミケは起き上がる。

「フ、フレクションじゃと?」

「エエ、ご主人のスキル『フレクション』です。対象を異常な程キョウカする代わりに悪い効果も付くと言うワザです。

今回は『魔法の威力が凄い増す』効果と、きっとデメリットで『異様に転びやすくなる』効果でも付いたのデショウ」

「な、何じゃそのギャンブルスキルは……」
つまり、未夜のせいで助かったと同時にあんな不幸が起きてしまったという事かや……

取り敢えずお礼に未夜を一発殴りたい気持ちになるアカネ。
「って、そうじゃ、未夜は何処じゃ?」

「アレ……、ドコデショウか………」
アカネに言われてミケも未夜が居ない事に気付き、辺りを見渡すがやはり未夜の姿は見つからない。

「爆風でドコカニ飛ばされた……? ア、もしかしてあの下に?」
そうミケが指差すのは、丁度穴の開いた場所であった。

もしかしたら運悪くあの穴に落ちてしまったのかも知れない。
「チョットご主人一人はマズイですね…… 急いで下へ降りて行きましょう。

そう言って先へ進もうとするミケだったが、
「ま、待つのじゃ! わちきは今歩いからコケるデバフが付いておるのじゃろ!? わちき歩けぬのじゃが!!」

何度も何度も転んでいては体力が持たない上に、時に大事になり兼ねない。
そう言う意味ではアカネが歩くのは余りにも危険すぎる。

「そうですね…… デハ、仕方ありませン」

「え、ど、どうするんじゃ……?」
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ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

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