彼の隣に私は似合わない

うさみ

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6月

非常事態と文化祭-02

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無事実行委員が決まると、クラスの企画は裕太と李雪の元スムーズに進んだ。


飲食店や模擬店、お化け屋敷などの体験系、劇の4種で、それぞれクラス数が決まっている。

上の学年から選べる形なので決定ではないが、それぞれに2つずつほど候補が決まり、どれになっても誰も異議なしという形で1時間が終わった。




「誰も文句言わずに決まったようでよかった。これからも基本的に宮下、矢上、三芳、真山の4人を中心に進めるからそのつもりで。お前らちゃんということ聞けよ?じゃあ終わり、号令無しでそのまま休み時間な」



先生が出ていったのを確認して李雪の元へ駆け寄る。



「李雪ありがとう、多分私だったらこんな風にはまとめられなかった」


「鈴乃が準備してくれてたからだよ、私は…鈴乃みたいにしっかりしてないから。だからそういうところ尊敬してるの」




そう、彼女の素直なところが嫌いになれないのだ。


たとえ、私の彼裕太を私からさらってしまうかもしれない存在であっても。



「りゆすき…」



表しようのない気持ちを抱擁で逃がす。

彼女は少し肩を強張らせたが、しばらくすると彼女も力を込めてぎゅっとしてくれた。




「鈴乃珍しいな、前まで人とベタベタするの好きじゃなかっただろ?」



隣で裕太が声を上げた。



「…それくらい好きが溢れたの、それくらい李雪がかわいいの」



「…李雪は誰彼構わず抱きつくよな、わりと」



今度は恭介くん。少し拗ねたような言い方に聞こえた。



「誰彼構わずなんかじゃないもん!勝手なこと言わないのー」



「はいはい、ごめんな。ふたりともいつまでもくっついてないで授業の準備しろよ?」



ふたり揃ってはーいと返事をして離れる。



「そうだ鈴乃、これなんだけど…」



これを指すのは、予め渡されていた文化祭についての学級委員用の要項が纏められたプリントだった。



「ちょっと待って、先にロッカーだけ行きたい」



次は数学だから教科書はロッカーにある。



「わかった、俺も行く」







まだ6月ではあるが、最近はよくある異常気象でなかなか暑い。

廊下に出ている人も少ない。

少しでも早くエアコンの効いた教室にみんな戻るのだ。



「クラス成績1位の鈴乃が教科書持ち帰らないって知ったら他のやつら怒るぞ」


ロッカーに体を預けて恭介くんが言う。

ロッカーは金属だから少し冷たい。涼をとっているのだろう。



「お兄ちゃんがもう使わないやつ家で使ってるからいいの。」


「へぇ、お兄さんいるのか」


「この学校の1個上にね」



あまり物を入れていない私のロッカーではすぐに欲しいものが見つかる。

目当ての数学の教科書を取って扉を閉める。



「それよりさっきの聞きたいことって嘘でしょ、
本当はなに聞きたいの?」



少し高めの位置にある目を見つめる。



「俺、鈴乃に隠し事とかできないな、すぐバレる」



「表情筋は働いてないけど、目とか雰囲気に出るから恭介くんはわかりやすい。それに隠し事も嘘もしないから得意じゃないでしょ?」



「…そういうところだろうな」



何人か見かけた他の生徒もみんな教室へ入ってしまい、廊下には私達だけ。

教室内の声も遠くに聞こえるくらいにしんとしていた。



「俺も気づいたよ、違和感。答えも見つけた」




違和感の言葉であの日の動悸が蘇る。



「それって、」



その問いかけにチャイムが重なった。



「またあとで、な」



私の左手を掴み教室に入っていく。


席をつく前に離されたそこにはまだ熱が残っていた。
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